実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

預金債権の遺産分割審判対象性

2016-12-21 15:21:40 | 最新判例
 一昨日、預貯金を遺産分割審判の対象とすべきとする最高裁大法廷の判断が出た。理論上も実務上も特筆すべき結論と言える。
 私は以前、このブログでこのようなことを述べ、さらに、最高裁大法廷に係属している新聞記事を目にした時、このようにして指摘させて頂いた。一昨日の大法廷の判断は、その事件のものと思われる。
 ただ、結論は同じようでも、最高裁の理屈は私の考えとは異なるようであり、預貯金限りに特化した判断である。私からするとやや中途半端な判断にも映る。

 いずれにしても、遺産分割の家裁実務に与える影響は大きいはずである。今後の運用が注目される。

訴え取り下げ合意の法的性質(6)

2016-12-15 10:24:13 | 民事訴訟法
 判決理由中の判断に訴訟法上の意思表示の擬制を認める点で、かなり論理の飛躍があることは否定しがたいが、登記手続のように、意思表示があったことを他の機関に示すことを目的としておらず、裁判体たる受訴裁判所内で完結する問題であり、義務有りと判断されれば訴え取下げですべてが完結し、その後の訴訟法律関係が積み重なっていくわけでもない。そうだとすれば、受訴裁判所の理由中の判断で義務の存否が判断されるだけで、意思表示の債務名義性にこだわらなくてもいいという理解はできないだろうか。

 あるいは、訴え取り下げの合意が私法行為だと考えるから意思表示の強制執行を問題とせざるを得なくなってしまうというのであれば、訴訟行為だと考えて、強制執行を問題とする必要がないと言う解釈は可能であろうか。
 要は、訴え取り下げ合意が成立した後に原告が任意訴えを取り下げない場合に、それでも受訴裁判所に対して原告が訴え取り下げの意思表示をしたとみなして訴え取り下げによる訴訟終了宣言が可能であるという解釈が採用できればよいのであって、別に私法行為説にこだわる必要はないだろう。ただ、考え方の筋道として、私法行為説を前提に、意思表示をする義務の履行の強制という側面から考えて見た。

 うまく説明が出来ていないかもしれないが、少しは議論を整理してみたつもりである。が、返って混乱する議論となってしまっただろうか。

訴え取り下げ合意の法的性質(5)

2016-12-08 13:47:11 | 民事訴訟法
 そもそも、意思表示の擬制という執行を、既判力を持って確定する必要がある理由は、当該意思表示を求める訴え以外の場面(例えば、登記手続に用いるなど)で当該意思表示の擬制の効力を対外的にも争えないものとなったことを明確にしておく必要があるからであろう。
 しかし、訴え取り下げの意思表示は、当該訴訟手続内で完結する問題である。したがって、訴え取り下げそのものの効力やその義務(訴え取り下げ合意がされた場合)の存否について、わざわざ別訴で争わせる意味に乏しいと言えそうである。だとすれば、訴え取り下げそのものの効力については、基本的には当該訴訟手続内で判断するだけで不都合はなさそうである。
 そうだとすれば、訴え取り下げ合意であっても、端的に、私法上の義務として原告には訴えを取り下げる義務が生じたことの主張・立証を、当該訴訟手続内で認めてもよいのではないだろうか。これが認められた場合、判決理由中の判断として訴えを取り下げる義務があることを判断することになる。そして、判決理由中の判断ではあるものの、原告の訴え取り下げの意思表示を擬制してしまうのである。民事執行法174条の趣旨を類推するといってもよい。
 そうすれば、私法行為説でも、訴え却下ではなく、訴え取り下げによる訴訟終了宣言で終わらせることが出来そうである。もちろん、訴え取り下げ合意による取り下げ義務が認められなければ、そのまま訴訟は続行されて本案判決をする。

訴え取り下げ合意の法的性質(4)

2016-12-01 09:58:23 | 民事訴訟法
 私法行為説は、私法上の権利義務に過ぎないから、訴えの利益を介在させてることによりようやく訴え却下という結論を導くのであるが、そもそも、そこでいう私法上の権利義務の内容は何であろうか。おそらく、原告には訴えを取り下げる私法上の義務が生じるというのであろう。しかし、この義務は不代替的作為義務のように感じるので、直接強制に親しむ義務ではなさそうに感じるし、仮に間接強制が可能だとしても、端的に訴訟を終了させるような効果を認めないと、著しく迂遠であることも当然である。だからこそ、訴えの利益に結びつけるのであろう。

 しかし、訴えを取り下げる義務が、本当に不代替的作為義務か否かはもう少し検討してみる余地がありそうだと思っている。訴えを取り下げる私法上の義務とは、もっと正確にいえば、裁判所に対して訴え取り下げの意思表示をすることを内容とする、相手方に対する私法上の義務ではなかろうか。そうだとすると、純粋に論理を詰めれば、裁判所に対する意思表示をする実体法上の義務であろう。そうであるならば、その義務の履行を強制することが可能なはずである。つまり、理論だけで考えれば、登記請求訴訟と同じように、被告は別訴で、「被告(もとの訴訟の原告)は、○○事件の訴えを取り下げよ。」という、意思表示を求める訴えとして訴訟を提起することが可能なはずである。
 この訴訟に勝訴すれば、確定判決をもって原告の意思表示と擬制されるので、被告が確定判決を受訴裁判所に提出することによって訴え取下げの効果が生じる、という説明ができそうである。これが可能であれば、訴え却下ではなく、文字通り訴えの取下げで訴訟が終了する。そして、この場合の取り下げの意思表示をする義務は、被告に対する私法上の義務といっていいだろう。
 ただし、すぐに気づくように、別訴を提起しなければならないとすれば、著しく迂遠であることは当然であるし、別訴の結論が出るまでは、本訴の進行を止めることは、論理的には不可能である。
 別訴ではなく反訴ではどうかとも考えられるが、反訴を提起すること自体が、被告にとっては面倒ではある。