実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

会社法改正ー株式報酬(3)

2020-02-26 09:45:51 | 会社法
 この取締役の報酬としての募集株式の発行方法は、当然、取締役会限りで発行事項の決定ができなければおかしいのだが、改正法はこの点が非常に分かりにくく、募集株式の発行事項の決定機関を株主総会としている199条2項の規定の適用をすべきことを前提とした規定ぶりとなっており、取締役の報酬として発行する場合には取締役会限りで決定できることが必ずしも明示されていないのである。
 おそらく公開会社の特則として取締役会決議事項としている201条の適用を排除していないことから、当然、201条も適用すべしということなのだろうと思っている。

 株主総会決議事項としている199条2項の適用があり得る点については、おそらく、次のようなことを想定しているのではないかと思う。
 つまり、払込を要しない募集株式の発行だとしても、新株を発行する場合は資本金・準備金に関する事項を定めなければならないものとされており、定め方については法務省令で規定することが予定されている。そして、時価発行とみなそうと思えば、時価相当額を資本金・準備金に計上することになろうと思われ、この場合は、取締役会限りで発行できる。もし、資本金・準備金に計上する額が時価より著しく低い場合は、有利発行とみなして、株主総会特別決議を求めるという形になるのではないかと推測する。
 この点は、資本金・準備金について法務省令でどのように定められるかの問題となりそうである。

会社法改正-取締役の報酬(2)

2020-02-19 11:14:08 | 会社法
 まず、株式そのものを取締役の報酬として付与する方法については、取締役の報酬である以上、株主総会で付与する株式の上限等を定めることになり、その範囲で付与することになる。この点については、これまでも金銭以外の財産の報酬ということで不可能ではなかったと思われるが、会社法上も明示する形になった。

 もっとも、株主総会で株式報酬を定めれば、取締役会の判断で直ちに付与できるわけではなく、募集株式の発行の手続きを踏む必要がある。株式報酬の改正の最大のポイントは、上場会社が取締役に対する報酬として株式を付与する場合の募集株式発行の手続きにおいて、払込を要しない発行方法を定めた点にあると言ってよい。
 つまり、上場会社が取締役に対する報酬として募集株式を発行する場合は、発行事項として、取締役の報酬として発行するものであって払込を要しない旨、及び割当日を特別に定めることになる。

 通常の募集株式の発行の場合は、払込期日(払込期間を定めた場合は払込をした日)に株主となるが、払込は行わないので、割当日を定め、その日に株主となる、ということである。
 また、この募集株式発行の特則は、上場会社だけが利用できる仕組みとなっている。実質的に、インセンティブ報酬として株式を付与することの意味は、市場で株式を売却して換価できるからこそのインセンティブ報酬であり、株式を上場していない会社にとっては、株式報酬はあまり関係がないといえるからなのだろう。

会社法改正-取締役の株式報酬(1)

2020-02-12 14:42:46 | 会社法
 会社法改正で、株式報酬の位置づけが会社法上明確となってきた。

 教科書類を振り返ると、取締役に対するインセンティブ報酬として、ストックオプションの制度が始まったのが平成9年の商法改正からのようである。その後、平成13年改正で新株予約権という形で一般化して整備し直されており、これを役員や従業員に付与するのがストックオプションという位置づけになっている。
 ただし、ストックオプションの問題はこの先にある。一つは、発行手続きであり、一つはストックオプションの中身の問題である。
 また、ストックオプションではなく、株式そのものを報酬として取締役に付与するというインセンティブ報酬も考えられる。数年前に株式報酬の事実上の解禁等といわれたこともあるが、当時は、会社法の改正で行ったのではなく、もっぱら税制上の問題として捉えられていた。詳しいことはよく分からないが、要は、課税の繰り延べの問題のようであり、報酬として株式を付与した段階で税金が課されるのではなく、付与された株式を市場で売却して現金化したときに課税されるような税制改正をしたようなのである。
 ただし、これも問題があり、課税の繰り延べのための要件がかなり厳格で、使い勝手がかなり悪そうな仕組みになっているようなのである。

 以上の問題が、令和元年の会社法改正で一挙に解決したと言えるかどうかはともかく、会社法だけを考えた場合に、株式報酬の位置づけが、それなりに明確になってはきた。