実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

経営陣vs創業家(1)

2017-09-26 09:32:29 | 時事
 ある石油元売りメーカーが、経営陣は同業他社との合併を推進しているにもかかわらず、関連する個人・団体を含めると3分の1以上の持株数を有する創業家がこれに反対しているというマスコミ報道が見られ、私はちょっと注目をしていた。
 すると、今年の7月、会社側が新株発行を公表し、これに対して創業家が差止請求を行うという事態に発展し、ついに新株発行差止請求という形で法廷闘争となった。ご存じの方も多いであろう。
 雑感という程度のことにはなってしまうが、この件について一言。

 新株発行とその差止という事態に至るまでの状況を法的に要約すれば、現経営陣は株主総会において過半数の賛成により信任されているにもかかわらず、現経営陣が推進している合併について、創業家の反対により株主総会で3分の2以上の賛成が得られる見通しが立たないという状況といえるだろう。
 こうした事態は、会社法自体が想定している事態と言わざるを得ず、直接的な法律上の問題が生じることはない。

 だが、しかし…。

再度の取得時効の完成と抵当権の消長(7)

2017-09-12 09:27:27 | 民法総則
 この2つの条文の趣旨は、直ちに権利行使ができない債権に関する時効中断措置を述べているように思え、166条2項は、債権が取得時効に負ける場合の取得時効の中断措置であり、168条2項は、10年又は20年先に弁済期が到来する個別の定期金債権であるにもかかわらず166条1項の例外的な現象として弁済期が到来する前に時効消滅する可能性があることを前提とした時効中断措置といえよう。
 これら条文は、時効中断措置として、相手方に「承認」を求めることができることになっている。

 つまり、一般論として、時効中断事由たる「承認」とは、任意に承認する場面だけを想定しているのではなく、「請求」や「差押え、仮差押え、仮処分」としての時効中断が取りにくい権利の場合に「承認義務」も認めているのであって、この「承認義務」による承認も含まれているのだという理解ができないだろうか、というように考えてみたいのである。この「承認義務」の一つの現れが166条2項但し書きであり、168条2項である。
 したがって、具体的な解釈論としては、取得時効に負けてしまう場面では166条2項但し書きを類推し強制承認を認め、それ以外では168条2項を類推するというやり方がわかりやすいかもしれない。

 このように考えれば、平成24年判例は、すべてすっきりと説明がつく。補足意見は、166条2項但し書きの存在、あるいは承認義務に気づかなかっただけである。

 以上の、私の考えはいかがだろうか。

再度の取得時効の完成と抵当権の消長(6)

2017-09-05 10:30:10 | 民法総則
 ところで、債権法が改正されて、改めて現行法と改正法を見比べているうちに、この問題の解決に役立ちそうな現行法のある条文の存在に気づいた。それが民法166条2項や168条2項である。

 166条は、その1項で消滅時効の起算点を定め、権利を行使することができる時から進行するとする。もっとも、2項本文で、1項の規定は、始期付き権利又は停止条件付き権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げないと規定し、但し書きで、「ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。」と規定している。
 168条2項も趣旨は似ており、1項では定期金債権の時効期間を定め、2項で、「定期金の債権者は、時効の中断の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。」と規定している。

 平成24年判例が、取得時効に負けてしまう権利に関する場面だとすると、取得時効との関係を規律する166条2項但し書きが類推できるのではないかという気がしたのである。つまり、占有者に抵当権の存在の「承認」を求めればよいということである。