読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

川口俊和の『コーヒーが冷めないうちに』を読んで

2016年09月27日 | 読書

 『コーヒーが冷めないうちに』
  著者:川口 俊和 2015.12 サンマーク出版 刊

  

      2016.5時点で23刷という結構な売れ行きの本。28万部突破、ベストセラーであ
  る。
   もとはと言えば舞台作品。それを本にしたという。

  「ここに来れば、過去に戻れるって、ほんとですか?」清川二美子は不思議な噂を
  聞いて、こことある街のとある喫茶店を訪ねる。
   その喫茶店のとある席に座ると、座っている間だけ過去の戻れるという。ただし、
  むつかしい5つのルールがある…。

  喫茶店の名は「フニクラリフニクラ」。

  第一話『恋人』、第二話『夫婦』、第三話『姉妹』、第四話『親子』の四つの物語
  りはそれぞれ独立していながらも、喫茶店の経営者、従業員、常連客、そして幽霊
  までが係わりをもってもって登場する。

   人間だれしも一度は思うことがあるのではないだろうか。「過去の、あの時に戻
  りたい」、「自分の未来を知りたい」。しかしそんなことが簡単にできるわけがな
  い。そのためにはつらい犠牲を払わなければならないだろう。それでも、なんとし
  てでも戻りたい「時」、取り戻したい「時」がある。そんな話を四話にまとめた作
  者はなかなかの手練れものである。多くの人が泣いた、泣かされたと絶賛している。

   私が面白く思ったのは、この本に綴られる話の中に、多くの擬音。実に効果的で
  ある。
  「カランコロン」これは喫茶店「フニクリフニクラ」のドアにつけられたカウベル
  の音。レジスターのガチャガチャ、釣銭の小銭のカシャカシャ、鍵束のジャラジャ
  ラ、平井八絵子の履いたサンダルのパタパタ、名も知らぬ少女が食べているトース
  トのサクリサクリ、サラダのモシャモシャ、フルーツヨーグルトのハムハム…。

   私はこの話の中では第三話の『姉妹』が一番良かった。話に余韻がある。平井八
  絵子は近くでスナックを経営している。フニクリフニクラに毎日通う常連客。老
  舗旅館の長女だが、旅館を継ぐ気はなく妹の久美が若女将としてあとを継いでいる。
  久美は時間が出来ると八絵子を訪ね、早く家に帰ってあとをついでとせがむ。うっ
  とうしくなった八絵子は久美を避けるようになった。そんなある日訪ねてきた久美
  は避けて隠れた八絵子に会えず、帰る途中に交通事故にあって亡くなってしまう。
   小さいころ母を亡くし妹を背負って学校に通った記憶がよみがえる。姉を慕って
  お姉ちゃん、お姉ちゃんと言っていた久美。その願いを無下に拒んできた八絵子は
  取り返しのつかない思いで、件の椅子に座る。最後に久美から隠れた日のあの時に
  帰るために。その先は…。泣けるかもしれない。

  (以上この項終わり)

  
  

 

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