◇『元彼の遺言状』
著者:新川 帆立 2021.1 宝島社 刊
このミステリーがすごい大賞受賞作「三つ前の彼」を加筆・集正した作品。
強烈にキャラが立つ女性弁護士が主役で、しぶとさあり、あざとさあり、やや
攻撃タイプだが結構優しいところもあってハードボイルド女性版と言ってよい。
企業法務弁護士らしいアイディアで複雑な社内関係、人間関係を捌いていくと
ころが見もの。
著名な渉外系弁護士事務所で弁護士をしている剣持麗子28歳。事務所創設者
に「ボーナスが少ない!」と啖呵を切って、辞めてやると息巻いて休んでいる
ところに仕事が舞い込んできた。
元彼の森川栄治が亡くなった。大会社の御曹司で巨額の遺産について変わっ
た遺言状を書いていたということで、栄治と交友があった篠田から相談を持ち
掛けられた。
ちょっと調べてみると栄治の資産は300億円、その半分を成功報酬としても
らうとなると150億円の仕事。俄然意欲がわいてくる。
ところがこの遺言状が変わっていた。
第一の遺言状。
僕の財産は、僕を殺した犯人に譲る。犯人の特定は別途定める3人の審判員
の合意による。3か月以内に犯人を特定できない場合は、遺産は全て国庫に帰属
させる。僕が何者かの作為によらず死に至った場合も、遺産は全て国庫に帰属
させる。
そして第二の遺言状。
それは「僕を支えてくれた人たち」と栄治が思っている人たちへの遺贈であ
る。森川一族のおじさんなど。そして小・中・高・大学の先生や、ゼミ、クラ
ブの人たち、僕の元カノたち(わずか3か月であったが、付き合いがあった麗
子もこの元彼女のリストに上がっていた)美容師、愛犬の主治医、ブリーダー
などにそれぞれ特定の土地・別荘などを遺贈する。
栄治の死因がインフルエンザであることを死亡診断書で確認した麗子は篠田
の代理人として森川家に乗り込み、インフルエンザにかかっているにもかかわ
らず栄治誕生パーティで彼と会食し感染・死亡させた篠田は殺人実行犯である
と主張し、まんまと犯人候補者筆頭に収まった。
しかし事はそうすんなりとはいかない。
森川製薬の開発課長である栄治のいとこが新薬開発のために組んだベンチャ
ー企業と共同で創薬したマッスルマスターゼットというシニア向け筋肉補助薬
の行方を巡って暴力団が関与していることが明らかになったり、村山という栄
治の顧問弁護士が殺されたり、事態は混迷の度を強めていくのであるが、警官
相手に大立ち回りをやったあげく結局警察の拘束される事態を迎えることに。
一度は対立関係に陥った所属事務所大御所に弁護を依頼し、無事娑婆に出て
事案をうまく収めることができた。弁護料は一銭も入らなかったけれども。
女性弁護士剣持麗子のキャラは貴重なのでぜひシリーズ化して欲しい。
(以上この項終わり)
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