実務家弁護士の法解釈のギモン

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譲渡禁止特約付債権の担保(3)

2010-09-06 11:03:24 | 債権総論
 前回のブログは,あくまでも「債権譲渡」の効力として考えた場合の話である。
 しかし,「債権の譲渡担保」として考えた場合に,これを権利移転的効力ではなく担保的効力として把握してはいけないのであろうか。もし担保的効力として考えることができたとすれば,比較として参考となる制度が存在する,それは債権質である。債権を担保にする際に民法が典型的に用意している債権担保の制度だからである。

 それでは,もし,譲渡禁止特約付債権に質権を設定したら,その効力如何。あまり考えたことはなかったが,平成21年判例をいろいろと考えているうちに,避けて通れない問題のように思えたのである。そしてまた,事案としてはいくらでもあり得そうな事案でもある。ところが,簡単に調べた限りでは,この種の事案に関する上級審判例は,大審院時代の古い判例が存在するだけのようである。これも正確に調べているわけではないが,譲渡できない物を質権の目的とすることはできないという民法343条の存在を前提に,譲渡禁止特約付債権もこれに抵触し,ただ,特約の存在に付き質権者が善意の場合は結局債権質を取得できるという判例のようである。
 手頃な教科書では,道垣内教授の担保物権法第2版106頁で簡単に触れられているのを見かけた。そこでは,民法343条から譲渡禁止特約付債権は質権の目的になり得ないとし,その理由として,質権の実行においては,当該債権が設定者から第三者に移転することになるからであると説明する。ただし,民法466条2項ただし書きによって,質権者が善意ならば有効に質権を取得するという。

 しかし,道垣内教授のこの理由付けには,私はどうしても納得できない。なぜなら,債権質の実行に関する限りで言えば,当該債権そのものが設定者から第三者に移転することは,民法では予定されていないからである。あくまでも質権者に直接の取立権が発生するに過ぎないはずである。仮に第三者に移転することがあり得るとすれば,それは,債権質の実行を民法上の取立権に基づいて実行するのではなく,民事執行法の規定に則って実行する場合である。この場合には,確かに転付命令や譲渡命令により当該債権そのものが質権者あるいは第三者に債権が移転してしまうことが生じうる。しかし,道垣内教授がこのことを想定して「第三者に移転」することを問題とするならば,それは誤りといわざるを得ないと思うのである。なぜなら,譲渡禁止特約付債権であっても,差押えは可能というのが判例通説だからである。その差押えが債務名義に基づく強制執行としての差押えだけでなく,担保権実行による差押えであっても,理屈は同じだと思えるのであり,債権者・債務者間の合意のみで差押え不可能な債権を作り出すことを認めるべきではないのである。
 つまり,譲渡禁止特約付債権の質権設定の可否と実行との関係でいえば,仮に質権設定が可能であれば民事執行法の規定に則った実行方法も認めるべきという,演繹的思考操作しかあり得ないはずなのである。その意味において,私には譲渡禁止特約付債権と民法343条の法意とは,ずれがあるとしか思えないのである。

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