実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

譲渡制限特約付債権の譲渡(7)

2018-06-28 10:27:08 | 債権総論
 以上の状況は、よく考えてみると、ある法律関係において、似たような状況が生じうることに気づく。具体的には、債権者が債権譲渡をし、債権譲渡登記がなされたが、債務者に対してはまだ通知がなされていない状態である。この場面では、譲渡制限(禁止)特約は関係がない。要は、第三者対抗要件は備えているが、債務者対抗要件が備わっていない状態である。
 この場面で、譲渡人の債権者が譲渡債権を差し押さえたらどうなるか。この事例を第2事例としてみよう。債権譲渡の第三者対抗要件を備えている以上は、差押えは空振りのはずである(劣後譲受人と同じような立場である)が、債権譲渡の債務者対抗要件が備わっていないので、債務者の立場から見れば、正当な差押えとなりはしないか。
 従って、第2事例では、いくら債権譲渡登記がなされているとしても、債務者に対する通知がない限りは、差押えによる弁済禁止効が生じ、(第三)債務者は差押債権者の取り立てに応じれば(あるいは執行供託をすれば)よく、それで正当な弁済(供託)になるのではないだろか。
 新法における譲渡制限特約付き債権の悪意重過失ある第三者への譲渡は、これとよく似た法律状況に感じるのである。

 譲渡制限特約付き債権との関係で、さらに別の事例を考えてみる。
 譲渡制限特約付き債権を悪意重過失ある第三者に譲渡し、確定日付ある通知がなされた後に、善意無重過失の第三者に債権が二重譲渡され、これも確定日付ある通知がなされたらどうなるか。
 この場合、譲渡人が有していた債権は、第三者対抗要件を先に備えた悪意重過失ある第三者に帰属するが、債務者は譲受人に対して履行をする義務はない。そして、第三者対抗要件で劣後する善意無重過失の第三者は、第三者対抗要件では負けるものの、債務者から見れば、正当に債権を譲り受けた譲受人に見える。しかし、解説書の考えを押し通せば、第二譲渡は空の債権の譲渡になるので、この場合でも、債務者は譲渡人に履行すれば足りる(というより、履行すべき)ということになるのだろう。

譲渡制限特約付債権の譲渡(6)

2018-06-20 11:23:07 | 債権総論
 別の角度から譲渡制限特約付債権の悪意・重過失ある譲受人に対する譲渡の問題点を指摘してみる。

 現行法では、合意による差押禁止財産を作り出すことを認めるものではないという理由で、譲渡禁止特約付債権であっても、その債権を差し押さえることは認められていた。この考えは、新法になっても変わらないはずで、むしろ、新法ではこのことを明文をもって定めるようになった。
 ところが、新法になって解説書のような考えを前提とすると、譲渡制限特約付き債権が悪意重過失の譲受人に譲渡された場面に限定はされるが、事実上、差押えの効力を奪い取ることができる場面を生じさせてしまっているのである。これは、合意による差押禁止債権を作り出すことを認めないという、新法では条文まで設けた趣旨に悖るような気がしてならない。

 債権は観念的な存在である。なので、その帰属が問題となる場合、実物資産である物(物権)の帰属の場面とは異なり、一物一権主義のような考え方を厳密に取り入れる必要はないと思うのである。そのため、譲渡制限特約付債権が悪意重過失の第三者に譲渡された場合、確かに債務者以外の者との関係では譲受人に移転するかもしれないが、債務者の立場から見れば、相変わらず債権者は譲渡人なのだという相対的な関係で説明をしてはいけないのだろうか。
 このように考えて、譲渡人は、本来は譲渡してしまった債権の履行請求権は存在しないが、現実に履行請求した場合は、債務者から見れば債権者からの履行請求になると考えていいのではないか。なので、例えば期限の定めのない債権について譲渡人から履行請求があれば、債務者は履行遅滞に陥ると考えたいし、譲渡人に対して譲渡債権の債権差押命令が発令されれば、(第三)債務者には差押えによる弁済禁止効が生じると考えたい。
 それはダメなのだろうか。

譲渡制限特約付債権の譲渡(5)

2018-06-14 12:45:37 | 民事訴訟法
 解説書を読んで、もう一つ疑問に思うことがあった。
 それは、譲渡制限特約付債権について、悪意又は重過失の譲受人に譲渡した場合で、その後、元の債権者である譲渡人に対する債権者が、譲渡の対象となった債権を差し押さえてきた事例についての説明である。
 その解説書では、債務者は、悪意・重過失の譲受人に対する履行義務はないが、債権自体は確定的に譲受人に移転しているので、その後、元の債権者である譲渡人に対する債権者が譲渡の対象となった債権を差し押さえても、いわゆる空振りと評価されるので、(第三)債務者は差押え後も元の債権者(譲渡人)に対して弁済すれば足りるというのである。そして、どうもこの点は法制審議会の議論でもこれで問題がないという前提であったかの如くである。

 しかし、これにはかなりの違和感を覚える。
 譲渡制限特約付債権の譲渡で、譲受人が悪意・重過失であれば、債務者の立場からすれば、元の債権者である譲渡人を債権者とみなせるからこそ、譲渡人に弁済すればいいということであり、債務者からすれば、債権者は譲渡人なのではないのか。その債権が差し押さえられたのであれば、やはり債権差押えの効力としての弁済禁止効が及びそうに感じるのである。

譲渡制限特約付債権の譲渡(4)

2018-06-06 14:01:02 | 債権総論
 大分横道にそれてしまったが、話しを譲渡制限特約付き債権に戻す。

 改正債権法における譲渡制限付き債権の譲受人からの催告の仕組みは、債務者に履行能力があることを当然の前提にしている規定である。なぜなら、ここでの催告の趣旨は、単にデッドロック状態を解消するための仕組みだからである。
 しかし、現実には債務者の支払能力に問題があって譲渡人に履行しない場合も機能してしまう仕組みとなっているはずである。支払能力の問題で履行しない場合あっても、履行遅滞に陥るのが悪いと言ってしまえばそれまでであるが、中には、一時的な手元不如意ということもあるはずである。履行期には資金が確保できなかったが、1ヶ月後には確実に確保できるという場合である。

 この場合でも、債務者の履行遅滞であることには変わりはなく、遅延損害金が発生し、あるいは契約上の債務であれば、催告解除に服するということは避けがたい。しかし、解除等による契約関係の解消がされない限りは、1ヶ月後に遅延損害金とともに元の債権者に支払えば、債務の本旨に従った履行となる。債権者側も、多少の遅れには目をつぶるということはいくらでもあると思う。

 ところが、この譲受人からの催告の仕組みは、多少の遅れには目をつぶるということを、譲受人として許さない仕組みとして使われてしまう可能性がある。しかし、譲渡制限を付する債務者側の利益の一つとして、過酷な取り立てをする者に債権が譲渡されることを防ぐ意味もあったのではなかったか。この債務者の利益は、債務者の手元不如意の時にこそ機能するはずである。
 このように考えると、譲受人からの催告の仕組みは、これでよかったかどうか、私は若干の疑問を持つようになった。