「能」には、別格の「翁(おきな)」という演目がある。
これは特別な時しか行われない儀式のようなもの。
一人でセリフもなくて演ずる。
通常に行われる能は、仮面をつけた演劇で、
主役(シテ)の違いによって5種類の番組に分けられている。
神・男・女・狂・鬼(しんなんにょきょうき)という。
主役(シテ)が神様である物が「脇能(わきのう)」と呼ばれる。
「高砂」は脇能である。
演劇といっても物語性はほとんど無く、脇役(ワキ)の僧あるいは神官が旅の途中で出会った相手が、実は神様であることを告げて一旦は姿を隠し、後段で神の姿で現れ、神舞を舞い、平和に治まる御代をことほぐというのが大体のパターン。
つまらないといえば、つまらないが、主役が神様だけにぞんざいに扱えない。
「高砂」の作は世阿弥。
舞台設定には凝っている。
「自然信仰」が伝統の神様が主役で、「祖霊信仰」の日本神話にもとづいている。※
脇役(ワキ)は、阿蘇神社の神主であるが、旅の道程は、初代天皇の神武東征のルートをなぞっている。
①⇒②、③⇒④、
さらに、第14代天皇・仲哀天皇の皇后である神功皇后※2 の三韓征伐に由来があるところが、4カ所もでてくる。
②、③、⑤、⑥

①阿蘇神社 神武天皇の孫神で阿蘇を開拓した健磐龍命(たけいわたつのみこと)をはじめ家族神12神を祀り、2000年以上の歴史を有する古社。
②高砂神社 ご祭神は、大己貴命(おおなむちのみこと)。神功皇后が外征のとき、大己貴命の神助を得て敵を平らげられた。帰国の途中、この地に船を寄せられ、国家鎮護のため、大己貴命をまつったのが高砂神社の起源。
③尾上神社 神功皇后が三韓征伐の際に、この地に上陸したが長雨のために船を進めることが出来なかったため、「鏡の池」で潔斎沐浴して晴天を祈願し、住吉大明神を勧請したことが起源。
④住吉大社 住吉大社の祭神は、伊弉諾尊が禊祓を行われた際に海中より出現された底筒男命・中筒男命・表筒男命の三神、そして鎮斎(神おろし)の神功皇后
⑤生きの松原 壱岐神社の周辺の松原、地名は神功皇后が新羅遠征の際、戦勝を祈って挿した松の枝が根づいたという伝説による。
⑥檍が原(あをきがはら)あるいは、阿波岐原(あわきがはら) 伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が黄泉の国から帰り、檍が原の海で禊をすると行う底筒男命・中筒男命・表筒男命の三神が現れた。
※2 神功皇后は、別名を気長足姫尊(おきながたらしひめのみこと)といい、地元の松波神社の御祭神。
※ 「能」は、
・自然信仰、祖霊信仰がもとにあって、神官が神々をまつらい、五穀豊穣、国土安寧、天下泰平を祈念する儀式が基本。
・加えて人々に楽しみを提供する演劇としたもの。
・「翁」が儀式、「脇能」が準儀式、その他の演目が演劇。