実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

和解成立による訴訟終了宣言の無効主張と不利益変更(1)

2016-02-18 10:24:00 | 民事訴訟法
 つい最近の判例で、やや不思議に感じる最高裁判例を目にした。

 最高裁のホームページに公表されている判決書のみから読み取れる事案を説明すると、次のとおりのようである。
 建物明渡請求訴訟において、一審の段階で、訴訟上の和解が成立したものの、被告が和解の無効を主張して期日指定の申立をした事案である。
 一審判決は、和解は有効として、和解成立による訴訟終了宣言の判決を言い渡した。これに対し、被告のみが控訴し、原告は控訴も附帯控訴もしなかった。控訴審は、和解の無効を確認した上で、原告からいくらかの支払を受けるのと引換に建物を明け渡すことを命じる、本案についての一部認容判決をした。これに対して被告(控訴人)が上告したというものである。
 上告審の判旨からは、被告(控訴人、上告人)側の上告理由は全く分からないのだが、最高裁は、以上の経過において、和解成立による訴訟終了宣言よりも一部認容判決の方が被告にとって不利であるから、和解内容如何に関わらず、一部認容判決をすることは不利益変更禁止の原則に反し許されないというのである。そして、そうだとすると、結局、控訴審は控訴を棄却するしかないと言って、原判決を破棄し、控訴棄却の自判をしたのである。
 つまり、この結論によると、実質的には和解は無効かもしれないが、結局のところは、和解成立による訴訟終了宣言判決が既判力をもって確定してしまうことになる。そして、そうなると、結果的に訴訟上の和解が実質的に有効と扱われることになってしまうはずである。

 私は、実質的には無効な和解が結果的に有効と扱われてしまうという、この結論に不思議さを感じてしまうのである。

家族法の憲法判断(5)

2016-02-12 13:52:32 | 家族法
 ちなみに、平成8年に法制審議会の答申で、婚姻法等の改正要綱が示されていた。本来であればこの答申を受けて改正案が国会で審議されてしかるべきであったが、反対が根強く、法案化にすら至っていないのが現状のようである。
 この婚姻法等の改正要綱は、主なものを挙げると、およそ次のような内容である。
   1 婚姻適齢を男女とも18歳とする。
   2 再婚禁止期間を100日とする。
   3 選択的夫婦別姓を導入する。
   4 夫婦関契約の取消権を削除する。
   5 離婚の際の子の監護の内容として、面会交流を明文化する。
   6 財産分与請求権について、2分の1を推定する。
   7 5年以上の別居を離婚原因とする一方で、一方配偶者にとって過酷な離婚となる場合に離婚を制限する。
   8 非嫡出子の相続分を嫡出子と同等にする。
などである。

 以上の改正要綱について、パッと見ればすぐに分かるように、2と8は、最高裁の憲法判断により、既に実現してしまっており、その後、8は立法化された。2もおそらく今回の最高裁の判決を受けて、早急に立法化されるだろう。5は単独で立法化された。6も実務では概ね実践されている事柄のように思う。そして、私の予想では、将来は夫婦同姓の強制に対して違憲判断がなされることになるのではないかと思う。そうなると、将来は3も最高裁が憲法判断として導入することになる。
 以上のように見てくると、平成8年の法制審議会の答申は、憲法判断や世の中の動きに応じて、単独で立法化されたものも存在するが、明文の改正をしなくても徐々に憲法判断や、実務上の慣行として実施されてきているのである。
 そうだとすると、平成8年の法制審議会の答申に対して、国会が動かなかったというのは、立法権の怠慢といわざるを得ないのではないかとも思う。

 基本法たる民法規定に対して違憲判断が相次ぐというのはやや異常である。最高裁の憲法判断を待つのではなく、改正すべき点は、速やかに改正すべきなのであろう。

家族法の憲法判断(4)

2016-02-03 09:42:52 | 家族法
 非嫡出子の相続分2分の1の問題も、平成の世になってからも、判例は当初は合憲判断であった。また、実は直接の憲法判断と言えるかどうかは難しいのであるが、再婚禁止期間についても、当初最高裁は憲法違反を前提とした国家賠償の問題として認めることはしていなかった。ところが、時代を経ると、いずれも違憲判断に変わってきている。
 以上のような変化を考えると、夫婦同姓を強制する現行法についても、現在は合憲判断だとしても、将来違憲判断に代わっていく可能性は十分にあるのだろう。

 再婚禁止期間についても、100日間の再婚禁止は合憲としているが、これも将来は怪しい。そもそもなぜ100日間は合憲なのかというと、嫡出推定の期間との関係があり、嫡出が推定されるのが、婚姻後200日から婚姻解消後300日までとなっていることから、婚姻解消後すぐに次の婚姻をすると、100日間だけ嫡出推定が重なってしまうことに原因がある。この問題に対しては、現代の科学では、親子関係をDNA鑑定等で明らかにできるということからの合理性が問題となるのもさることながら、一般にはあまり言われてはいないが、嫡出推定の規定の仕方そのものの問題もあるのではないかと思うのである。
 例えば、嫡出推定期間を、婚姻後200日から婚姻解消後200日までと規定してしまえば、再婚禁止期間の合理性は全くなくなる。つまり、再婚禁止期間の存在の問題ではなく、嫡出推定期間の開始時と終了時のズレの問題の方にこそ問題はないのか、という考えである。あるいは、推定期間は現在のままとしても、嫡出推定が重なってしまう期間は、後婚における嫡出推定の方を優先するような規定を設けて対処するなど、再婚禁止期間を設けなくても、嫡出推定の重なりを解決する方法はいろいろあり得るのである。
 このように、そもそも再婚禁止期間を設けざるを得ないのか否かについての根本的な問題が果たして何なのか。その、そもそもの問題もあるのではないかと思うのである。