カミさんの知り合いのダンナが定期健診で引っかかり、ガンの摘出手術を受けた。「元気に退院できたならよかったじゃあないか」と言うと、「それがねえ、奥さんはご主人にどう声をかけたらよいのかと悩んでいるのよ」と困っている。「どうして声をかけるの?」と聞くと、「だって、励ましてあげるのは妻の務めでしょう」と殊勝なことを言う。「滅多にはない病気だそうよ。それを乗り越えてやっと退院したのだから、奥さんとしては心配でしょう」。
だからどうするというのだろう。「今日はどう?身体の具合の悪いところはない?」、「調子はいい?」、「どこか痛いところはない?」、「顔色悪いけど、大丈夫?」、「疲れたりしていない?」、「無理しないでね」とか、毎日こんなことを聞かれたのでは、それだけで病気になってしまいそうだ。自分だって医師から「手術はうまくいきました」と言われても不安に思っているのに、こうも毎日、「大丈夫か」「無理しないで」と言われ続けると余計心配になるだろう。
ちょっと品のない話で申し訳ないが、セックスの最中に女が「ねえ、入っている?」と男に聞いた。男は途端に萎えてしまった。挿入できていたし、これからピストン運動にかかるところだったのに、それってオレのは小さいってことなのかと思ってしまったのだ。男はこれくらいデリケートなのだ。言葉は励ましになるけれど、一刺しの武器にもなる。「ああ、嬉しい。あなたが好き」とウソでも言ってくれれば、男はさらに女を愛しく思うだろう。
「何も言わない方がいいのじゃないの」と言うと、「それでは心配していることが伝わらないじゃーない」と否定する。「僕なら、病気のことには一切触れずにいて欲しいけど」。「それはあなたが当事者でないからそんなことを言うのよ。ご主人には奥さんの励ましが一番大事なのよ」。「そんなものかなあー、それで何と言ってあげるの?」。「その言葉が難しいから悩んでいるのよ」。それならそれで、悩んでください。私はやはり何も言わない方がいいと思うけど、そうでないのかも知れない。
余りに気を遣われると、重苦しくなるものだ。冗談でもいいから、「ねえ、私も浮気するからあなたもしていいわよ」とくらい、笑って言ってもらった方が気持ちは楽になる。心配してくれるのはありがたいけれど、心配されすぎると、本当は治らない病気なのかと勘ぐってしまう。夫婦は多少抜けているくらいの方がいい。トルストイは言う。「この世には不完全な男と不完全な女しかいない」。