犀川の河川整備を考える会

犀川の辰巳ダム建設を契機に河川整備を考え、公共土木事業のあり方について問題提起をするブログ。

辰巳ダム裁判>治水ダムは災害発生装置になる(地すべり5)

2013年06月27日 | 辰巳ダム裁判
 辰巳ダムは、当初、多目的ダムで利水と治水の目的があった。利水機能分のダム容量は既存のダムと交換して、治水専用のダム、いわゆる穴あきダムとなった。(ただ、利水はダムを造るためにこじつけたもであるが、)

 そもそもダムは本来、水瓶である。辰巳ダムのように治水の目的だけにダムを造るというのは鬼っ子であり、本来は禁じ手みたいなものだ。よほどの特殊な事情がなければ造られない。ところが、日本ではこれがダム目的の主流になりつつある。発電や利水の目的でダムを造る時代ではなくなったからだ。

 治水のためのダムというのは緊急避難的な暫定措置といった性格のものである。なぜなら、「利水目的」では、水不足を補うために水を貯めるダム以外の代替案はないと考えても間違いないが、「治水目的」では、河道拡幅など代替案が複数あるのが通常であるからである。

 半世紀もかかるといわれる河道整備などの方法では、時間的な余裕がなくて間に合わないなどの条件がある時の緊急避難措置が治水ダムである。犀川には、すでに犀川ダム、内川ダムと2つの治水ダムが整備されており、緊急性はない。

 河道整備を着実に進めればよかったのである。昭和53年に中流の整備を終えて、昭和54年から下流の整備を始めたが、本気で取りかかれば、おおよそ20年後の昭和74年ころには終わっていたはずである。辰巳ダムに拘泥して、平成24年(昭和87年)までかかってしまった。犀川下流の河道整備をいまだにやるはめになっている。

 治水目的のダムは、防災システムの一環として計画されることになるが、洪水防止という防災のためにダムという手段を取ることによって、別の「地すべり」という災害の発生の危険性が出て、別の防災対策が必要となるという矛盾にぶつかる。

 この「(ダム湛水による)地すべり」災害には二つの特徴がある。
 一つは、湛水に起因するダムサイトの斜面崩壊という災害、
 もう一つは、湛水に起因するわけではないがダムに湛水されていることで被害が拡大する下流地域のダム津波という災害である。

 マニュアルには、「湛水に伴う地すべりの滑動には初期湛水時に発生するものと、ダムの管理段階で発生するものがある。前者は貯水池斜面が初めて水没するときの反応であり、後者は貯水位が繰り返し変動しているときの反応である点が異なっている。このため、地すべりの監視・計測は、単に試験湛水時にとどまらず、ダムの管理段階においても引き続いて実施しなければならない。」(161ページ)とある。試験湛水で初期の反応はわかっても、稼働後の貯水位が繰り返し変動するときの反応はわからない。マニュアルを前提とすれば、運用してみて、想定する豪雨が実際に発生した場合でなければ地すべりの安全性を確認することはできない。

 辰巳ダムでは、昨年、半年かけて試験湛水が行われた。幸いに地すべりの兆候は見られなかった。辰巳ダムの試験湛水では、満水に1ヶ月以上かけ、満水状態から3ヶ月以上かけて空にしている。しかし、貯水位の低下は最大でも1日に1mにしか過ぎない。ところが、実際の運用では満水状態から空になるのは19時間(石川県の試算)と非常に短い時間である。試験湛水ではおよびもつかない急激な水位低下が起こる。

 急激な水位低下により、土中の残留水圧のため斜面が不安定になる。石川県による安定計算では、R/D比の低下量が5%未満であり、対策工は要らない(すべらない?)と判断しているが、地すべり発生がないとは保証されているわけではない。
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辰巳ダム裁判>リスクマネジメントということ(地すべり4)

2013年06月26日 | 辰巳ダム裁判
 県が依拠するマニュアル「貯水池周辺の地すべり調査と対策」には、リスクマネジメントの考えはない。ところが、被告証人は、リスクマネジメントの考え方を持ち出して、これを根拠に国と県の主張に同意したものだ。

