実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

会社法改正法案-仮装払込の責任(3)

2013-12-26 15:53:47 | 会社法
 仮装払込の責任の改正法案がやや分かりにくい理由は、もともと現行会社法で資本充実責任をなくした根拠として、設立の場面でも打ち切り発行を全面的に採用したことが挙げられていたはずだったので、改正法案ではこの打ち切り発行との関係をどう解決するのか、立法的に手当てするのが筋のように思っていたのだが、その部分については何ら改正に手を付けないようだからである。
 つまり、仮装払込の責任と打ち切り発行との関係が改正案でどうなるのか。これがやや分かりにくいのである。

 ただ、状況を合理的に考えれば、払込が何もなければ打ち切り発行の問題となり、例え仮装でも払込があったように見える場合は、それが真の払込でないとしても株式そのものは発行されたものと扱って、あとは担保責任の問題とするのではないかと思える。
 その根拠として、例えば設立の場面での改正案を見ると、仮装払込をした発起人は、担保責任を果たした後でないと、設立時株主あるいは株主としての権利を行使できないとされ(改正案52条の2第3項)、ただ、当該設立時株式または株主となる権利を譲り受けたものは悪意重過失がない限り権利行使できるものとされている(改正案52条の2第4項)とされていることにも現れている。この規定を合理的に解釈すれば、仮装払込でも株式そのものは発行されるが、仮装払込しかしていない発起人は属人的に株主権の行使が制限されていると考えるべきなのだろうと思われるからである。

 ただし、募集株式の発行の場面での改正案では、担保責任は追加されるものの、株主権行使の制限に関する規定が存在しない。募集株式発行の場面では権利行使の制限をしないという趣旨だろうか。

会社法改正法案-仮装払込の責任(2)

2013-12-24 11:09:17 | 会社法
 設立や募集株式の発行の際、払込や給付が仮装であった場合には、仮装した発起人や株式引受人は仮装部分の全部の履行義務が生じることとなり、これに関与した発起人や取締役も同額の支払い義務を負うこととなる。いわば、払込・給付が仮装だった場合に限った払込・給付担保責任の復活である。
 もともと、資本充実責任をほぼ全面的に消滅させ、見せ金によって設立し、あるいは新株を発行したような場合に、株式の発行の打ち切り以上の対処ができないような内容となったことに対しては立法的な批判もあったようで、その批判を受けた上での一部復活劇なのだろうと思う。
 ただし、この規定について、資本充実責任という言葉で説明されることになるかどうかは分からず、また、従前の資本充実責任は無過失責任であったところ、改正法案では(仮装者本人はともかく)仮装に関与した発起人・取締役の責任は立証責任が転換された過失責任となる。

 もっとも、この仮装払込の責任に関して、改正法案ではやや分かりにくい部分がある。

会社法改正法案-仮装払込の責任

2013-12-19 09:57:11 | 会社法
 つづけて、会社法改正案について

 現行会社法が制定される前は、設立及び新株発行の場面で、資本充実責任と呼ばれる発起人や取締役の責任が定められていた。設立の場面では、引受担保責任、払込(給付)担保責任等と呼ばれており、新株発行の場面でも、払込がないにもかかわらずこれがあったものとして資本金の登記がなされた場合に、払込担保責任が存在していた。
 こうした資本充実責任は、現行会社法制定とともに消滅してしまった。その趣旨は、設立の場面でも打ち切り発行が認められたことから、発行すべき株式について引受、払込あるいは現物出資の給付がない場合は、そもそも株式が発行されなかったものとして打ち切ってしまうこととするのだから、そうだとすれば、そもそも株式が発行されたのに払込がないという状況そのものが存在し得ないという意味で、資本充実責任など必要がないという立法趣旨だったと思う。

 ところが、今回の会社法の改正案では、資本充実責任の一部復活を思い起こさせるような規定が盛り込まれている。

会社法改正法案-監査等委員会設置会社(4)

2013-12-16 13:56:24 | 会社法
 私が見る限り、監査等委員会設置会社と従前の監査役会設置会社との大きな点での違いは、既に述べた3つだけである。その他細かい点はまだよく見てないが、仮に第3の相違点があまり機能しないとすると、単に「監査役会」を「監査等委員会」に置き換えてることを前提に考えれば、大きな間違いはないのではないかと思う。
 その上で、監査役会設置会社との目立った違いを考えると、監査等委員会の委員は「監査役」ではなく「取締役」であることと、取締役(監査委員会の委員も含めて)の任期の点だけということになりそうである。

 この、「監査等委員会設置会社」の仕組みは、今回の改正の目玉の一つとされているが、以上のように監査役会設置会社とそれ程大きく違う仕組みとは思えない仕組みだとすると、以前のブログでも述べたように、海外の目から見た場合の「監査役」という仕組みのわかりにくさの解消ということそのものが主眼なのでしかないのかもしれない。
 それとも、私の偏見だろうか。

会社法改正法案-監査等委員会設置会社(3)

2013-12-11 16:49:01 | 会社法
 相違点の第2として、取締役の任期がある。監査等委員会設置会社の取締役の任期は基本的に1年とされ、ただ監査等委員会の委員たる取締役は2年とされるようである。この点は、取締役の任期が2年、監査役の任期が4年とされている監査役会設置会社とは異なり、取締役の任期が1年とされる「指名委員会等設置会社」(すなわち、現名称「委員会設置会社」)に近い。
 そのため、「指名委員会等設置会社」と同様、剰余金の配当等を取締役会限りで行う旨を定款で定めることを認めた会社法459条1項が当然に適用できるという効果が生じる。
 ただ、監査等委員会設置会社や「指名委員会等設置会社」でなくても、取締役の任期を任意1年と縮めることは可能である。そのため、監査役会設置会社で459条の適用を考える場合でも、取締役の任期を1年に縮めるか否かという当該会社の選択次第といいうるのである。

 第3の相違点として、取締役の過半数が社外取締役であることを条件として、一定の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができるようになるという点がある。この点は、重要な業務執行の決定を執行役に委任できるとする「指名委員会等設置会社」と同じような規律となる。
 しかし、この点はあくまでも全取締役の過半数が社外取締役とした場合であって、単に「監査等委員会設置会社」であればよいというものではない。少なくとも取締役の数が多い会社では、その過半数を社外取締役とすることはかなりの難題なので、上場会社を想定すると、実際上あまり機能しない規律のような気がする。