実務家弁護士の法解釈のギモン

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執行手続と法人格否認の法理(4)

2011-07-04 09:37:43 | 民事執行法
 給付訴訟と請求異議訴訟との関係と同様のことは、第三者異議訴訟でもいえるのではないか。差押えられた財産が債務者の責任財産を構成するか否かを争うのが第三者異議訴訟といえるが、当該財産が債務者の責任財産を構成するか否かが差押える前から争いがあれば、債権者が予めこれを争う(たとえば、第三者名義の不動産を債務者名義に移転させることを求める債権者代位による登記請求訴訟を提起するなど)ことができる一方で、先に差押えがなされたら、起訴責任が転換されて第三者から第三者異議訴訟を提起することになるのであって、やはり表裏の関係が見て取れる。そして、双方の訴訟において実体的争点は、当該財産が債務者の責任財産を構成するか否かということでは同じである。そうだとすれば、一方(債権者が提起した訴訟)において実体法的効力として法人格否認の法理の適用と求めることができるのであれば、他方(第三者異議訴訟)でも、実体法的効力としての法人格否認の法理の適用が求められなければおかしい。

 ただ、請求異議訴訟と第三者異議訴訟は、表向き、請求権の存否そのもの、当該財産の帰属関係そのものが訴訟物になるわけではなく、いわば執行力排除権の存否を訴訟物とする、手続法上の形成訴訟なので、給付訴訟等と対の関係にあることが一見するとわかりにくくなっている。しかし、請求異議訴訟でいえば、債務の不存在が認められれば当然に執行力の排除が認められるわけである。そうだとすれば、立法的には、請求異議訴訟も、債務(債権)の存否そのものを訴訟物とする実体法上の確認訴訟と構成しても何ら問題はなかったはずで(現に、担保執行の場合の執行取消文書は、担保権のないことを証する確定判決等であり、実体権の存否そのものが問題とされている。また債務の不存在そのものが執行異議事由となっており、これを簡易請求異議訴訟と理解する学説(私自身はこの考えに疑義を持っているが)も存在するくらいである)、ただ、これを執行力排除権の存否という手続法上の形成訴訟に構成し直しただけだと思うのである。第三者異議訴訟でも同様である。
 ただし、立法上は手続法上の形成訴訟と構成した結果、その異議の事由として実体法上の権利義務のみならず、たとえば請求異議訴訟でいえば債務名義成立の瑕疵の主張も許す解釈もあり得る構造となっており、現に現在の法律では明文でこれを許している。このことがいっそう理解を混乱させる原因ともなっているのかもしれないが、少なくとも異議の事由が請求権の存否に関するものである限り、それは起訴責任が債務者側に転換されただけであって、裏返しの意味での請求権の存否に関する紛争であることは、表の給付訴訟と何ら変わらないのである。
 もしそうであれば、給付を求める訴えの判断の中で法人格否認の法理の判断がなし得るのと全く同様に、その裏返しである給付を拒否する実体的法律関係の判断である請求異議訴訟・第三者異議訴訟の中で、実体法的効力としての法人格否認の法理だけがその適用を拒否されなければならない理由は全く存在しない。

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