 なぜ持ち出したかというと、原告がマニュアルの記載について批判したことに対して反論するためである。マニュアルには、地すべり土塊の安定計算において、現状のR/D比(抵抗力と滑動力の比)を1.0と置いて、湛水の影響を入れて計算した結果が0.95以上、つまり、安全率低下が5%未満であれば、地すべり土塊が動く心配はなく、「対策工は要らない」と記載されている。この考えは、多くの実例から求めた経験則によるものである。

 原告の主張は、動く可能性は残っている、特に大規模で深いすべり面をもつものは、滑り出してから対策できないので少なくとも1.0を回復させる対策は不可欠だというものである。

 ところで、「リスクマネジメント」とは、リスク(不確実性、先が分からないこと)をマネジメント(管理)すること、あるいはリスクの調査・評価を行い、適切な措置を講じる一連の流れのことである。

 リスクは、不確実性の中で統計的に考えられることが出来る、交通事故、台風の直撃など、ここでは地すべりの発生を対象として求めた「発生確率」と、その事象発生による「影響の大きさ」を掛け合わせたものと定義される。

 地すべりに関して、大リスクは回避する(構造物を造らない、立地場所を変更するなど)、中リスクは対策して対応する(地すべり対策を講じるなど)、小リスクは許容する(何も対策しない)ということになる。

 被告証人は、R/D比の計算から0.95以上だから、L3ブロックが動き出す可能性はごく小さい、つまり「発生確率」はごく小さいのだから、「影響の大きさ」を掛けた「リスク」は小さいので「何も対策しない」という結論になる、といいたいようだ。

 ところが、発生確率がごく小さいといってもゼロではない、そして計算もされていない(難しい)、影響の大きさも計算されていない。湛水時の地すべり発生災害の「影響の大きさ」、「発生確率」も評価されておらず、小リスクであることが立証されていないのである。リスクマネジメントの観点から、対策工なしと評価することはできない。

 マニュアルを作成にかかわった国は、マニュアルに沿って計画されたダム153例ですべった例はないと主張している。これも、あまり説得力はない。「最近の限られたデータであるということだ。ダムは半永久的な存在である。十分な時間の長さで安全性を確認するべきだ。」(原告証人の弁)

 結論。鴛原(おしはら)超大規模地すべり地は、安定計算でR/D比低下が5%未満であり、マニュアルによれば「対策工は要らない」と被告は主張している。しかし、リスクマネジメントの観点からは、リスクがあるにもかかわらず、リスクを無視(対策工なし)しているのは、住民の安全を軽視して、防災手段の経費節減で経済性を優先していると言うことになるのか。
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辰巳ダム裁判>瀬領の受け盤地すべり(地すべり3)

2013年06月25日 | 辰巳ダム裁判
 犀川を挟んで、鴛原超大規模地すべり地の対岸に瀬領というところがある。鴛原の地層にはすべり面となる弱層があると判断されているが、地質学的にはこれに連なる瀬領の地質にも同じような地層にもあると考えられている。鴛原と瀬領の間を流れる犀川の下刻作用で川底が削り取られて渓谷ができた。渓谷に面している瀬領地区はすべり面(弱面)と斜面の勾配とは交差する(受け盤)ので、すべりにくいといわれる。県の調査では過去にすべった形跡はなく、地すべり地形ではないという。

 しかし、鴛原と同じく風化岩で形成され、多く発生する亀裂から土塊が分離して地すべり性崩壊が起きる可能性があるという。土塊の崩壊のスピードは典型的な地すべりに比較して早い。対策がよりむずかしい。

県は、過去に地すべりが起きていないと判断しているが、県の指定した地すべり危険箇所にも接しており、隣接して地すべり地形もあり、近接した下流で大規模斜面崩壊(平成20年)も起きている。

