ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
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グラミー賞 ルーツ編

2021-03-18 22:16:29 | 余話
前回に続いて、グラミー賞の受賞結果あれこれ。今回はルーツ編です。

毎年、アメリカーナ、ブルース、フォークの辺りは個人的な激戦部門で、もう誰が受賞してもおかしくないほど傑作ぞろい。もちろん、受賞結果については一喜一憂ありますけども、流石に受賞した作品は昨年を代表する名盤と呼ぶにふさわしい作品ばかり。という訳で、ルーツ周辺部門の受賞作品を駆け足でご紹介。




BEST AMERICAN ROOTS PERFORMANCE
John Prine / I Remember Everything
Black Pumas / Colors
Bonny Light Horseman / Deep In Love
Brittany Howard / Short And Sweet
Norah Jones & Mavis Staples / I'll Be Gone

昨年4月7日に、新型コロナウイルスによる合併症のため亡くなられたジョン・プライン。ボブ・ディランやジョニー・キャッシュ、もしくはニール・ヤング辺りと並び賞されてもおかしくない、フォーク、カントリー、シンガーソングライターの偉人です。この「I Remember Everything」はジョン・プラインの最後のレコーディング曲と言われています。滋味あふれる優し気な歌声の奥底から、何とも言えない力強さを感じさせてくれる、味わい深い歌声は何度聞いても心に染みます。




BEST AMERICAN ROOTS SONG
John Prine / I Remember Everything
Lydia Rogers / Cabin
Sierra Hull / Ceiling To The Floor
Sarah Jarosz / Hometown
Lucinda Williams / Man Without A Soul

こちらもジョン・プラインの「I Remember Everything」が受賞。ジョン・プラインとパット・マクラフリンの共作。パット・マクラフリンはジョン・プラインのコラボレーターとして知られるのはもちろん、ソロ作も数枚リリースしているシンガーソングライター。近年はマーカス・キング、ラーキン・ポー 、Yolaの作品にクレジットされていたりもする人。




BEST AMERICANA ALBUM
Sarah Jarosz / World On The Ground
Courtney Marie Andrews / Old Flowers
Hiss Golden Messenger / Terms Of Surrender
Marcus King / El Dorado
Lucinda Williams / Good Souls Better Angels

サラ・ジャローズ!!通算4個目のグラミー賞。このアルバムは彼女の5枚目のスタジオアルバム。デビュー時はプログレッシヴ・ブルーグラス的な才気に溢れていた彼女でしたが、この作品は彼女のシンガーソングライター的な側面が実った、メロディメイカーとして、歌い手としての魅力を存分に感じさせてくれる一枚です。とは言え、彼女はギターの他、マンドリン、バンジョー、さらにブズーキまでを操り、そのマルチプレイヤーぶりは健在ですし、そういった楽器アンサンブルも聴きどころです。プロデューサーはこれまで数多のアーティストと仕事をしてきた匠John Leventhal。凛としていながらも人間味あふれるサラ・ジャローズの歌声を、楽器本来の音色が暖かく包み込むような素晴らしいサウンドです。




BEST BLUEGRASS ALBUM
Billy Strings / Home
Danny Barnes / Man On Fire
Thomm Jutz / To Live In Two Worlds, Vol. 1
Steep Canyon Rangers / North Carolina Songbook
(Various Artists) / The John Hartford Fiddle Tune Project, Vol. 1

ビリー・ストリングスは現28歳の若手グラッサー。デル・マッコーリーやサム・ブッシュ、ストリング・チーズ・インシデント、グリーンスカイ・ブルーグラス、マーカス・キング・バンド等々と共演を重ねている、その界隈でも注目の人。自主製作も含め数枚のアルバムをリリースしているようですが、チャート的にも本作「Home」が出世作と言えそう。現代ならではの洗練された、風通しの良いブルーグラスを颯爽と演じてくれている一方で、ハードロックからの影響をも感じさせるタフなプレイから、今後の展開が一層楽しみに感じられます。




