風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

人(5)華人実業家

2009-12-30 10:46:21 | 日々の生活
 景気を多少なりとも反映するのか、面白そうなビジネス書を余り見かけないので、最近はすっかりご無沙汰していて、今年一年で特筆すべきビジネスマンの名前と言ってもすぐには浮かびません。そんな中で、久しぶりに邱永漢さんの名前を見つけたので読んだところ、いつ読んでも面白いなあと、それこそ10数年振りでしたが、あらためてある種の爽快感と感動を覚えました。
 ご存知、「金儲けの神様」で、株式投資関係の著作が多いことで知られますが、その周辺分野も含めて出版した本は400冊、85歳になられる現在も、ご本人のHPによれば年間120回も飛行機に乗って、中国大陸との間を飛び回っているのだそうです。
 読んだのは「邱永漢の『予見力』」(集英社新書)、注目するのは中国人のこれからの食糧のことだと言い切る目のつけどころのユニークさと、それを支える、常に何かを追い求めて止まない好奇心と、結果としての、その年齢を感じさせないバイタリティにはあらためて驚かされます。株のことではないからこそ手に取ったこの本ですが、流儀は株と変わるところはなく、お金にお金を産ませるという、かつてベストセラーになった「金持ち父さん」のメッセージに繋がるものを感じました。株式投資に関しても、横綱の株を買ってどうするのか、横綱は勝つのが当たり前で、本当のタニマチというのは、その横綱を倒すような、これから伸びる若手を贔屓にするものだと自ら表現される邱さん(漢字変換が大変なので、以下、Qさん)ですが、事業と言うと、自ら会社を興して社長として引っ張ることを想像しがちですが、Qさんの場合は一味違い、人と人との繋がりの中から、ビジネスの種を見つけ、金ではなくて、いわば人を育ててその人に事業をやらせておられるように見受けられます。この本の著者は玉村豊男さんですが、Qさんが手がける食糧ビジネスに関する中国視察旅行に同行し、その先見力と行動力を余すところなく伝えます。
 それとともに、以前読んだ時にはアメリカのビジネスしか知らなかった私でしたが、今回はアジア大洋州のビジネスで少なからぬ華人ビジネスマンとも付き合いがあった後で、あらためてQさんの中国人(台湾人)としてのメンタリティを大変興味深く拝見しました。発言や行動の中に、実感として納得出来る部分がかなりある。そして、今後益々存在感が増し、日本人としても付き合いが増すであろう、中国という異形の凄まじさに思いを馳せました。この本の中でも二箇所、日本人が苦手なこととして、買物をする時に値切ることと、役人に賄賂を握らせることだと、Qさんが言い切るところが出て来ます。日本人には中国ビジネスは難しいだろうなあと思います。
 最後に、Qさん自身が語った、印象に残るフレーズを。
 いつも考えていることは、見える景色の中で物事を判断するのではなくて、見える景色の向こうはどういう景色かということに興味を持っているので、いつも余計なことを考えて、20年前に、今日の中国がこういう形になるということを予想した(以下略)。
 なんだかイチローの発想とも繋がります。また別のところではこうも語っています。
 世界同時不況の中で、実体経済も最悪というところまで来てしまいました(3月の誕生会での発言)ので、右を向いても左を向いても、皆、どれだけ損を防ぐか、どれだけ倹約するかという話ばかりです。(中略)おカネに本当に値打ちが出るのは、そういう時に使えること(以下、略)
 実業家の面目を感じさせられ、私(たち)も元気をださなきゃと、肩を押される気分にさせてくれる貴重な方です。
 上の写真は、シンガポールのチャイナ・タウンにて。
コメント
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