実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

定義規定の???(1)

2010-06-28 16:23:42 | その他の法律
 私が弁護士になってから既に十数年経過した。その間に基本法の全面改正のラッシュがあり、平成10年に民事訴訟法、平成14年には会社更生法、平成16年には破産法、平成17年には会社法が全面改正となっている。倒産法制で言えば、平成11年の民事再生法の制定(同時に和議法の廃止)と会社法の改正に伴う特別清算の改正を含めて、私が弁護士になってから、倒産法制全体が全面改正してしまった。さらには、平成18年には信託法も全面改正となっており、いよいよそう遠からずのうちに民法債権法も全面改正の方向のようである。

 近年の新規立法における形式上の特徴は、2条に定義規定を置いてることである。ある意味ではわかりやすい立法ではあるが、全ての定義が2条に記載されているわけでもなかったり、あるいは、私には、???と思う定義もあり、かえってわかりにくいという側面もないわけではなさそうな気がしている。

 そこで、私が???と思う定義規定を、これからいくつか紹介してみたい。

300日規定の問題点(4)

2010-06-24 09:56:52 | 家族法
 要するに,300日規定といわれている問題の本質は,嫡出否認の制限(夫にしか否認訴訟提起権がない)の問題であって,この問題は,最終的には立法的に解決すべき問題なのだが,私は,嫡出否認訴訟の提起権者を夫のみと定めた民法の規定は,家庭に関する事項について両性の本質的平等を定めた憲法24条2項,ひいては法の下の平等を定めた憲法14条に違反すると思っている。少なくとも妻による嫡出否認の訴訟の提起は認めるべきなのである。解釈論としては,民法774条以下の規定を,妻が嫡出否認する場合にも類推適用すべきなのである。そうしないと,私には,現行法は憲法24条2項に違反するとしか思えない。

 ただし,仮に妻からの嫡出否認訴訟について民法774条以下が類推適用できるとしたとしても,出生を知った時(妻からの嫡出否認を想定すると,当然出生時と解釈される)から1年以内に嫡出否認訴訟を提起せざるを得ない。そのため,暴力をふるうような夫に対して嫡出否認の訴えを提起することをためらう妻もいるかもしれない。
 立法論とすれば,提訴期間が短すぎるということがあるかもしれない。

 もちろん,私が勝手に憲法違反だと思っているだけであり,かつ,仮に憲法違反だとしても,だからといって民法774条を類推適用して妻からの嫡出否認を認める解釈をとれるのかどうか,実務的には全く未知数であることは当然である。
 結局,当面は弁護士をうまく利用してほしいということか。

300日規定の問題点(3)

2010-06-22 11:18:21 | 家族法
 いわゆる300日規定の問題点に関しては,家庭裁判所が親子関係不存在の調停などを柔軟に運用することにより,多少問題を解消する方向に進んでいるらしいが,当然対症療法にすぎず,根本的な問題解決にはなっていない。対症療法では救われない人もいるはずである。

 そもそも,なぜ嫡出推定を覆す方法として,夫からの嫡出否認訴訟しか用意されていないのであろうか。私にはこれが疑問でならない。
 久々に手元にある親族法の教科書を開いてみると,提訴権者を制限する理由として,沿革的には夫の名誉を守ることが重要な根拠とされていたらしいが,今日では,第三者が家庭の平和を破壊することを防ぐ点に求めるべきだと書かれている。
 確かに,夫の名誉を守ることを根拠とするのは,なぜ夫の名誉だけが重要で,妻や子供の名誉は重要でないのかが全く理解不能の根拠であって,いまの社会では妥当するはずもない。しかし,結局,この沿革がもとになって夫による嫡出否認訴訟しか用意されず,結果,現在300日規定として大問題が発生しているのである。私は,このことを忘れてはならないと思うのである。
 仮に,第三者が家庭の平和を破壊することを防ぐ点に根拠を求めるとしても,真の夫からの嫡出否認の主張を認めないだけで足りることであり,妻や子から嫡出否認を認めない理由にはならない。さらには,離婚が成立した後の問題である300日規定が適用される場面では,もはや家庭は崩壊した後なのであるから,家庭の平和の破壊を防ぐという根拠そのものが成り立たない。

300日規定の問題点(2)

2010-06-17 10:11:50 | 家族法
 なぜ300日規定がこれほどまでに問題になるかというと,私の理解では,離婚をした後に出生したにもかかわらず,前夫の子として届け出なければならないから……ではない。
 300日規定に関する法律の規定の仕方も「婚姻の解消……の日から300日以内に生まれた子は,『婚姻中に懐胎したもの』と推定する。」とあるように,離婚後300日以内に出生した子は,生物学的にも婚姻中に懐胎している場合がほとんどであろうし,そうであれば,前夫の子と推定するのは筋である。この法律の規定そのものにおかしいところはないと思っている。

 問題なのは,推定される嫡出子の推定を覆す方法として,法律は,夫から嫡出否認の訴えを提起する方法しか用意していない点にある。妻や子,あるいは真の父親の方から嫡出推定を覆す方法が,法律上存在しないのである。私は,ここに最大の問題があると思っている。
 そのため,世間一般では,「300日規定」という表現で問題を指摘しているが,問題は離婚後300日以内に出生した子供の問題だけではなく,長い間別居が続いた後,離婚が成立する前に妻が出生した場合にも,全く同じ問題が生じるのである。事実として別居期間が長く,夫婦間の接触がなければ,夫の子であるはずはない。しかし,この場合も,法律上は当然といえば当然であるが,夫婦の子として出生届を届け出なければならない。そして,嫡出推定を覆すには,やはり夫から嫡出否認の訴えを提起するしか方法がない。

 300日規定は,むしろこの延長の問題なのである。
 そして,300日規定ばかり注目されていたということは,長く別居していても,離婚が成立する前に別の男性との間の子を出生した場合は,婚姻中である以上,法律上の夫の子として出生届を出すしかないということで,みな,あきらめてしまっているのであろうか。

300日規定の問題点(1)

2010-06-14 11:49:48 | 家族法
 最近はマスコミでもあまり話題にならなくなってきたが,問題がなくなったわけではないはずである。
 離婚後300日以内に生まれた子供は,前夫の子と推定される。そのため,長く別居が続いた後(当然,この間夫婦間の接触はない)に正式に離婚し,その離婚の日から300日以内に子が生まれても,前夫の子として届け出ないと,出生届が受理されないという,不都合が生じているようである。民法的には,嫡出推定の問題である。

 早く前夫と離婚すればよいとも思うが,女性の立場からすれば,前夫が協議離婚に応じなかったり,前夫の暴力等で前夫に接触を取ること自体ができなかったり,いろいろな事情があって別居期間がいたずらに長引き,結局,離婚後300日以内に別の男性との間の子が授かるという事態になってしまうのであろう。
 弁護士の立場で言えば,離婚を求めたいにもかかわらず上記のような理由で離婚できない女性は,もう少し上手に弁護士を利用すればよいとも思うが,やはり弁護士事務所の敷居は高いのであろうか。

 この,マスコミなどにより俗にいう300日規定といわれる上記のような問題点について,私には真の法的問題が伝わっていないような気がするのである。