実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

会社法改正案-株式買取請求権と買取口座への振替申請(2)

2014-04-30 10:39:22 | 会社法
 もう一つ、改正法案で気をつけなければならないことは、上場会社の株主がその株式の買取りを請求する場合、株主は会社が開設する買取口座への振替申請をしなければならないとされたことと、この場合の個別株主通知の通知内容が加重され、株主の振替申請により当該買取口座に記録された買取請求者の株式の数などが通知されるようになる点である。
 振り返って調べてみると、買取口座への振替申請の問題については、法制審議会における改正要綱案の段階で既に取り上げられていたようである。ただ、個別株主通知の内容まで加重されることは取り上げられていない。そしてまた、これらの改正は、いわゆる社債・株式振替法の改正であり、会社法の改正に伴って行われる整備法によって改正である。なので、この点の改正はなかなか目立たない。

 ちなみに、買取口座への振替申請の制度は、新株予約権買取請求の場面でも同様の改正規定となっている。ただし、新株予約権の権利行使に個別株主通知のような仕組みは用意されていないので、新株予約権買取請求においては、その行使に買取口座への振替申請が必要とされているだけであり、この点に若干の違いがある。

 ただし、ここでは新株予約権買取請求はとりあえず無視し、以下、株式買取請求権に関する場面を考える。

会社法改正案-株式買取請求権と買取口座への振替申請(1)

2014-04-25 13:15:20 | 会社法
 会社法改正案では、株式買取請求権に関連していくつか改正がある。
 その一つは、株式買取請求権を行使した場合の効力発生日である。

 株式買取請求権が発生する場面はいくつかあり、①全株式の譲渡制限化の定款変更、②ある種類の株式についての譲渡制限化または全部取得条項付種類株式化の定款変更、③株式の併合・分割、株式無償割当て、単元株式数の定款変更、株主割当増資を行う場合、株主割当で新株予約権を発行する場合、新株予約権無償割当てを行う場合で、ある種類株主に損害を及ぼす恐れがあっても種類株主総会決議を要しない旨の定款の定めがある場合、④事業譲渡を含む組織再編が行われる場合、である。ややこしいが、条文的には会社法116条1項(①乃至③の場合)、469条1項(事業譲渡の場合)、785条1項(吸収合併消滅会社等の場合)、797条1項(吸収合併存続会社等の場合)、806条(新設合併消滅会社等の場合)である。
 現行法上、これらの場合の買取りの効力発生日は、基本的には代金支払いの時といえるであろう。それが、117条5項、470条5項、786条5項括弧書き、798条5項、807条5項括弧書きである。ところが、合併の消滅会社、株式交換完全子会社、株式移転の場合は、当該組織再編の効力発生日が買取りの効力発生日とされている。それが、786条5項本文、807条5項本文である。条文を列挙するだけでもややこしい。

 以上の現行法制度について、株式買取請求権の効力発生日を、株式買取請求権発生原因の効力発生日に合わせる改正が行われる。つまり、合併の場合の消滅会社の場合等の規定に合わせるのである。
 細かい改正であり、一見どうでもよさそうな気もするが、改正の趣旨は、次の点にあるらしい。
 代金支払いまで買い取りの効力が発生しないとなると、価格決定の申立が行われたような場合について、買取義務を負う会社の方は、買取代金支払の本来の履行期(買取請求権発生原因が生じた日から60日目)から実際の支払日まで年6分の利息を付さなければならないにもかかわらず、代金支払日までは未だ買取請求権者は株主のままなので、配当も請求できることになる。この、利息と配当両方請求できるというのが二重取りではないかという問題があるらしい。

 この問題は、実際に下級審の裁判例で問題になっていたような気がする。何かの文献に載っていたと思うが、分からなくなってしまった。
 いずれにしても、この部分の改正の趣旨は、言われてみればそのとおりであろう。この限りでは上記の改正法案に特段問題はないと思う。

会社法改正案-公開買付規制違反と議決権の差止め(4)

2014-04-21 10:43:40 | 会社法
 そこで、ほかのホームページを検索してこの点の改正がどうなっているのかについての解説が何か出ていないかどうか探したところ、はっきりとはしないのだが、改正が見送られていることを示唆するホームページがあった。やはり改正が見送られているようなのである。

 しかし、そのあたりの経緯について、法務省のホームページには何も出ていないようであり、改正が見送られたとすれば、それはなぜなのか、全く分からない。
 いまだ改正の必要がないという趣旨なのか、条文化が難しかったと言うことなのか、あるいは会社法改正要綱案が公表されたのが政権交代に前後していたことから、政権交代後の自民党から何らかの理由で待ったがかかったのか……。

 以上のことについて、一体どういうことになっているのだろうか、あるいは、目立たないところに条文化されているのだろうか。誰か詳しいことを知っている人がいれば、教えてほしいものである。

会社法改正案-公開買付規制違反と議決権の差止め(3)

2014-04-17 09:46:14 | 会社法
 改正要綱案は、このライブドアvsニッポン放送事件の問題意識を強く受けたものだと思っている。

 ただし、改正要綱案は、あくまでも議決権行使の差止めを認めるというに過ぎず、上記事件のように、募集新株予約権発行差止請求その他の議決権以外の共益権の権利行使についてどうなるのかは、相変わらず何も規定を設けないかのような要綱案であった。
 そもそもの問題として、公開買付規制違反の方法による株式取得者の株主権行使の規制を設けることについて、いいか悪いかはよく分からないのだが、以上の意味において私にはやや中途半端な改正要綱案のような気がしないではなかった。

 そこで、いざ改正法案ができあがって、要綱案がどのように具体化しているのかを見ようと、目を皿のようにして新旧条文対照表等を見ているつもりなのだが、それらしい条文はいっこうに見つからない。

会社法改正案-公開買付規制違反と議決権の差止め(2)

2014-04-15 09:37:26 | 会社法
 公開買付規制違反の場合の株主権行使の可否等については、ライブドアvsニッポン放送事件だったと思ったが、これに関連して実際に問題となっていた。

 どういう問題かをやや不正確かもしれないが簡単に言えば、東京証券取引所が設けているToSTNeT-1を利用して、ライブドアがニッポン放送株を大量に取得し、既存の持株と合わせて3分の1以上の株式の保有割合となるような株式を取得した問題である。これが、公開買付規制違反にならないかどうか、そして、違反していたとして株主としての権利行使が可能か否かという問題である。それが裁判で具体化したのは、ニッポン放送が行う募集新株予約権の発行について、ToSTNeT-1を利用してニッポン放送株を大量取得していたライブドアが差止めの仮処分を申し立てたことから、この問題が現実に裁判の場で顕在化した。
 結論としては(当時の証券取引法の)公開買付規制に違反しないとされたことから、結果的に公開買付規制違反の株式取得の場合の株主権行使の問題にはならなくなってしまったが、このライブドアvsニッポン放送事件により、公開買付規制違反が単なる行政罰だけで済まされない可能性を秘めた問題であることが、認識されていたと言えるのであろう。

 ちなみに、現在は法改正により、相対取引であるToSTNeTを利用して3分の1以上の保有割合となるような大量の株式を取得することは、公開買付違反となっている。