実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権法改正-代理人の利益相反取引(1)

2014-10-30 13:40:55 | 民法総則
 代理人が行う自己契約や双方代理は、現行民法上、「代理人となることはできない。」と規定し、あたかも自己契約や双方代理としての代理行為は、絶対的無効であるかの如くの規定ぶりとなっている。しかしが、解釈上、自己契約や双方代理は無権代理行為と考えられていた。

 改正要綱仮案では、このことを明確にする改正を行う。すなわち、「代理権を有しない者がした行為とみなす」という表現ぶりに改められる。
 表現の仕方としては、やや奇異な感じを受けるが、要は無権代理行為とみなすということであり(なので、表現の仕方としても「無権代理行為とみなす」という表現方法の方が素直な気がする。)、従来の解釈を追認する改正である。
 この点は、どうということのない改正である。

 これに加えて、以上のほかにも本人と代理人との利益相反行為全般も無権代理行為とみなすことになった。
 想定しているのは、おそらく会社法で規制されている、取締役の利益相反取引で問題となる間接取引のようケースであろう。例えば、債務者が保証人を代理して債権者と保証契約を締結するような場合が典型であろう。
 現実的にも、債務者が署名代理の方法で保証人と債権者との連帯保証契約書に署名するということは、十分に想定できそうである。改正仮案によれば、こうした保証契約も、基本的には無権代理行為になるはずである。

債権法改正-錯誤(2)

2014-10-24 10:17:53 | 民法総則
 しかし、実際は必ずしもそう単純ではない。例えば、教科書レベルでよく紹介される古い判例として、駄馬を良馬と勘違いをした場合を動機の錯誤の一例として紹介されるが、この判例は、必ずしも動機が表示されていなくても錯誤無効を認めたとされる判例であり、数の中には、このように動機が表示されていなくても錯誤無効を認めた判例があるらしい。
 もし、動機の錯誤に関して動機が表示された場合だけ錯誤取消を認める法改正をした場合、こうした過去の判例の事案のような場合にどのように処理すべきということになるだろうか。

 実は、現行民法の錯誤の規定は、要素の錯誤の場合に無効と規定しており、この「要素の錯誤」とは何かという点に関してかなり柔軟性を持った解釈が可能だったのではないかとも思うのである。この柔軟性から、一定の範囲で動機の錯誤を取り込みやすかったともいえるし、その場合にどのようにして動機の部分を取り込むかに関しても、究極的には「要素」性で解決していたということはなかったであろうか。動機が表示されていれば、「要素」性が認められやすいために、動機の錯誤に関する有名な判例として登場していたのかもしれないし、仮に表示されていなくても、その動機自体が取引の「要素」となっていれば、やはり錯誤無効を認めていたのではないか、という気がしないではないのである。

 第3の改正点としては、重過失ある錯誤は取り消しできないが(この点は従来通り)、それでも相手方において、表意者が錯誤に陥っていることにつき悪意・重過失がある場合や、相手方も共通の錯誤に陥っている場合には取消可能となっている。
 この点は、従来の解釈も同様の解釈が目指されていたような気がする。

 第4として、錯誤にも第三者保護規定が設けられる。善意無過失の第三者を保護するのである。
 この点についても、従前から善意無過失の第三者は保護すべきという議論はあったような気がする。錯誤に陥る表意者にも落ち度はあるし、やむを得ないのかもしれない。

 錯誤の改正で重要なのは、やはり動機の錯誤の部分であろう。要綱仮案のとおりに改正になった場合に、実務がどのように動くか、注目である。

債権法改正-錯誤(1)

2014-10-21 10:51:52 | 民法総則
 錯誤の改正は、表面的には何となく分かるのだが、かなり難しい問題を含んでいる。そのため、聞くところによると、錯誤の改正は大変に紛糾したらしい。

 まず、第1の改正点は、錯誤を無効原因ではなく取消原因とした点である。錯誤の規定が表意者保護規定であり、従前から取消的無効というようないわれ方をするほど、取消に近づけて解釈をしてきていただけあり、おそらくあまり異論はないのであろう。

 第2の改正点として、動機の錯誤をどう取り込んでいるか。この点が大問題なのである。
 要綱仮案では、錯誤取消となる場合として2類型を規定し、その1は、意思表示に対応する意思を欠くものであり、その2が、表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反するものである。
 その1は従来の錯誤と同様に効果意思に欠ける場合であり、その2が動機の錯誤の場合である。ただし、動機の錯誤による意思表示の取消は、当該事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができるとされる。
 以上の改正を見ると、おおざっぱには、教科書レベルでよく最高裁の判例の立場といわれる内容を立法化した改正といえそうではある。

債権法改正-公序良俗、意思能力

2014-10-17 13:35:53 | 民法総則
 債権法改正の要綱仮案では、公序良俗の規定を改正する。「公の秩序又は善良な風俗に反する法律行為は、無効とする。」と改正するというのである。
 一見すると何も改正になっていないようであるが、現行法をよく見ると、「公の秩序又は善良な風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」となっている。要は、『事項を目的とする』を削除するだけである。法律行為の目的が公序良俗に反する場合だけが無効とすべき場面ではないことから、現在の解釈でも、『事項を目的とする』という部分は無視して解釈されているはずである。その解釈を追認する改正であろう。全く問題のない改正である。

 次に、前回も述べたが、意思能力の規定を設けることになり、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しないときは、その法律行為は、無効とする。」という規定を設けることになる。その中で、意思能力そのものの定義付けはしない。
 意思能力に関する規定を設けること自体は異論がないだろうと思われる。
 問題は、意思能力の定義を設けることが是か非かであるが、私は設けない方がいいような気がしている。意思能力の意味については、あくまでも解釈に任せておけばいいのである。

 要は、公序良俗も意思能力も、従前の解釈とは何ら変更はないということであろう。

債権法改正

2014-10-14 10:36:10 | 民法総則
 先般、民法債権法改正の動きに関し、要綱仮案が公表された。要綱の「仮」案としていることの意味が分からないが、約款の部分が先送りされたままだからであろうか。

 要綱仮案の内容をざっと見たところでの感想としては、だいぶ穏やかになったと思っていた中間試案の内容よりも、さらに穏やかになっており、細かい点ではいろいろとあるかもしれないが、全体的にはこんなものなのかもしれないと思える改正案となっているように思う。
 例えば、このブログでも若干の懸念を示していた意思能力について、特にその定義を規定することなく、法律行為をした時に意思能力を有しないときはその法律行為を無効とすることだけを規定するにとどめられるようである。意思能力の定義を設けないということは、その意味は解釈に任せようという趣旨なのだろうと思う。私は、それはそれでいいのではないかという気がしている。

 聞くところによれば、法制審議会において、委員全員のコンセンサスが得られない事項については、改正の要綱案から落とすということになったそうである。意思能力の定義を設けなかったということは、その定義にコンセンサスが得られなかったということなのかもしれない。
 ほかにもこうした現象は多数ありそうなのだが、以外にこれがうまく機能しているような気がしており、結果として債権法改正の内容が穏やかなもの、つまりは納得しやすいものになったといえるのではないだろうか。

 このブログでは、このところ会社法の改正内容について触れてきたが、これからしばらくは、債権法改正の要綱仮案について、私なりの感想について触れていきたいと思う。