実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分(2)

2010-10-28 10:04:15 | その他の法律
 まずは,地権者が,当該土地での無断建築を理由ととして建物建築者に建物収去土地明渡訴訟を提起し,地権者が勝訴し,その判決が確定したとする。ところが,当該建物が口頭弁論終結後に第三者に売却されたらどうなるか。これは,訴訟法的には既判力及び執行力の拡張の問題である。おそらく,口頭弁論終結後の承継人として,既判力も執行力も建物の譲受人に及ぶはずである。従って,地主としては承継執行文を付与してもらった上で,建物譲受人を相手に建物収去の強制執行を行うことが可能なはずである。
 建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分をする理由は,建物の第三者への売却を口頭弁論終結前に行われると,この既判力及び執行力の拡張がなされなくなってしまうからである。それでも,訴え提起後の売却であれば,訴訟引受の申立をすれば何とか処理できるが,売却されたことに気づかないまま判決となってしまうこともあり得る。訴え提起前に売却されていると,そのことに気づかないまま従前所有者に訴えを提起しても,訴訟そのものが実質的に意味をなさなくなる。こうしたことを防ぐために建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分が行われるのである。
 ここまではよい。

 問題なのは,建物の収去義務があるのは果たして誰か,ということとの兼ね合いなのである。

建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分(1)

2010-10-25 11:42:13 | その他の法律
 民事保全法は,あまり体系的な勉強はしたことがなく,とくに保全執行の効力では,私にとって不分明な点が多い。もっとも,勉強不足といわれてしまえば,それまでであるが……。

 建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分の効力も私にとって理解しにくい制度の一つである。
 民事保全法64条では,処分禁止の仮処分の登記後に建物を譲り受けた者に対し,建物収去の強制執行ができる旨,規定されている。そのため,何も悩みをもたなければ,処分禁止の登記がなされれば,その後の所有権移転登記は気にしなくてよいということになる。訴訟法的な説明をすれば,一種の当事者恒定的効力といえる。
 しかし,理論的になぜ処分禁止の仮処分の登記に遅れて建物を譲り渡した場合,その処分禁止の効力が譲受人にも及ぶといえるのか。私が問題としたいのは,実体法との接点である。順を追って,私の疑問を説明したい。

動産譲渡登記は利用価値がない?(3)

2010-10-19 10:09:48 | その他の法律
 特例法は,表面的には法人による債権譲渡と同様に,登記の対象となる動産の譲渡に基本的に制限はないので,一見するとあたかも法人の動産譲渡一般に対抗要件としての登記が利用できるかの如くに見える法律となっているのだが,事柄の性質上,現実の引き渡しがなされる世の中の大多数の動産の取引には必要ない制度なのである。
 しかし,そうであるならば,はじめから動産の非占有担保のための対抗要件の特例の登記,すなわち動産抵当として制度化した方が,むしろすっきりしたのではなかろうか。

 現在法務省で検討が行われている債権法改正において,債権譲渡は登記に一本化することが検討事項の一つとなっているようである。その趣旨は,おそらく債権譲渡の対抗要件を現在のように「通知承諾」と「登記」との二本立てとなって混乱しやすくなっている現状から,登記に一本化することによって,混乱を避けることが目的となっているのだろうと思われる。
 その立法の当否はともかく,仮に債権譲渡の対抗要件が登記に一本化されるとなると,当然その規定は民法典に置かざるを得ない(ただし,不動産登記法と同様に,登記手続に関する「債権登記法」という法律は別途必要であろう)。そうなると,動産譲渡登記だけが置き去りになってしまうのである。
 債権法を改正するという建前だから,債権譲渡の対抗要件制度の一本化ということだけがクローズアップされているが,そうであれば,動産譲渡についても,同様の趣旨として対抗要件制度の一本化(あるいは少なくとも対抗要件制度の再設計)は必要なのではないだろうか。ちなみに,債権法の改正において,この点はどのように考えられているのか,私は全く知らない。

 そして,債権譲渡と違い,動産譲渡を登記に一本化することが事柄の性質上およそ不可能である以上,債権法改正に併せて,改めて動産譲渡登記は動産抵当制度として再設計するのが望ましいような気がするのだが……。
 このように考えるのは,私だけであろうか。

動産譲渡登記は利用価値がない?(2)

2010-10-15 11:50:03 | その他の法律
 我々一般人が日常小売店などで買い物することも,法的には動産の売買(譲渡)なのであり,小売店等が法人であり,かつ,引き渡しまでに数日かかるような商品の売買であれば,法論理的に考える限り,動産譲渡登記を利用することは不可能ではない。しかし,このような事例では,現実問題としておよそ動産譲渡登記など利用価値はない。
 要は,通常の対抗要件たる引き渡しに代えて利用する対抗要件制度である以上,現実の引き渡しが必要不可欠な動産の譲渡では,動産譲渡登記の利用など考えられないのである。
 そうだとすると,動産譲渡登記を利用する場合として多く想定されるのは,現実の引き渡しが想定されない譲渡担保の場合がほとんどということになろうか。だからなのであろうが,動産譲渡登記の存続期間を原則10年を超えてはならないこととされ,将来的には「対抗要件が消滅」することが原則となっているような不可思議な登記(対抗要件)制度となっているのである。

動産譲渡登記は利用価値がない?(1)

2010-10-12 09:58:21 | その他の法律
 平成10年に債権譲渡登記なるものが制度化され,さらに平成17年だったか,動産譲渡登記なるものまで制度化された。
 債権譲渡登記は,実務でもわりとよく使われているようで,私が弁護士としての仕事をしている中でも債権譲渡登記を目にする機会は比較的増えていると言えるだろうか。債権譲渡登記に関する判例も登場しているようである。
 それに比べて,動産譲渡登記はどうなのであろう。

 そもそも,動産の譲渡に関して,登記をもって対抗要件とすることを広く活用することは,およそ考えにくい。なぜなら,動産の譲渡は日常茶飯事に行われており,毎日ゴマンと動産が譲渡されているが,それをいちいち登記することなど,およそ考えられないからである。