 過去にすべった形跡がないところで、初めて発生する地すべりは「初生地すべり」という。少なくとも既存の河床よりも深いボーリングをするなどしてすべり面の調査、すべった形跡がないかを調べることもされておらず、調査が不足している。初生地すべりの検討もしておくべきではなかったか。

 瀬領地区には、人家が10数軒密集している。住民の安全が第一ならば、初生地すべりの検討が必要なはずであり、調査不足は住民の安全の大原則に反している。

 地球上のものはいずれ崩壊するのだという。いずれ崩壊するということは地質学的な時間の経過で発生するものであり、住民の生活にかかわる時間の経過とは無縁である。ところが、崩壊を促進して地質学的時間を進めるダム湛水は、瀬領地区住民の安全を脅かし、永久に負の遺産でありつづけることにならないか。
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辰巳ダム裁判>鴛原超大規模地すべり地(L3ブロック)(地すべり2)

2013年06月24日 | 辰巳ダム裁判
 鴛原の地すべり地が超大規模というのは、その体積の大きさからきている。地すべり地の規模をおおよそつぎのように想定した。
平均長さ700x平均幅150×平均深さ50=525万立方メートル
 200万立方メートルを超えると日本の基準では超大規模と判断される。

 石川県は、この地すべりブロック(L3ブロック)をいろいろと検討するうちに、2つに分けることにした。ポイントは、2つに分けること、一応は全体一つでも検討しているが2つに分けた、小さいブロックで考えておけば、一つの場合の安定度もカバーされる。そこまではよかったのだが、3つ,4つに分割されるなどの想定されるいくつかのケースをよくわからない理由を根拠にして否定した。

 2つの分割しか考えられない、それ以外はないと頑張った結果、石川県による地すべり報告書は、つっこみどころ満載となった。例えば、L3-2ブロックのすべり面形状は階段状の特殊な形になった、L3-2ブロックがすべった後のギャップ(谷地形や滑落崖)がない説明ができない、泥岩層をすべり面としたが、縦断ではそのとおりだが、横断ではまったく泥岩層がすべり面となっていない矛盾などあげればきりがない。これらを原告が延々と指摘するので逆につまらないことばかり指摘すると原告の印象が悪くなりかねないといったところである。

 原告の指摘に対して、被告である国と県の反論を一言で言うと、
「観察事実による結果」だということだろう。ボーリング調査などの結果を子細に検討して、地すべりが起きて剪断された痕跡などから、このすべり面を見つけたのだから、これが答えでこれしかないというのである。
 これに対して、原告の指摘を一言で言うと、
「限られたボーリングデータで判断するのだから、(これだと一つの結論だけにするのは無理で)合理的に判断できる複数の想定」をできるだけ検討すべきだというものである。

 常識的に考えると、合理的と思われる範囲でいろいろなケースを想定して検討しておいた方が後々心配ないよいような気がするが、国と県は、絶対2つの分割しか考えられないと譲らない。そこまで頑張らなくてもと思うが、どうも頑張らなくてはならない、県の事情があるようだ。

 L3ブロック全体を一つ → L3-1とL3-2と2つに分割
 このケースは、L3ブロックよりも小さいL3-2ブロックがダムの湛水の影響を受けて土塊が不安定になりやすい。L3-2ブロックの安定度を検討することが、安全側の検討ということになる。
 一方、
 L3-2ブロック → さらに複数に分割
このケースは、ダムの湛水の影響を受ける、小さい末端ブロックの土塊が不安定になりやすい。にもかかわらず、この小ブロックの安定計算をしないで、L3-2ブロックだけの安定度を検討することは、危険側の検討しかしていないということになる。
住民の安全を強調している事業者としては、これはまずいのである。絶対に、L3-2ブロックはさらに分割できないということにしなければならないのである。

 もともと、平成4、5、6年までの石川県の調査報告書では、末端地すべりの検討がされて対策も示されていた。末端では湛水の影響を受けて安全度が著しく落ちるので対策せざるを得ない。ところが、平成10、12年の調査報告書から、末端地すべりはまったく記載がなくなり、対策もなくなっている。平成14、15年の学識経験者による河川整備検討委員会、流域委員会でも地すべりに関する議論はまったく行われていない。