BEST TRADITIONAL BLUES ALBUM
Bobby Rush / Rawer Than Raw
Frank Bey / All My Dues Are Paid
Don Bryant / You Make Me Feel
Robert Cray Band / That's What I Heard
Jimmy "Duck" Holmes / Cypress Grove

現役ブルースマンの中では、私のフェイヴァリットであるボビー・ラッシュ。チタリン・サーキットの王者と言われた、ルイジアナが誇る現87歳のベテラン・ブルースマンです。エレキ・バンドでファンキーなブルースをブイブイ言わせるのが彼の真骨頂ですが、今作はアコースティック・ブルース集。数曲のオリジナル曲と、スキップ・ジェイムス、ロバート・ジョンソン、ハウリン・ウルフなど偉人たちのカヴァーが納められています。それはアコギとハープと歌で語られるブルース。シンプルゆえにボビー・ラッシュの濃さがダイレクトに伝わってくる、南部臭横溢のブルース!タイトルの「Rawer Than Raw」のRawは”生(なま)”という意味ですから、生以上に生々しい、まさにそういう言葉がぴったり。実はボビー・ラッシュは2006年にもアコースティック作品をリリースしていまして、そのタイトルは「Raw」だったんです。なので今作はその「Raw」を超える続編、と言ったところでしょうか。




BEST CONTEMPORARY BLUES ALBUM
Fantastic Negrito / Have You Lost Your Mind Yet?
Ruthie Foster Big Band / Live At The Paramount
G. Love / The Juice
Bettye LaVette / Blackbirds
North Mississippi Allstars / Up And Rolling

マサチューセッツ州生まれの新感覚ブルースマン、ファンタスティック・ネグリート。これで2016年作「The Last Days of Oakland 」から3作続けてグラミー受賞となります。この人、2015年にNPRのタイニー・デスク・コンサートで注目され、同年にファンタスティック・ネグリートとしての初作をリリースして以来の破竹の勢いで、てっきり若手かと思っていたのですが、実は1968年生まれの苦労人。何度か生死の境をさまよったりもしたそうで、音楽から足を洗った時期もあったとか。そんなファンタスティック・ネグリート、デルタブルース的な野性味を現代的なミクスチャーセンスでファンキーに聞かせるのが彼流のブルース。この最新作はその手法にさらに磨きのかかった快作です。ちなみに、ほとんどの曲でリードギターを弾くのは、彼の右腕的存在の日本人ギタリスト、マサ小浜。




BEST FOLK ALBUM
Gillian Welch & David Rawlings / All The Good Times
Bonny Light Horseman / Bonny Light Horseman
Leonard Cohen / Thanks For The Dance
Laura Marling / Song For Our Daughter
The Secret Sisters / Saturn Return
フォーク界の女神ギリアン・ウェルチ。彼女はデビュー前からデヴィッド・ローリングスと共に活動していましたが、彼女のソロではなくデュオ名義でリリースされた作品はこの「All The Good Times」が初めて。アコギと歌が奏でる、その間も含めた空気間に、これまで培われた信頼関係による安心感とか、充実感のようなものが伝わってくるようで、その芳醇さにフォークミュージックの奥深さを感じさせられすにはいられません。




