実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

特許の間接侵害(3)

2010-05-28 13:03:42 | その他の法律
 間接侵害は,条文上は「みなす」となっているため,形式的に間接侵害の規定に該当する以上,特許侵害と「みなす」のが,もっとも文意に忠実であり,その意味において独立説は文意に忠実と言える。
 しかし,現在は独立説をそのまま徹底する学説は存在しないようで,独立説を採用しながら,前回ブログで説明した①から③のような事例は,間接侵害に当たらないとする学説が多いようである。そうしないと,例えば,①のような事案で間接侵害を認めてしまうと,実施権者は,その実施品にのみ使用する部品の製造を下請けに出すことができなくなりそうであるが,それが実質的に妥当かどうかはかなり怪しいことは明らかであろう。
 逆に,従属説を徹底すると,直接侵害の他に間接侵害を認める理由が乏しくなる。また,⑤間接侵害品がどこでどのように使用されているのかが判明しない場合,直接侵害が証明できないために,結局間接侵害と認められないことになりそうであるが,従属説を採りながらも,⑤の場合は間接侵害を認める説も存在するようである。
 このように,独立説も従属説も,必ずしもそれぞれの立場を徹底しているわけではなく,事案に応じて修正して考えているようで,そのため,独立説,従属説という対立を超えて,個々の事案で実質的に考えるべきという学説も存在するようである。

 そもそも,直接侵害のほかに,法はなぜ間接侵害という類型を認めたのか,その法意が必ずしもはっきりしていないように思われるのである。消極的な理由としては,直接侵害だけでは特許権の保護に足りないということは間違いないのだろうが,どのように足りないのかが,必ずしもはっきりしないのである。下級審の判例では,上記④のような事例を特許侵害とするために間接侵害が存在すると判示するものも存在するが,果たしてそうであろうか。

特許の間接侵害(2)

2010-05-25 16:01:43 | その他の法律
 間接侵害についての従前の議論,すなわち,1号と4号に相当する規定しか存在しなかった時代の間接侵害の議論として,独立説と従属説の対立が存在した。
 私の理解では,独立説は,間接侵害がなされた場合は,特許権の直接侵害がなされたか否かにかかわらず,これとは独立して特許侵害を認めようとする説で,従属説は間接侵害が特許侵害となる場合は,あくまでも直接侵害がなされることが前提となっている場合だとする説だと,理解している。
 具体的に,どのような場合に差が出てくるかというと,①実施権者の下請けとして当該特許にのみ用いられる部品を製造し,実施権者に販売した場合に,特許法101条1号や4号の間接侵害に該当するか否か,②特許の効力は,試験や研究のためにする特許発明の実施には及ばないところ(特許法69条1項),当該特許にのみ用いられる部品を,当該特許の試験研究のために製造販売した場合に間接侵害に該当するか否か,③特許発明品を輸出する行為は,平成18年改正前までは,日本の特許法の効力は及ばないと解されているところ(当該発明品の輸入先である海外特許で保護すべきということのようである),当該特許にのみ用いられる部品を,輸出する製品のために製造販売した場合に間接侵害に該当するか否か(ただし,輸出は,平成18年改正で特許権者でなければできないこととなった。),といったような場合に,独立説と従属説の考え方が分かれるらしい。
 独立説を徹底すると,上記①から③いずれも間接侵害に当たるが,従属説を徹底すると,直接侵害がなされていない以上,いずれも間接侵害に当たらないと説明される。
 また,独立説を前提に,④特許製品が容易に2つに分解でき,一般消費者でも容易に再び結合できるような製品だった場合に,特許製品をことさらに2つに分解して,一般消費者が結合して使用させることを意図して,分解した2つの商品をそれぞれ別個に販売するようなことを想定し,間接侵害は,このような場合を想定して規定されたのだと理解する考え方も存在するようである。
 独立説,従属説に関する最高裁の判例は存在しないようで,下級審判例の中には独立説を採るもの,従属説を採るものがないわけではないようだが,普通の議論とは,若干趣旨を異にしているようであり,あまり参考にならなそうな判例である。

 以上の議論は,間接侵害の規定が1号から6号まで増えた現在でも,一般的な教科書のレベルではあまり変化はなさそうである。

特許の間接侵害(1)

2010-05-21 11:09:23 | その他の法律
 まず始めに断っておくことは,私は特許侵害訴訟をしたことがないわけではないが,特許法の専門家ではない。というよりは,ここで述べることは,特許の専門家ではないからこその発想であると思っている。

