実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

抵当権の時効消滅?(5)

2018-04-25 10:10:04 | 民法総則
 ちなみに、私の誤解でなければいいのだが、担保権には、換価権が内在しているという、私に言わせれば亡霊のような観念がつきまとっており、担保権の実行は被担保債権の権利行使とは異なるとでも言いたげな考え方が横行していないだろうか。しかし、担保権の実行は、被担保債権の満足という目的を抜きに語ることができないはずであるから、被担保債権の権利行使そのもののはずだと、私は思っている。
 つまり、債権の掴取力を行使する方法は、債務名義に基づく強制執行(その前提としての訴権)の方法と、担保権を実行する方法があり、どちらも債権の権利行使そのものだと思うのである。そして、債務名義に基づく強制執行は債権者平等を前提とした配当であり、担保権実行では優先弁済が可能という違いはあるが、それは両手続の効果面の違いに過ぎない。
 そして、破産免責後の担保権の実行も、この被担保債権の権利行使の一形態だと考えれば、やはり被担保債権の10年の消滅時効は観念できるはずである。このように考えれば、破産免責によって担保権設定者の負担が時間的に長くなるという(私に言わせれば)おかしな結論にはならないことになる。

 破産免責の効力との関係なので、講学的には倒産法の分野の問題かもしれないが、担保権の実行とは実体的に何かに関することだとすれば、民法学者が論じるべき部分だと思っている。
 その意味で、今回の判例についての、民法学者の批評を聞きたいものである。

抵当権の時効消滅?(4)

2018-04-19 09:18:47 | 民事訴訟法
 別の角度から説明すると、破産債権は個別の権利行使を禁止しているとはいえ、破産法100条1項の規定からして、破産法に特別の定めがある場合は除かれる。そして、別除権は、この特別の定めに当たるのではないか。ちなみに、相殺権の行使もこれに当たるのだろう。
 そうだとすると、別除権の行使は、債権の個別的権利行使の一つなのである。そして、例外として個別の権利行使を認めている範囲では、免責の効力も及ばないのではないか、ということである。

 免責の効力について、観念上、自然債務化するというか、消滅するというか(さらに、通常はこのような言い方はされないが、個別の権利行使禁止の趣旨を貫けば、訴権や執行力の排除という言い方も想定しうるかもしれない。)という問題はあるが、要は説明の問題に過ぎず、自然債務説を採れば、担保権実行後の満足は、まさに存在する債権の充当という説明になるであろうし、消滅説で考えても、担保権実行時の満足の範囲内では債権は存在するものとみなすという考え方も十分にできる。その解釈の根本には、端的に、例外として債権の個別的権利行使が許された範囲では免責されないという素直な解釈を介在させればいいだけである。

 以上のように、担保権実行も債権の個別権利行使の一つだとすれば、その権利行使すべき債権の消滅時効を観念することは可能なような気がしてならない。そして、担保権の実行としての差押えも、時効中断事由としての差押えに含まれるという解釈のはずである。そうだとすれば、担保権を実行することにより、時効中断措置も取ることができる。
 そうだとすれば、破産免責後の抵当権について、被担保債権の消滅時効を観念して10年の消滅時効として処理することに何の問題もないように感じる。仮に被担保債権が商事債権であれば、時効期間は5年であるから、かなりギャップは大きい。
 また、改正債権法が施行されれば、一般的に消滅時効は権利行使できることを知ったときから5年であり、抵当権を設定するような債権であれば、通常は弁済期を知っているから5年で消滅時効にかかるだろう。対して、債権以外の財産権の消滅時効が20年であることは、改正後も変わらない。そうすると、改正後は、債権以外の財産権の消滅時効と現在の商事債権の消滅時効とのギャップと同じになり、そのギャップの大きさが知れる。

抵当権の時効消滅?(3)

2018-04-11 09:49:22 | 民法総則
 債務者が設定した抵当権は、破産法上別除権として、破産手続によらずして権利行使でき、同時廃止や異時廃止により処理されなかった担保権も、破産免責後であっても実行できるとされている。保証人や物上保証人の責任も、免責による影響を受けない。保証や担保は、債務者が支払い能力がなくなったときにこそ、その機能を発揮するのであるが、債務者の破産は、債務者の支払い能力不足の究極の形だからである。
 この法律状態を抵当権を例に考えてみると、債務は免責されているものの、抵当権者は抵当権を実行して免責となったはずの債権に充当できることを意味する。当然、抵当権実行後債権者が得た配当等が不当利得になるわけではない。

 このことは、結局のところ、破産免責と言ってみても、要は、免責された債権による個別の権利行使を原則として永久に禁止することに意味があるのであって(だから、免責後の債権につき自然債務説が有力となる。)、ただし、担保権の実行が可能ということは、例外として担保権を実行する方法による個別の権利行使は認めているということではないだろうか。そして、担保権を実行して満足を得られる範囲においては、なお債権があるとみなしてその債権に充当しているということなのではないだろうか。

抵当権の時効消滅?(2)

2018-04-04 17:18:12 | 民法総則
 最高裁は何と言ったかというと、まず第1段階として、債務者が免責となった場合は、権利を行使しうる場合が想定できないので、債権の消滅時効を観念することができないというのである。この種の判旨は、主債務者破産免責後の保証債務の附従性との関係で、既に判例として存在しており、今回の判例もこの過去の判例を引用している。
 その上で、では、被担保債権の消滅時効が観念できないとすると、民法396条からして抵当権は時効消滅することがないのかが問題となったが、被担保債権の消滅時効が観念できない場合は、民法396条は適用されず、抵当権自体が民法167条2項により20年の消滅時効にかかると判示した。

 結果としてどうなるかを私の目から説明すると、仮に債務者が破産免責にならなければ、10年で被担保債権が消滅時効にかかり、附従性で抵当権も消滅することになるのだが、債務者が破産免責になると、抵当権が消滅するまでは20年かかることになってしまうということである。
 結局、債務者が破産免責となった方が、抵当権設定者の負担が時間的に長くなることを意味する。この結果は、抵当権の附従性の趣旨に反しないのだろうか。
 私には違和感の強い結論である。