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スピードと漱石的執筆法 2

2019-12-25 06:09:11 | 日本文学の革命
漱石の執筆法には一つの特徴がある。それは“ものすごいスピード”で書いてゆくというものである。

漱石は『吾輩は猫である』で創作に目覚めたあと、ものすごい勢いで小説をかいてゆくことになった。『猫』を書きながらそれと同時並行して、『漾虚集』としてまとめられた諸短編、『坊っちゃん』、『草枕』などの作品を次々と生み出していった。『坊っちゃん』などは冬休みの間に二週間で書いてしまったほどだ。創作の勢いは止まらず『二百十日』『野分』『虞美人草』と次々と中編・長編小説を書いてゆき、『坑夫』や『夢十夜』のような幻想的な小説を書いたのもこの頃である。さらには『文学論』や『文学評論』という評論作品までこの間に発行している。『三四郎』以前を漱石の初期作品ととらえるなら、彼はこの3年半ほどの初期時代の間に計11冊もの作品を―しかもどれも個性的で歴史的な傑作ぞろいである―書いているのである。

朝日新聞に入社して職業作家になったあとも彼の創作の勢いはものすごいものだった。なんと彼は一年に一冊のペースで長編小説を書き続けていったのである。半年ほど小説を書いて、半年ほど休んで、翌年にはまた新しい長編小説を書いてゆくというのだから、まさに驚異のハイペースである。しかもそれらは流行作家のように薄っぺらのものを書き流しているというものではない。一冊一冊に奥深い内容が込められており(いずれ『こころと太平洋戦争』でその一端をお見せすることになるが)、文体まで一冊一冊異なっているのである!修善寺の大患で倒れた年を除いて彼は毎年このペースで書いてゆき、計八冊もの長編小説を矢継ぎ早に書いていったのである。

しかも彼は執筆に際して下調べとか題材の熟考とかをほとんどしていない。ぶっつけ本番出たとこ勝負で書いていて、長編小説まるごと一冊を即興で書いているふしすらある。またその書き方は実に無造作で、勢いよくバンバン書くだけで、字句や文章にこだわる様子も見せない。作家の中には字句や文章に凝りに凝って書く者もいるが、彼にはそういう様子がなく、ただ筆のおもむくまま自由自在に書いているだけで、推敲の跡すらほとんど留めていないのである。

漱石のこの執筆法は新聞小説という形態とベストマッチするものであった。新聞とは毎日毎日発行されるメディアであり、新聞小説もそれに合わせて毎日毎日書かれなければならない。遅滞や欠稿は絶対に許されず、書いてゆくそばからすぐに活字にされ世に出されてゆくのである。まさに「はい!次」「はい!次」というわんこ蕎麦状態であり、まった無しのハイスピードで作品を書いてゆかねばならないのだ。

作家としては過酷な執筆状況だが、しかし漱石はむしろそれを望んでいたようなのである。漱石の文名が高まり文学で財を成したあとでは、いつでも新聞社などは辞めて、締め切りに追われることなくじっくりと創作に取り組むこともできたであろうに、彼はそのような道を取らず、死ぬまで新聞小説という形態で小説を書いていったのである。彼のこの超スピード執筆法は彼の創作スタイルとベストマッチしていたのだ。

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