ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
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アーマ・トーマス、幻のコティリオン・アルバム

2014-06-06 22:00:03 | ニューオーリンズ
IRMA THOMAS / FULL TIME WOMAN: THE LOST COTILLION ALBUM

ニューオーリンズR&Bの女王、アーマ・トーマス。彼女が71年、72年にアトランティック傘下のコティリオンに残した録音集がリリースされました。全15曲中13曲が未発表曲という、ファン垂涎の音源集です。録音時期的にはスワンプ・ドッグとの「IN BETWEEN TEARS」の直後だと思われるのですが、この時期はアーマ・トーマスにとってもまだ30歳になったばかりという、シンガーとして充実した時期であるのに反し、商業的な成功はもちろん、真っ当なリリース自体にも恵まれなかった不遇の時代でもあります。今回、また一つ、彼女の埋もれた名唱が発掘されました。

01. Full Time Woman
02. All I Wanna Do is Save You
03. She's Taken My Part
04. Shadow of the Sun
05. Waiting For Someone
06. Fancy
07. Time After Time
08. Our Love Don't Come That Easy
09. Turn Around and Love You
10. Tell Me Again
11. Try To Be Thankful
12. It's Eleven O'Clock (Do You Know Where Your Love Is)
13. Could It Be Differently
14. Song with No Name (aka Song for Jim)
15. Adam and Eve


まず1曲目「Full Time Woman」から「She's Taken My Part」までの3曲は、71年11月12日にワーデル・ケゼルグのプロデュースにより、マラコ・スタジオで録音されたもの。この「Full Time Woman」と「She's Taken My Part」は当時シングルのAB面曲としてリリースされたそう。私も「Full Time Woman」はコンピ盤で聴いたことがあったものの、こうして当時の録音集として、しかもこの時期にマラコでアーマがケゼルグと邂逅した曲として聴くと、あらためてその魅力に唸らされますね。南部印のゆったりとしたカントリー・フレイバー溢れるメロディーを、雄大なブラック・フィーリングで歌うアーマ・トーマス、最高です。またこのシングルは、アーマをアトランティックに引っ張り込んだ張本人ジェリー・ウェクスラーが「自分史上最高の一枚」と賞したそうですが、それも頷ける出来映えですね。「She's Taken My Part」での軽やかなファンクネス、そしてスロー・ナンバー「All I Wanna Do is Save You」の包容力たっぷりのソウルネス、どちらも素晴らしい。

そして1972年5月3日、4日、デトロイトで録音されたのが、4曲目「Shadow of the Sun」から11曲目「Try To Be Thankful」までの8曲。ここからは全て未発表曲です。流麗なストリングスの下抑制の効いた歌声でスィートなソウル・フィーリングを醸す「Shadow Of The Sun」、土地柄かモータウン的な躍動感が印象的な「Waiting For Someone」、アーマの溌剌とした切れのある歌声が素晴らしい「Fancy」や「Our Love Don't Come That Easy」、後半のディープこの上ない黒いシャウトに痺れるスロー「Time After Time」、ワウ系?のエフェクトが効いたギターとストリングスがグルーヴィーに駆け抜け、アーマの瑞々しいフィーリングも素敵な「Turn Around And Love You」などなど。どれもこれも一級のソウル作品。

続く「It's Eleven O'Clock (Do You Know Where Your Love Is)」と「Could It Be Differently」は1972年7月26日、マイアミのクライテリア・スタジオでの録音。前者はダイアナ・ロス路線を狙ったのか?と一瞬思った程、アーマ・トーマスがソフトなスウィート・ヴォイスを披露していて驚かされます。コンガのリズムとか、ホーン隊やストリングスが醸す雰囲気にはニューソウルっぽい香りもあったり。このストリングスのアレンジにはアリフ・マーディンが関わっているとか。

そして最後はフィラデルフィア・ソウルの総本山シグマ・サウンド・スタジオで録られた2曲。録音は1972年9月12日。プロデュースはヤング・プロフェッショナルズ。アーマ・トーマスがフィリーで録音していたと言うのも驚きですね。

録音スタジオのハシゴや、楽曲のヴァリエーションにはレコード会社側の試行錯誤が感じられますが、それに歌い方を変えながらしっかりと対応するアーマ・トーマスの力量にはまったくもって唸らされるばかりです。アルバム1枚分の録音を終えながら、当時リリースが見送られお蔵入りとなってしまったのにはそれなりの理由があるのでしょう。ライナーに曰く、プロデューサー陣が「アーマにはもう『あれ』がない」と判断したたとか。『あれ』って何でしょうね?ちなみに英語原文では『it』でした。


あと少し気になることがあるのですが、それはこのデトロイトとマイアミ録音を仕切ったプロデューサーであるジョー・ヒントンのこと。ライナーには「「Funny How Time Slips Away」で知られる」とあるんですけど…。確かにウィリー・ネルソン作のこの名曲をヒットさせたジョー・ヒントンというR&Bシンガーはいるようです。ですがWikiによりますとその方、1968年に亡くなられてるんですよね。となると72年にプロデュースは出来ない訳で…。どういうことでしょうね? ちなみに、60年代末からモータウンで活躍したソングライターに同名のジョー・ヒントンという方がいらっしゃいますが、そちらですかね?なんて思ったり。デトロイト繋がりで。いや、それにしては彼作の曲が1曲も無いのはおかしいか…。謎です…。

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