実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

会社法改正案-旧株主による代表訴訟(2)

2014-02-27 10:59:58 | 会社法
 旧株主による代表訴訟の提訴要件は、多重代表訴訟の提訴要件と異なっている。

 多重代表訴訟の提訴権を有する株主は、総議決権数の1%以上または発行済株式総数の1%以上の持株比率が必要であり、少数株主権として構成されているが、旧株主による代表訴訟は通常の代表訴訟と同様に単独株主権とされているという点である。
 ただし、責任追及できる範囲に限定があり、株式交換・株式移転の効力が生じるまでに役員の責任原因がある場合に限られる点である。別の角度から言えば、役員が責任を負う原因が生じた時点では、いまだ当該会社の株主であった者に限って提訴権があるということになる。

 このあたりのこれまでの立法過程を振り返ってみると、そもそもは、株主代表訴訟係属中に当該会社が株式移転をして提訴株主が当該会社の株主ではなくなってしまった事案で、株主代表訴訟の原告適格を喪失するという裁判例(最高裁判例ではなかったかもしれない)から始まっている。
 この裁判例の結果は、理屈は理屈なのであるが、この結果を認めると、恣意的な株式交換、特に恣意的株式移転により株主代表訴訟を免れることが可能となってしまうし、また株式交換や株式移転により提訴株主に完全親会社株式が交付される場合は、当該株主は、いまだ利害関係を有しているはずである。それにもかかわらず原告適格を喪失するというのはいかにもおかしい。
 そこで、このような場合でも原告適格を失わないようにする改正が行われ、それが現行会社法851条となっている。

会社法改正案-旧株主による代表訴訟(1)

2014-02-24 13:14:18 | 会社法
 今回の会社法の改正案では、株主代表訴訟の制度が拡充される。

 一つは、多重代表訴訟の新設といわれているが、完全親会社の株主が完全子会社の役員の責任追及ができるようになる仕組みである。これについては、既に要綱案の段階の内容についてこのブログにコメントをしており、改正案を見ても、基本的にそのコメントに付け加えることはないので、そちらを参照して頂きたい。

 もう一つは、目立たない改正であるが、株式交換・株式移転等により当該会社の株主でなくなっても、その完全親会社の株式が交付される場合は、一定の範囲で完全子会社の役員の責任追及ができる、というものである。改正案847条の2である。条文の見出しでは、「旧株主による責任追及等の訴え」という見出しになっている。
 この仕組みは、一見、完全親会社株主が完全子会社役員の責任を追及しようというのであるから、多重代表訴訟があれば問題がなさそうでもある。それにもかかわらず、完全親会社株主が完全子会社役員の責任を追及する多重代表訴訟とは別に規定したのはなぜか。

会社法改正案-差止請求(4)

2014-02-20 11:50:32 | 会社法
 おそらく、全部取得条項付種類株式の取得の差止請求や、株式併合差止請求を認める意義として、仮処分等の法的手続で差止を求めることができるようになるという点にあるのだろう。
 しかし、この点については、既に述べているように、その仮処分の効力は一体どうなのか。会社がその仮処分決定に従えばいいが、無視された場合にどうなるか。
 仮処分を無視した全部取得条項付種類株式の取得も株式併合も、もちろん無効である。しかし、それは仮処分があろうとなかろうと、特別な無効訴訟等が用意されていない以上、違法な行為ははじめから無効なのである。法律行為に関するごく当たり前の一般的法理である。決して仮処分の効力として無効になるのではない。

 結局、仮処分決定がなされた場合は会社が任意それに従うであろうことを期待することを前提に、いまだ全部取得条項付種類株式の取得の手続、株式併合の手続が終了する前に法的手続をとる利益を認めた点に意味があるということなのであろう。
 視点を変えて考えると、差止請求がなくても、全部取得条項付種類株式の取得手続の違法、株式併合の違法を、それらの手続が終了する前に法的手続で争えるのであれば、そういう方法で争うということも十分に考えられるはずである。そのようなことができれば、差止請求を認めるのと大して変わらない。ただ、その場合に訴えの利益が認められるか否かが問題となってしまう。そこで、差止請求という実体権を認めることにより、常に訴えの利益を認めたのと同じ効果が得られるようになったというふうに考えることができるのかもしれない。

