実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権差押命令における差押債権の特定性(3)

2011-01-07 10:19:07 | 民事執行法
 個別の支店ごとでの差押えに関していえば,現在の預金取引では,口座開設にもかなり厳格な本人確認を行い,また,銀行が破綻した場合のペイオフが導入されたのに伴い,預金者の名寄せが比較的速やかにできるような体制になっているはずである。現在のこうした預金取引の実際を考慮すると,必ずしも個別の支店ごとに差押えをしなくてもよいのではないかとも思える。
 保険契約については,名寄せのような仕組みがどの程度まで整っているのか,必ずしも私は知らない。そのため,保険会社にとっては,相変わらず間接的特定では迷惑ということになってしまうのであろうか。

 また,ことは,預金債権や保険金請求権のみの問題ではなく,債権の差押全般に関する特定の問題である。仮に間接的特定(例えば契約日の先後だけでの特定)だけでは第三債務者として調査が困難だからといって,差押債権者に極めて厳格な特定事項の記載を要求するのでは,事実上債権差押えを不可能たらしめるものであり,差押債権者が迷惑ということになるのである。
 仮に,契約日の先後だけで特定された債権差押命令を第三債務者が受け取ったときは,とりあえず調査可能な範囲で調査をした上で,その調査結果を差押え債権者に通知すべきではないだろうか。民事執行法147条の陳述として調査結果を陳述するという方法もあると思われる。差押え債権者としても,当てずっぽうで債権差押えを行うことはそれほど多いとは思われず(銀行預金だと時々あるか),漠然とでも,債権の存在についての何らかの情報があるからこそ債権の差押を行っている場合が多いと思う。そうだとすれば,第三債務者から通知・陳述を受けた差押債権者は,第三債務者による調査結果のほかにも債権があると思われる情報を持っていれば,そのことを第三債務者に伝えるはずである。このような相互協力に基づいて差押えの対象となる債権を具体的に特定できると思うのである。それでも漏れがあった場合は,民法478条等により第三債務者を救うべきであろう。
 もっとも,差押債権者が特に情報を持っているのであれば,分かる範囲で予め特定していくことが望ましいことは当然であろう。

 実務で使う書式集も,保険金請求権の特定に代表されるように,要は特定するために必要な事項を全て列挙しているものの,そのうち分かる範囲の記載を求めているというように理解すべきなのであろう。そして,ピンポイントで一つの債権を特定できないとすれば,対象債権が複数存在する可能性もある特定方法だとすれば,契約日や契約番号等の先後でも特定すべきということになるのであろう。

 とりあえず,法律雑誌の見出しを見た感想である。

1 コメント

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Unknown (Ageeからカキコミ)
2011-01-07 21:43:16
なるほど…。参考になります!いつもこのブログを見るのがとっても楽しみです(*^^)vこれからも楽しみにしていますね☆
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