実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

再度の取得時効の完成と抵当権の消長(1)

2017-07-25 13:08:06 | 民法総則
 時効つながりで、時効に関する判例について、一言。

 5年ほど前の取得時効に関する平成24年の最高裁の判例で、理解が難しいと思っていた判例がある。
 その判例について、裁判所のホームページの判例検索で出てくる判示事項は、「不動産の取得時効の完成後、所有権移転登記がされることのないまま、第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合における、再度の取得時効の完成と上記抵当権の消長」という判示事項になっている。
 この判示事項の事例を単純にモデル化すると、A所有名義の不動産をBが占有し取得時効が完成したのち、A名義のままの当該土地にCがAから抵当権を設定を受け、それからさらに取得時効に必要な期間Bが占有を継続していたという事案になる。ただし、実際の事案は、判例の中身を見る限りではやや異なり、AがBに不動産を売却したが、所有権移転登記をせずにA名義のままだったことから、A死亡後、Aの相続人が当該不動産にCのために抵当権を設定した事案である。そのため、再度の取得時効という判示事項の書きぶりには、問題がないのかとは思うのだが、判旨を読めば、再度の取得時効という言い方をしているのも事実である。

 このようなやや混乱気味の事案なのであるが、判例はBの再度の取得時効の効力を認めて、結果、抵当権は消滅すると判示した。
 事案の混乱はともかく、モデル化した上記のような事例を前提としても、この判例の理解はやや難しいと思っていたのである。

時効の効力は権利の取得?消滅?(11)

2017-07-18 14:52:05 | 民法総則
 話は飛ぶが、刑事法の領域では、公訴時効という概念がある。犯罪が行われてから一定の期間が経過すると、時効によりもはや起訴できないという仕組みであり、例え起訴したとしても、免訴という形式裁判で打ち切られ、有罪・無罪の判断をしない。ところが7、8年前に、人を死亡させた罪であって、法定刑に死刑が含まれている罪(殺人罪が典型である)については、公訴時効が撤廃された。
 この時効の撤廃の点に関し、我が事務所にいた若い弁護士(学者でもある)がこんなことを言っていた。証拠が散逸してしまうから時効の撤廃は困るのだと。何を言っているかというと、例えば、犯罪が行われてから何十年も後に、突如「お前が犯人だ」とされて身に覚えのない罪で起訴された場合どうするか。被告人にはアリバイがあったはずだが、時間が経過しすぎていて、アリバイ立証ができないということが起こりうる、と言うのである。
 公訴時効の存在理由については、いくつかの見解があるようだが、その弁護士は、要は被告人に有利な証拠の散逸から、被告人を救済するのが公訴時効の機能だといいたいのである。いわば、たとえ真犯人を取り逃がしたとしても、他の無罪たるべき万人について、えん罪の危険から解放するのが公訴時効の機能だというのである。
 その話を聞いて、私自身は、なるほど合点のいく考え方だと思ったし、そうであれば、部分撤廃ではあるものの公訴時効の撤廃にはやはり問題があるのかもしれないと思った。と同時に、証拠の散逸からの被告人の救済といのは、民法の時効の議論と同じような議論ではないか、とも思ったのである。ただ、民法の時効は実体法的に構成し直された制度であるのに対し、刑事法の公訴時効は、訴訟法的な構成のままの制度となっているという違いがあるに過ぎないようである。

 以上、大議論を展開したが、時効学説は理念的な争いが多く、どの説を採っても、具体的な要件効果について、それほど大きな違いには結びつかなそうである。それでも、従前の時効学説とは趣の異なる理念を展開してみた。
 実務家から見た時効の使われ方を素直に観察した結果なのだが、どうだろう。

時効の効力は権利の取得?消滅?(10)

2017-07-11 10:57:42 | 民法総則
 第4に、時効援用権者である「当事者」とは誰か。これも擬制という時効の効果を享受しうるのは誰かということであって、時効の援用権者に関する従前の議論と大して違いはないと思う。ここでも、要は時効の援用権者であれば擬制が使えるというだけであって、例えば第2順位の抵当権者が、第1順位の抵当権の被担保債権の消滅時効を援用しうるかという問題に関しても、援用権者と考えて問題はないと思うし、援用権者だとしてもそうでないとしても、別の消滅原因を主張しうることは、争いごとであるとすれば当然である。

 第5に、停止条件説を採用した判例の事案をどう考えるか。
 確か、判例の事案は農地売買における農業委員会への許可申請の売主側の協力義務の時効という、かなり特殊な事案なのである。しかも、時効を援用する前に農地ではなくなってしまい、農業委員会の許可申請が意味をなさなくなってしまっていた事案である。
 時効が主張される通常の場合、時効の効果は起算時に遡る。そのため、実は時効の効果が時効期間経過時に生じるか、援用時に生じるかは、あまり大きな問題にはならないのである。擬制説でいえば起算時に遡って擬制されるということになる。
 ところが、判例の事案では、例外的に時効の効果を遡らせることができなくなってしまうような、ある一時点(すなわち農地ではなくなってしまった時)を過ぎてしまった事案という言い方が可能だろうか。ただし、判例の理解も難しいようである。分析する能力がないと言われるとそれまでであるが、結局のところ、停止条件説でも擬制説でも、判例の事案の分析においては、論理構造は大して変わらないだろうと思う。停止条件の部分を擬制に置き換えて理解すれば、判例と同じ理論構造でもよいと思っている。

時効の効力は権利の取得?消滅?(9)

2017-07-03 10:22:19 | 民法総則
 第3に、時効中断事由はどのように考えるか。

 まずここで特に注目してほしいのは、時効中断事由としての請求についてである。確定的な中断事由は、裁判上の請求に限られ、裁判外の催告は、6か月の猶予期間が設けられているに過ぎない。これを理念的に説明すれば、法は、権利関係に争いがある以上、裁判によって確定させざるを得ないはずだ、ということを念頭に置いていると理解できないだろうか。差押え、仮差押え、仮処分も似たり寄ったりといえそうである。
 では、時効中断事由としての承認はどうか。要は、承認は相手方の権利の存在を認めることであるから、承認した時点では争いはないことになる。そうだとすると、争いがあることを前提とする時効制度と理解した場合、争いがないのだから時効が中断するというのは、実になめらかな説明ができてしまいそうである。

 つまり、時効の中断の仕組みは、争いごとであるから訴訟等の裁判所が関与した手続で決着すべきだし、相手方がその権利を認めたのであれば争いごとではなくなるからそれはそれで時効を中断させて構わない、という統一的な理解ができそうなのである。援用権の放棄、喪失も承認と同じような議論が可能であろう。