風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

お騒がせトランプ

2017-02-02 00:43:42 | 時事放談
 次々と大統領令に署名する実行力には敬服するが、難民やテロ懸念国を対象として入国を制限する大統領令を巡って、アメリカだけでなく世界中を騒然とさせている。今宵のTVニュースを見ていると、ホワイトハウスの報道官は審査を厳しくするものだと釈明するが、記者はトランプ大統領がツイッター上でBan(禁止)という言葉を使っているではないかと詰め寄っていた。ダルビッシュのお父ちゃん(ファサドさん、イラン出身)は春先まで息子の投球を見られないかも知れないと産経Webが心配している。ロイター通信の世論調査によると、この大統領令に賛成49%、反対41%で、移民大国アメリカにして賛成の方が多いことには驚かされるが、トランプのアメリカは完全に分断されてしまった。これは政党支持別に見ても明らかで、共和党支持者は82%が賛成し、民主党支持者は70%が反対しているという。
 実際、ダルビッシュのお父ちゃんだけでなく、この大統領令の影響で有力選手の入国が厳しくなるのではないかと、NBAやアマチュアスポーツ界に波紋が広がっている。グローバル企業を中心にビジネス界も声を上げ始めた。日経記事を追いかけると、先ずフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが自身のフェイスブック・ページで、「我々は移民国家」だと述べて懸念を表明し、アップルなどのIT企業も反発し、スタバのハワード・シュルツCEOも、難民を5年で1万人雇用する計画を当てつけのようにわざわざ表明した(すると、あろうことかスタバ不買運動が始まったらしい)。エアビーアンドビーは搭乗拒否された乗客や難民に無料で宿泊先を提供するといい、ウーバーテクノロジーズは入国制限で帰国できなくなった運転手の所得を三ヶ月間補償するという。ナイキのマーク・パーカーCEOは社員向けに「偏見やあらゆる形態の差別にともに立ち向かう」と宣言し、ゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファインCEOも社員向けボイスメールで「政策を支持しない」と明言した。フォード・モーターは、マーク・フィールズCEOとビル・フォード会長名で、「(我々は)米国や世界中で豊かな多様性を保持することに誇りを持っている。これが今回の政策を支持しない理由だ」とする声明を発表し、GEのジェフリー・イメルトCEOも、「GEは世界中からの賢くて献身的な従業員なくして存在し得ない」と表明した。この大統領令は合法性に確信が持てないとして司法省に擁護しないよう求めたイエーツ司法長官代行は、トランプ大統領によって解任されてしまった。ニューヨーク州に続いて、マサチューセッツ州の司法長官も、この大統領令は違憲だとして連邦地裁に提訴すると発表し、ワシントン州はトランプ大統領らを相手取り提訴するといい、他にも、12州と首都ワシントンDCが大統領令は違憲と主張しており、提訴の動きはさらに加速しそうだという・・・。泥仕合だ。
 20年前、ボストンに駐在したとき、同僚のビルは同年代ということもあり、また単一民族の島国出身と移民大国出身と対称的なこともあり、何かと身の回りのことを相談したり、しょっちゅう議論を戦わせることをお互いに楽しんだりして、仲良くしてもらった。着任早々、車は買ったか?と聞かれて、折角アメリカに来たからアメ車を買おうと思って探していると答えると、日本人なのに何故日本車に乗らない?と怪訝な顔をされた(そういう彼は、アイルランド系だけどドイツ車を愛用していた)。「問題だ(It’s a problem.)」と言うと「problemなのではない、issueだ」とやんわり訂正を迫ったのも彼だった。あるとき、お国自慢の話になり、ビルから「移民の国だから、世界中の頭脳から良いアイディアを集めることが出来る」と主張されて、はたと返答に詰まったこともあった。その時、あらためて移民社会のダイナミックな強さに気づかされ、また、モンロー主義に代表されるように対外不介入主義を建国以来の国是とするのは、民主主義を守るためと言うが、その実、移民社会の分断を防ぐためではないかと、あらためて移民社会の難しさにも思いを馳せたものだった。ビルとは暫く話をしていないが(facebookでは繋がっているが)、さぞトランプ大統領を嘆いていることだろう。
 今日、プリンストン大学のジョン・アイケンベリー教授の話を聞く機会があった。民主的に選ばれた指導者をコントロール出来るのか?と問われて、民主主義とは支配される側が成り立たせるものだ、民主主義には牽制を利かせる側面もある、指導者は必ずしも賢人ではないかも知れないが、そんなときでも対抗して行かなければならない、移民の入国制限の大統領令などは「後退」だと呼ぶ人がいて、実際にセオドア・ルーズベルトの移民政策(これは歴史上の汚点だ)に匹敵するものだが、2000人からの国務省役人が反対の意思表明をし、女性の大規模デモもあったように、対立意見の表明というダイナミックな民主主義らしさに立ち返っている、自由主義は努力して勝ち取っていくものだ、刷新して行かなければならない、これは、まさにトランプが言うように強いアメリカにして行くものだ(Make America Great Again)と、だいたいそのようなことを答えておられた。座布団一枚差し上げたい。
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