読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

今野敏の『キンモクセイ』

2022年04月07日 | 読書

◇ 『キンモクセイ

   著者:今野 敏   2018.12      朝日新聞出版 刊

   

    今野敏のお得意分野警察小説である。本の帯には本格的「警察インテリジェンス小説」
とする。
 警察インテリジェンスとしたのは、主人公である警察庁キャリアの隼瀬順平がある事件
の処理と推移に不審を抱いたことに端を発した日米の情報機関連携の闇を扱っているから
である。

 法務省の官僚が射殺され、犯人は白人の外国人と目されたが、アメリカ人かロシア人か。
警察庁警備企画室の課長補佐である隼瀬は上司からチームを組んで対応しろと命じられる。
公安の元締めを任じる警備企画室としては警視庁公安部外事1課、同3課から情報入手し
ようと待ち構えていた矢先、警視庁の捜査本部縮小、外事1と3課が事件から降りたこと
を知り、この事件はただ事ではないと直感する。同じ課の課長補佐水木も同じ感触を示し
た。

 隼瀬はキャリアではあるが主流の東大法学部と異なり私学出身のため、出世にはあまり
関心はない。同時期に国家公務員第1種試験に合格し各国家機関に採用された私学出身者
が寄り集まって情報交換などする「土曜会」で自身の不審感を持ち出すが、メンバーの5
人それぞれが関心を示し、互いに情報収集を約す。警察庁隼瀬のほか外務省、防衛省、厚
労省、経産省のそれぞれ課長補佐クラスである。   
 法務省幹部は死の前に「キンモクセイ」という言葉を口にしていた。何かのコードネー
ムか。

 そうこうするうちに隼瀬が情報入手を依頼した2年後輩の警視庁刑事局刑事企画課の岸
本警視が自殺した。他殺の疑いがある。「土曜会」メンバーらの情報などから「キンモク
セイ」というコードネームが広汎な盗聴・傍受システムの構築を意味し、事は日米安保条
約、日米合同委員会、国家安全保障会議、特定秘密保護法、改正組織犯罪処罰法、アメリ
カ国家安全保障局(NSA)などに及ぶきなくさい背景が浮かんできた。
 業務外の事件に深く関わっていくことに罪悪感を持ちながらも「国家公務員の職務は国
家ではなく国民のために」を胸に新聞記者、政治家などの手を借りながら真相に迫る。
 全般はスピードはのろいが、次第にTV の「逃亡者」のようなシーンが展開されて面白み
が出てくる。終盤でちょっとドラマチックな場面もある。

 なお余計なことではあるが、この小説の構成上必要があってのことと思うものの、国家
公務員試験は採用資格試験であって、同時期に採用されたキャリアを各省庁毎に私学出身
という属性で調べ出さない限り、「私学出身の同期会」といった密接な関係は生まれる余
地はないと思う。

                          (以上この項終わり)
 
 
  

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