 特許権を侵害した場合は,もちろん不法行為として損害賠償の対象となるほか,その侵害の停止や予防を請求することができ,同時に侵害行為を組成した物の廃棄や侵害行為に供した設備の除去等の予防に必要な行為も請求できる(特許法100条)。これは,いわば特許の直接侵害の場合である。
 その他に,特許権のためにのみ用いる物の生産,譲渡,輸入等も,特許権を侵害したものと見なされる。これが,間接侵害といわれる類型で,現行特許法101条に間接侵害の類型が列挙されている。
 現行特許法101条は1号から6号まで存在するが,かつては1号と4号に相当する規定(現在は,これらを客観的間接侵害などというようである。)しか存在しなかった。それが,平成14年改正で2号と5号に相当する規定(これらを,主観的間接侵害などというようである。)が追加され,さらに平成18年改正で3号と6号が追加され,現在の条文となっている。
 間接侵害の規定が充実化されてくる理由は,直接侵害のみを差し止めや損害賠償の対象としていたのでは,実質的な特許侵害に対して十分な保護にならないからだといえよう。

 この,間接侵害についてのこれまでの学説(今後述べるように大きく分けると2説ある)が,私にはどちらも間違っているようにしか思えないのである。

改正貸金業法の全面施行(2)

2010-05-17 15:29:54 | 時事
 それよりなにより,総量規制導入により消費者金融業者が真に心配していることは,過払金返還請求が一気に増えることではないのだろうか。
 これまで長い間継続的に消費者金融を利用していた多重債務者が,総量規制により借入ができなくなると,借金整理のために弁護士や司法書士のもとに駆け込む事例が一気に増えることが予想できる。そうなると,当然に過払い案件も一気に増える可能性も高い。
 消費者金融業者が総量規制の延期を求める真の理由は,表面的な理由ではなく,この点にありそうな気がしている。
 もしそうだとすると,総量規制実施延期論は,消費者金融業者側のわがままの理屈ということである。なので,総量規制は例外なく実施されるべきであろう。

 ただし,貸金業者側にも気の毒な点がないとも言い切れない。なぜなら,旧(平成18年改正前)貸金業規制法43条の見なし弁済の規定の適用がなさそうな貸し付けについて,役所は適切な指導をしてきたのであろうか。仮に,最高裁の判例が,同条の適用につき,予想以上に貸金業者側に厳しい判断をするようになったという実態があったとしても(ただし,それは貸金業者側あるいは役所の見方であって,弁護士の立場からすれば当然の判例が多く,むしろ予想よりも貸金業者よりの判断をしている判例も決して少なくない。),あくまでもグレーゾーンの金利での貸し付けについては,旧貸金業規制法43条の適用がない限り無効な金利であることを適切に行政指導しておく必要があったのではなかったか。そもそも,法律がグレーゾーンを設けていたこと自体,立法の過誤のような気がしてならない。
 結局,これまでの法律は,一見すると貸金業者によるグレーゾーン金利での営業を自由に認めた一方で,後になってから無効な利息の徴収だとして貸金業者の利益が没収させられているに等しい。
 つまりは,グレーゾーン金利で損をしてきたのは,貸金業者からの借入をしていた人だけではなく,貸金業者自身も,利益と思っていた利息収入が,過払金返還請求を受けることによりそれが利益ではないといわれることによって,大きな損をしているはずなのである。

 結局,グレーゾーン金利の存在で笑っているのは,消費者破産を数多く手がけている一部の弁護士や司法書士だけであろうか???
 しかし,グレーゾーン金利がなくなる以上,過払金返還請求権を目当てにして商売をしている弁護士は,いずれ淘汰されていく存在であろう。

改正貸金業法の全面施行(1)

2010-05-13 13:20:56 | 時事
 改正貸金業法(平成18年改正)が,6月18日から全面施行されるようである。グレーゾーン金利の撤廃と総量規制がやっと施行になるといった感じである。
 グレーゾーン金利については,少なくとも消費者金融業者のうち,大手の業者は法改正を先取りして,既に利息制限法所定の金利以下での貸し付けをしているようであるが,総量規制については,文字通りこれからようやく実行されることになる。

 ところで,多くの弁護士の立場からすると,待ち望んでいた改正法の全面施行がようやく目の前に迫ってきたといったところだと思うが,貸金業者の意見としては,総量規制により借入が出来なくなる消費者が増え,これをきっかけに破産者が増加したり,あるいは闇金融に流れることを懸念する声も存在するようである。
 このような意見について,私は,一部そのような弊害的な現象が起きる可能性を否定はしないものの,仮に破産者が増えるという現象が起きても,一時的な問題に過ぎないはずだし,むしろ借りすぎの消費者に破産手続を取らせることは,その人の人生設計のやり直しのきっかけになるはずである。
 破産手続は,決して破産者の懲罰のための制度ではない。確かに破産手続きを取れば,その時点で財産のほとんどを投げ出す必要はあるが,同時に借金も免除されるので,個人破産は,むしろ破産者の更生のための制度と位置づけることができる。したがって,多重債務者には破産手続をうまく利用すること勧めるべきなのである。

 そして,闇金融は総量規制の実施とは無関係に撲滅させなければならない。