BEST REGIONAL ROOTS MUSIC ALBUM
New Orleans Nightcrawlers / Atmosphere
Black Lodge Singers / My Relatives "Nikso Kowaiks"
Cameron Dupuy And The Cajun Troubadours / Cameron Dupuy And The Cajun Troubadours
Nā Wai ʽEhā / Lovely Sunrise
Sweet Cecilia / A Tribute To Al Berard
”REGIONAL ROOTS”と言えば、ニューオーリンズ・ブラス・バンドですよ!今回はめでたくニューオーリンズ・ナイトクロウラーズが受賞しました!!こちらのバンドは、1990年代に結成されたバンドで、現在はジャケ写から察するに総勢9人のブラスバンド。とにかくパレードスタイルのリズムがご機嫌です。なにせバスドラムのCaytanio HingleとスネアドラムのKerry “Fatman” Hunter は、ニュー・バーズ・ブラス・バンドの創設メンバーでもありますし、スーザフォンのMatt PerrineはOFFBEAT誌のBest Tuba/Sousaphonistを何度も受賞している、ニューオーリンズを代表するスーザフォン奏者の一人。この3人が織り成すファンキーなグルーヴは家で聴いていても踊りだしたくなってしまうほど。最近のニューオーリンズ・ブラス・バンドは、ヒップホップやソウルを取り込む傾向が強く、それはそれで私も大好きなのですが、このニューオーリンズ・ナイトクロウラーズの「Atmosphere」は、トラディショナルなスタイルを継承しつつ、ポップな面もあり、いかにもニューオーリンズな感じで、嬉しくなります!




BEST ROOTS GOSPEL ALBUM
Fisk Jubilee Singers / Celebrating Fisk! (The 150th Anniversary Album)
Mark Bishop / Beautiful Day
The Crabb Family / 20/20
The Erwins / What Christmas Really Means
Ernie Haase & Signature Sound / Something Beautiful

フィスク・ジュビリー・シンガーズは黒人音楽の伝説ですね。結成はなんと1871年。ナッシュビルの歴史的な黒人大学、フィスク大学で結成されました。フィスク大学は南北戦争の終結により解放された黒人達のための学校として、1865年に設立されたそうですが、その運営資金はすぐに逼迫し、その資金集めとして学生達で結成されたのがフィスク・ジュビリー・シンガーズでした。彼らは全米を巡業し成功を納めるんですが、それと同時に黒人霊歌など黒人の音楽を白人に知らしめました。そんな歴史的グループです。そのフィスク・ジュビリー・シンガーズの結成150周年アルバムが「Celebrating Fisk! (The 150th Anniversary Album)」。こういう歴史的なグループが、150年も受け継がれているっていうのが凄いことですよね。本アルバムはライヴ録音で、ゲストにルビー・アマンフ、シーシー・ワイナンズ、ケブ・モ、フェアフィールド・フォーなどが招かれています。おそらく、メンバーたちは現在の学生達なんでしょうけれど、美しくも重厚なゴスペルを聴かせてくれます。

ちなみに、他のゴスペル部門では、『BEST GOSPEL ALBUM』をPJ モートンの「Gospel According To PJ」が、『BEST CONTEMPORARY CHRISTIAN MUSIC ALBUM』を、なんとカニエ・ウェストの「Jesus Is King」が受賞しています。ここ結構びっくりしましたよね?




BEST REGGAE ALBUM
Toots And The Maytals / Got To Be Tough
Buju Banton / Upside Down 2020
Skip Marley / Higher Place
Maxi Priest / It All Comes Back To Love
The Wailers / One World

昨年の9月11日、コロナウィルスの合併症のため亡くなられた、トゥーツ・ヒバート。彼が率いたトゥーツ・アンド・ザ・メイタルズは、ジャマイカの音楽のパイオニアのようなグループでした。なにせ彼らの曲「Do the Reggay」がレゲエというジャンルの語源になったと言われているほどですから。そんなトゥーツ・アンド・ザ・メイタルズの、もう何枚目かわかりませんけど、おそらく最後のアルバムであろう「Got To Be Tough」。彼らしい生命力に溢れた作品。参加ミュージシャンも豪華です。






いかがでしたか?惜しくも受賞を逃した作品のなかにも、個人的に語りたい作品は数多あるんですけどね。最近はグラミー賞にも昔ほどワクワクしなくなったのですが、こうやってブログに書いてみると、やはり面白いもんですね。今回は事前のノミネート特集を書かなかったので、それをちょっと悔やんでいる今日この頃。

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