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読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

当世コトワザ読本『ことわざのタマゴ』

2018年06月18日 | 読書

◇『ことわざのタマゴ―当世コトワザ読本―』 

                  著者: 時田 昌瑞  
                          2018.2 浅倉書店 刊

  


  本書はいわゆることわざ辞典ではない。題名に示す如く、「タマゴ」つまりまだこ
 とわざとして安定的地位を獲得していないものの、メディア等を通じて一定の人口に
 膾炙しているものを取り上げている。視点がユニークである。

 「ことわざ」をキーワードとして世相や社会文化を読み解くという別の視点もある。
 ジャンル別に整理され、しかも索引がことわざ別にとどまらず、人名索引、トピック
 ス索引と読者のために実に行き届いていて助かる。とくに出所・用例が証拠として挙
 げられているところがすごい。
  またころどころに1ページ物のコラムが挿入され、ことわざの歴史やことわざの定
 義・要素、ことわざの言語芸術性の検討、常用度の高いことわざ、ことわざの国際性
 などが整理検討されているのも特徴である。

  何んにしろ膨大なことわざの卵を丹念に選び出し、世の中に生まれ、使われ出した
 場面を丹念に抽出して整理するということは大変なことだろうと感心するところ。
 ことわざのタマゴも、未熟児であったり、早熟であったり、成人直前であったりとさ
 まざま。読者(利用者)として欲をいえば、ことわざ毎に、ことわざとしての成熟度
 合を点数とか、星印とかで表示していただくと、一層当該ことわざへの親近感が湧く
 のではないかと思った次第。

 一言にことわざと言っても、時の流れと共に本来の意味合いとずれた使い方になったり
 するところが面白い。
 *小生は「40・50ははなたれ小僧…」は松下幸之助氏が使い始めと思っていたが、渋沢
 栄一氏だったとは。渋沢先輩と言われればさもありなん。

 *良く使い方というか認識が正反対な「情は人のためならず」はどんな扱いになってい
 るか興味があったが扱われておらず残念。

 「*足は口ほどにものをいう」では客商売では足元(靴)を見て良い客筋かどうかを見
 分けると聞いていたが、靴屋さんのことわざであったとは知らなかった。

 *小生は新潟の生まれであるが「越後では男の子と杉は育たない」ということわざは小
 さいころから耳にしていた。訳はよくわからないが、男の子である自分はここでは育た
 ないのか、と思って家を飛び出して東京の住民になった(それだけではないが)。
 女性が働き者で色白もち肌、男は腑抜けという解釈はあまり当たらないと思うし、尾崎
 紅葉の著作に出てくる「新潟は砂地で杉の生育に適さない」というのは海岸線だけに限
 定されるのでいまいち納得できない。
 それにしても正解は単に男の子と杉の木は成長が遅いということだったとは。

 *「ゴキブリにモラルを求める」にはまいった。ないものねだりの譬えではあるが、こ
 れをことわざとするにはやや異論があろう。

  それにしてもことわざは世相を映し含蓄があり、その誕生にもっともらしい訳がある
 とされることから小説(特に短編)の題材になりうる。これは座右の書である。

                              (以上この項終わり)