 いずれにしても、全部取得条項付種類株式の取得の差止請求、株式併合の差止請求の制度は、私には今ひとつぴんとこないのである。
 もっとも、この点は、また別の視点で見ると、会社法の問題ではなく、差止等の不作為を求める仮処分の効力一般の問題なのかもしれない。
 あるいは、単に私の理解不足あるいは考え過ぎなのだろうか。

会社法改正案-差止請求(3)

2014-02-17 14:30:26 | 会社法
 募集株式発行差止請求の仮処分がなされた場面を考えると、これを無視する募集株式発行は無効原因だというのが判例なので、差止請求権の任意行使ではなく、仮処分等の裁判手続で行使すれば、それなりの意味はあることになる。
 要するに、募集株式発行無効原因と結びつけて考えられるのである。

 では、例えば今回の改正案で新たに認められるようになる全部取得条項付種類株式の取得の差止請求はどうか。
 まず、改正案における差止請求の要件をみると、全部取得条項付種類株式の取得が法令または定款に違反する場合で、株主が不利益を受ける恐れがある場合となっている。
 一見すると分かったような規定ぶりではあるが、しかし、よく考えてみると、全部取得条項付種類株式の取得が法令や定款に違反する場合の効果を考えると、そもそも全部取得条項付種類株式の取得そのものが当然に無効なのではないのだろうか。
 どういうことかというと、募集株式発行差止請求の場合は、たとえ違法な募集株式の発行であっても、差止の仮処分をしておかないと募集株式の発行が有効とされてしまう場合があるため、差止仮処分をしておく意味がある。しかし、違法な全部取得条項付種類株式の取得の場合、私の理解では当然に無効なはずで、何か無効訴訟を提起しなければ無効を主張し得ないとか、無効原因が制限されて解釈されているなどといった類のものではないはずである。

 なので、現行法でも、違法な全部取得条項付種類株式の取得が行われようとしているのであれば、株主は会社に対し事実上それを指摘し、それでも実行してしまった場合は後からその有効性を争うという形で処理すればよいはずである。それ以上に、上記のような要件の下で差止請求を認めることの意味は、一体どこにあるのだろう。それとも、現行法の私の理解が根本的に間違っているのだろうか。
 同じことは、改正案で認められるようになる株式併合差止請求でもいえることである。差し止めの要件は全部取得条項付種類株式の取得の差止請求とほぼ同じである。だとしたら、違法な株式併合ははじめから無効なのであり、差止請求権などなくても、事実上違法であることを指摘すれば足りるようにも思える。

会社法改正案-差止請求(2)

2014-02-10 10:39:51 | 会社法
 ところで、会社法上の差止請求とは、一体何であろう。
 といっても、こういう疑問を提示すること自体、あまりにも漠然としすぎているかもしれない。

 例えば、募集株式発行差止請求で考えて見る。これは実体法上の権利なので、裁判外で行使しても構わないと言われる。ところが、任意に差止請求をしても会社がこれを無視してしまうこともあるので、仮処分等で行使することが考えられるとされる。これはどういうことかというと、任意に差止請求は無視されてしまうと何の意味も持たないことを当然の前提としている。
 では、差止仮処分が無視されて募集株式が発行されてしまった場合はどうか。判例はさすがに無効原因だというが、学説上はその場合でさえ直ちに無効原因にならないという説も有力なのである。
 それではさらに、仮処分ではなく、本案訴訟で差止判決がなされたらどうなのか。差止判決を無視して募集株式が発行されてしまった場合どうなのかは、少なくとも教科書レベルではなにも書かれていないのではないだろうか。このあたりのことは、以前にもこのブログで述べたことがあるかもしれない。

 結局、何が言いたいかというと、いくら差止請求が認められると言ってみても、差止請求が無視された場合の効果がどうなっているのか、これを考えないことには何のための差止請求なのかが分からないのではないか。
 これが、私の疑問なのである。