別に僕たちはピアノの音で驚かされる必要はない。これがまずこのアルバムを聴いた第一印象、前作のヴィーナスのアルバムのあとを受けた感想です。当たり前な範囲で音が鳴り始めて、その時点でハーシュの精霊が漂い始めます。
1曲目、大好きな“In The Wee Small Hours of the Morning”で始まるのはとても嬉しい、心が落ち着いたところからアルバムに接することができます。
2曲目はビル・フリゼールに捧ぐとなっていて、派手な振り回しを抑えて,エバンスとジム・ホールのデュオを思わせた2人のデュオ・アルバム「Song We Know」を思い出しました。
ライブ・ハウスでのソロ収録というとても過酷な条件がこのアルバムにはあります。
スタジオ録音、もしくはコンサート録音では、ピアノを選び、最良の状態で鳴らすことが出来ます。ライブ・ハウスでは、調律はしっかりしたとしても、そこにあるピアノ自体の性格があります。そうするとそれと馴れ合って音楽にすることはミュージシャンにとって大変なことなのです。
6日間テープをまわしつづけて、結局最後のテイクを採用したのも、このピノとの同調の結果でないでしょうか。
ピアニストはそのピアノの善しをさがしそこを大切に聞かせるのです。
音を聞くとVillege Vangurdのピアノが最良とは思えません、しかしそのなかでこのピアノで善しをみつけているのがハーシュなのです。
5曲目はシューマンに捧げたクラシカルなメロディ、アダージョという感じです。
7曲目“Memories of You”のメロディをゆっくりと弾くと、メルドーが最近出たアルバムで弾いた“Secret Love ”を思い出します。これほどゆったりとひいて形良いことさすがです。
ぴりぴり張り詰めたという感じではありません。ハーシュが生死の境から帰って、変わったのかもしれません。ピアノを前にして、いや日々を前にして、ひとつの善しをみつける。そしてをれを感じ、味わい、素直に表現して、それが喜びでとなっているのでないでしょうか。
年度末になって、社会に出て以来続けていた業務から離れることとなりました。
昨年のあの悪夢からは開放されますが、新たに仰せつかる事もあり、また明日から私も善しを見つける日を送りたいと思います。
ALONE AT THE VANGUARD / Fred Hersch
Fred Hersch piano
1. In The Wee Small Hours of the Morning
2. Down Home (dedicated to Bill Frisell)
3. Echoes
4. Lee's Dream (dedicated to Lee Konitz)
5. Pastorale (dedicated to Robert Schumann)
6. Doce de Coco
7. Memories of You
8. Work
9. Encore: Doxy