実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権法改正-債権譲渡の禁止特約(4)

2015-05-28 10:53:58 | 債権総論
 さらにもっと進めて、預金については、譲渡禁止特約の有無にかかわらず、その譲渡を政策的に禁止するという法政策も考えられそうであるが、そこまで踏み込むのは、さすがに問題が生じそうである。

 譲渡性預金というものの存在をご存じだろうか。金融界ではCDといったりする。Compact DiskのことでもCash Dispenserのことでもなく、Certificate of Depositの略だそうである。
 一般の人にはなじみはないと思うが、コール市場などの金融機関内の市場で流通しているらしく、機能からすると、預金というよりは銀行が発行する短期社債に近いだろうか。しかし、法的性質はあくまで預金のようで、自由に譲渡ができる預金である。
 世の中には、このような譲渡性預金もある。そのため、一般の預金については、あくまで譲渡禁止特約の有無を問題とせざるを得ないのだと思われる。
 ただ、そうだとしても、譲渡禁止預金の譲渡について、悪意重過失を問題とする従前の仕組みのままとしたのはなぜなのだろう。どうしてもその疑問はぬぐえない。

 以上が、債権譲渡の禁止特約に関する改正についての、何となくの感想である。

債権法改正-債権譲渡の禁止特約(3)

2015-05-21 10:15:00 | 債権総論
 もっとも、預金債権に関する限りでは、その譲渡禁止特約の物権的効力を残すこととなり、悪意・重過失ある譲受人には譲渡の効力を認めない仕組みを残した。つまり、現行法の仕組みと同じである。
 なぜそうしたかについて、ものの本によると、従前の判例では譲受人の重過失が否定されることはほとんど皆無であり、銀行実務をそれを前提としてシステム構築されており、システム変更することも変更とのシステム運用も大変な労力とコストがかかること、預金債権についても改正法の原則を採用すると預金の払戻実務に混乱が生じること等が言われているそうである。仮にもう一つ現代政策的なことを言えば、預金口座が簡単に譲渡されて他人名義の預金口座が振り込め詐欺などに悪用されるようなことを避けるという意味合いも含めてもよさそうであるが、どうであろう。

 ただ、もし以上のような理由で預金債権の譲渡禁止特約の物権効を残すのであったなら、そもそも善意・無重過失ある譲受人には効力を認めないのではなく、およそ一切譲渡の効力を認めないという仕組みでもよかったのではないだろうか。むしろその方がすっきりしていたような気がする。過去の判例上、どうせ譲受人の重過失が否定されることが皆無なのであれば、重過失の有無という問題を立法的に残すことに、どれだけの意味があるのだろうか。
 また、預金債権について譲渡禁止特約の物権効を残す理由が上記のような理由だとすると、理論的な問題というよりはかなり政策的な問題である。その意味では一般法たる民法に規定する事柄ではなく、銀行法その他の特別法に罰則付で規定すべき事柄のようにも感じるのは、私だけであろうか。

債権法改正-債権譲渡の禁止特約(2)

2015-05-19 13:24:24 | 債権総論
 そこで、債権法改正では、譲渡禁止特約について債権的効力説を明示的に採用することになった。つまり、譲渡禁止特約付債権であっても債権譲渡の効力は妨げられないとし、ただ、譲受人が譲渡禁止特約付であることを知っていたか、あるいは知らなかったことに重過失があれば、債務者は、譲受人からの請求を拒むことができ、譲渡人(もとの債権者)に対して弁済すれば、その効力を譲受人に対抗することができるという、言ってみれば人的抗弁のような構成を取ることとなった。
 また、債権的効力説を採用することにより、たとえ譲受人が譲渡禁止特約付であることに悪意であったとしても、譲受人に対して弁済することは当然にできることになり、債務者としては譲渡人(もとの債権者)に弁済しても譲受人に弁済してもどちらでもよいことになる。そこで、悪意の譲受人としては、譲受人に対する弁済を拒否されても仕方のない立場ではあるものの、債務者が誰に対して弁済するのかはっきりさせるために、履行期に履行がない場合は、譲受人は債務者に対し、相当の期間内に譲渡人に対して弁済するよう催告することができ、その催告期間内に弁済がない場合は、譲渡禁止特約をもって対抗することを認めないこととなった。これにより、債務者のどっちつかずの対応を許さないこととしたのである。

 これはあくまでも私個人的な意見なのであるが、実務をやっている感覚では、譲渡禁止特約は債権者よりも立場の強い債務者がその特約を付する場合が多く、しかも、悪意重過失の有無が争点となってくることが多いので、譲渡禁止特約そのものがあまり好ましい仕組みには思えない。
 債権的効力説を採用するのは、単に判例に従うというだけでなく、多少でも譲渡禁止特約の効力を緩めるという意味でも、それなりの意味がありそうである。

債権法改正-債権譲渡の禁止特約(1)

2015-05-14 17:08:25 | 債権総論
 現行法上、債権はその性質上譲渡が許されない場合以外は、基本的に自由に譲渡することができるが、ただし、当事者が反対の意思表示をした場合は譲渡できない。この反対の意思表示のことを、一般に譲渡禁止特約ということがある。
 この譲渡禁止特約の効果について、伝統的には物権的に譲渡できなくなるといわれていた。「物権的に」譲渡できないというのが、何とも不可思議な言葉であり、いかにも学問的な用語の使い方であるが、要は譲渡禁止特約付の債権は、債権譲渡の意思表示ではその債権の帰属を第三者に変更することができないことを意味している。当たり前のことのようであるが、法的な考え方としては、譲渡禁止特約があっても債権譲渡により債権の帰属は譲受人に移転するものの、債務者はその債権譲渡の事実を無視しうるに過ぎないという考え方もあり得るところなのである。この考え方を「債権的」効力というように区別して言うことがある。伝統的な学説では、譲渡禁止特約の効力は、「債権的」ではなく「物権的」なのだと説明されたのである。

 ところが、こうした伝統的な考え方に対し、5、6年前の判例では、譲渡禁止特約は物権的効力ではなく債権的効力しかないと考えないと説明しにくい判例が登場していた。

 翻って考えて見ると、譲渡禁止特約は、債権者が変更することによる債務者の不便をなくすための仕組みであり、もっぱら債務者を保護するためのものでしかない。そうだとすれば、債務者とすれば債権譲渡の事実を無視できる状況を作り出せればそれでいいのであり、その意味では、考え方としては「債権的」効力がありさえすれば、それで十分だったのかもしれないのである。