実務家弁護士の法解釈のギモン

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差押えの処分禁止効ってなんだ?(1)

2010-01-21 10:36:01 | 民事執行法
 ここでは,差押えの効力,特に処分禁止効について考えてみたいのだが,ここでいう差押えは,基本的には民事執行法に基づいた債務名義に基づく強制執行としての,不動産に対する差押えを念頭に置いている。担保権実行手続としての競売開始決定は,念頭に置いていない。不動産担保権(たとえば抵当権)の場合,競売開始決定よりも,抵当権の登記そのものの対抗要件としての機能が重要だからである。
 強制執行としての差押えの効力には,様々な効力が考えられるかもしれないが,言葉から受ける直感的なイメージに沿う効力といえば,処分禁止効であろう。所有者から管理処分権を取り上げて,勝手な処分を許さないということである。この意味では,たとえば刑事手続きにおける裁判所や捜査機関による差押え(刑事訴訟法99条1項,同法218条1項)も,差し押さえた証拠物等の勝手な処分を許さないという意味合いも含まれていると思われるので,広い意味での差押えに共通する効力かもしれない。
 ところが,少なくとも私法上の強制執行としての差押えの効力として,この処分禁止効を正面から規定した条文がどうやら存在しないようである。
 たとえば,民法典で差押えが問題となるのは,①時効の中断事由としての差押え(民法147条以下),②物上代位の差押え(民法304条),③根抵当権の元本確定事由としての差押え(民法398条の20),④支払いの差し止めを受けた第三債務者の弁済禁止の規定(民法481条),⑤差押えと相殺禁止に関する規定(民法509条など)程度の規定しかない。このうち,処分禁止効と関係のありそうなのは,④の弁済禁止と⑤の差押えと相殺禁止に関する一連の条文であろう。
 不動産に対する差押えは,登記される(民事執行法48条)。ところが,この差押えについての実体法上の効力規定が欠けているように思われ,実体法学上,判例,学説は民法177条の対抗要件と同様に考えているといえようか。

 以上は,私が理解している差押えに関する実体法的効力の規定や解釈である。

1 コメント

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差押えの処分禁止効と取得時効 (大高憲二)
2010-09-21 06:40:41
非常に参考になるものでしたのでコメントさせてください。
当方は差押え後の時効取得完成(民162)で登記(民177)したので競売後の落札者への所有権登記はできないと主張しているのですが代金納付の期限が迫っています。現在第三者異議訴訟を行っておりますが代金納付で却下すると言われています。取得時効は処分に入らないはずですし、差押えも当事者外では時効の中断にならない(民148)はずです。それに時効取得の効力は開始時になる(民144)ので差押え前になりますから効力がないとも思われます。当方の主張は
時効取得(民162)での所有権取得者と競売落札し代金納付での所有権取得者(民執79)とで競合するから対抗するために登記(民177)したので落札者の登記はできない。この時効取得での登記は処分禁止効で抹消されるのでしょうか?

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