◇ 『霧をはらう』
著者: 雫井脩介 2021.7 幻冬舎 刊
読み初めた当初は単純な法廷ものかと思ったが、事件が複数殺人のため裁判員裁判
なり、国選弁護士の一員となった伊豆原柊平が状況証拠を丹念に拾い集めてい く内に
事件の冤罪性を 確信して行く。そして真犯人の姿がおぼろに見え始め、終盤で一挙に
犯人さがしの結論と犯行の真相が明かされミステリーとして完成する。
刑事事件で無罪を勝ちとることが如何に困難なことか。検察の勝率9割9分という日
本の司法制度の中で物証なしの立証で無罪を勝ち取るという奇跡的結果は小説の世界
とはいえかなり甘いのではと言わざるを得ない。
被告人小南野々花は娘2人の母である。下の娘中3の紗奈が腎炎で入院しているが
同室の小児科患者2名が死亡し、点滴内にインスリンを注入されたのが死因とされた。
付き添いの家族間でちょっとしたトラブルがあってその当事者小南が有力な容疑者と
され逮捕・起訴された。長女の高3の由惟は母ならやるかもしれないと思っていると
ころが厄介である。
中段、被告の二人の娘と伊豆原ののやりとりは、結論とも深く係わってくるので理
解できるが、度々二人の食事を作ってやるとか、中3の沙奈の勉強を見てやるとか、
国選の弁護士がそこまでやるかという不自然さが残る。また真犯人の犯行動機がいま
いち弱い気がしてこれが気になる点である。
(以上この項終わり)
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