 前回も言及したが、事業者としては地すべりのリスクを封印したかったのだろう。
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辰巳ダム裁判>末端地すべりのこと(地すべり1)

2013年06月22日 | 辰巳ダム裁判
 辰巳ダム湖の中央に接する「鴛原超大規模地すべり地(L3ブロック)」の地すべりについて、核心的事項はどうも末端地すべりのことのようである。

 大規模な土塊がいきなり動き出すと言うよりも、部分的に崩れたり、動いたりして、土塊のバランスが崩れ、これが地中全体に波及して、いずれ地すべり土塊全体が動くと考えるのが一番自然なようである。

 となると、末端地すべりの小さな土塊が崩れて不安定にならないように対策するというのは不可欠でもあり、その対策も比較的容易と考えてもいいだろう。少し大々的に考えても抑え盛土による対策であれば数千万円といったところだろう。

 ところが、民間企業の現実的な対策工事と違って公共工事となるとそう簡単ではない。当事者の地元住民ばかりではなく、いろいろな人たち(税金で行われる工事だから、国民全部か)からいろんな意見がでてうまく対応できないとどんどん問題が拡大する。担当の職員は大変である。「左翼の野郎が好き勝手なことをいいやがって」などとツイッターで愚痴をこぼしたくもなろう。

 どうも、辰巳ダムの鴛原超大規模地すべり地(L3ブロック)の対応でもそのようなことが起きたようだ。事業者である石川県の内部でも、対策派と対策無し派と対立があり、結局は対策無し派が抑えて、対策無しとする方向にしたということを風の噂で聞いたことがある。

 対策無し派にしても、小規模な末端地すべりの対策は容易であり、適当な規模の費用を見込みたかったはずである。しかし、L3全体では大規模であるので様々な意見を入れて検討を進めると懸念が拡大し、最終的にはダムの是非の問題まで発展することを恐れたのかもしれない。代替案の費用比較検討の際、ダム案には地すべり対策費用を入れずに見積もり、ほかの代替案と比較して費用も安価であることが最終的にダム案に決めた有力な根拠としている。地すべり費用を見込めば、ダム案が不利になる懸念があったのである。

 平成4,5,6年の石川県作成の報告書では、末端地すべりを検討して、安定計算を対策工、費用まで出している。この図面は、今回の証人尋問でも示して、石川県が当時は、末端地すべりの問題を認識していたことを確認している。ところが、4年のブランクがあり、平成10年の報告書では、末端の地すべり想定面は削除され、削除した理由も記載されていない。

裁判で被告は、末端地すべりは起きないと主張し、理由を2点あげている。
「地すべり土塊の末端の崖地が長期にわたって地形の変化が見られないこと」、
「土塊の地質の性状が一様で特に劣化してないこと」である。
本件の地すべりは数百年それ以上の歴史があるから、数十年のスパンでは変化がわからない、抽象的で具体的な根拠にならないのであり、理屈にもならない理由である。

石川県が依拠するマニュアル「貯水池周辺の地すべり調査と対策」には、風化岩地すべりでは「側部、末端で二次的な地すべりが発生する」と明記されている。どんなことをいわれようが、将来の大きな懸念を払拭するために、末端地すべり対策はやっておくべきだった。

 水俣病の有機水銀中毒問題を思い出す。無機水銀を放出していた「日本チッソ」は当社の無機水銀が原因ではないと主張していた。自然界で無機水銀が有機水銀に変わることはないという説を信じていた。しかし、懸念もあった。もしかして有機にかわるか。絶対無いとして対策しなかった。宇井純は、後年、チッソが水銀除去対策をしておれば被害はかなり小さくなったはず、費用は数百万円でできたと語ったという。鴛原超大規模地すべり地でも、昔、わずかな対策をしておけばよかったと悔やむ時が来ないことを願うばかりだ。(つづく)
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