実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

詐害行為取消権の相対効?(5)

2009-06-30 11:28:19 | 債権総論
 民法(債権法)改正検討委員会が公表した詐害行為取消権の改正案は,なんと絶対効への方向性(少なくとも債務者にも効力を及ぼすこと)を示している(別冊NBL126号164頁以下)。
 これには少々驚いた。驚いた理由の一つは,立法論的には受益者・転得者名義のままで差押えを認める,いわゆる責任説的な考え方が最も優れていると言われているため,改正するとすれば,責任説的な方向への改正が検討されるとばかり思っていたこと,二つ目の理由は,現行法の解釈として絶対効を採用する学説がほとんどない中で,立法論としてもわざわざ絶対効を採用するような改正を検討するとは思えなかったからである。
 私見としても,改正の方向性とすれば,責任説的な考え方が優れていると思う。従って,可能であれば債権法の改正に併せて詐害行為取消権も責任説の立場での改正を目指すべきであろう。しかし,おそらく責任説的な改正を目指すとすると,民法の条文の改正にとどまらず,民事訴訟法や民事執行法,場合によっては破産法などの倒産法関係など,手続法の改正も必要となってくるような気がする。そうだとすると,詐害行為取消権の改正については手続法も併せた見直しが必要となってくるので,「債権法」の改正の一内容として詐害行為取消権の責任説的立場への改正を検討するのは難しいのかもしれない。
 そういった中でも,絶対効を前提とする改正案を示したのは,驚きであるが,既に述べたように,私は相対効より絶対効が優れていると思っている。従って,あくまでも責任説的立場への改正をするまでの過渡的な改正案として,絶対効を採用すること自体は,賛成をしたい。ただし,詐害行為取消権の改正案は,絶対効を採用することの是非も含め,その他のところでもいろいろと問題があるようで,詐害行為取消権の改正は,一筋縄ではいかなそうである。

詐害行為取消権の相対効?(4)

2009-06-26 11:11:56 | 債権総論
つづき

 絶対効に対しては,取消の範囲が過分になるという批判があったかと思う。例えば,債務者所有の1000万円の不動産を受益者に詐害行為として譲渡した場合に,債務者に対して600万円の債権を有する債権者が詐害行為取消権を行使したような場合が想定されると思う。この場合に,不動産の価格と債権の額との差額である400万円分については,何らかの形で受益者に戻せるような法律構成として,相対効が説かれるのであり,相対効を採用するのは,ある意味ではこの点が最も重要な効果の一つといえよう。
 以上のような相対効の考え方は,なるべく詐害行為取消権の効果をその目的の範囲内で最小限にし,債務者の処分意思や受益者の利益を重視する点において,一面では十分に理解しうるところではある。
 しかしである。純粋に理論的に考えると,まず第1として,詐害行為取消権行使の効果は,他の全ての債権者にも及ぶ(民法425条・ちなみに,この民法425条は,取消の効果を取消権者と受益者・転得者との間の相対的効力しかないとする説からは,どのように説明するのであろうか。少なくとも,他の全ての債権者との関係では,絶対的に構成しない限り,民法425条を説明できないはずである。)。従って,余りの400万円分は,一次的には他の債権者の弁済に充てられるべきものである。しかも,債務者が無資力だからこそ,詐害行為として取り消されることを考慮すれば,他にも債権者がいる場面というのは,比較的事例としても多いことが予想される。
 次に,民法論だけを考えれば,相対効により,差額の400万円を受益者に戻すという考え方が仮に可能だとしても,民事執行法上このことを実現することは不可能といわざるを得ない。なぜなら,詐害行為として取り消した結果,受益者や転得者に逸失した財産は,債務者の名義に戻り,その債務者名義の財産に対して強制執行を行うことになるため,執行手続き上,受益者や転得者を執行当事者とすることはできず,仮に配当等の手続で余りがあったとしても,それは「債務者」に交付することになっている(民事執行法84条2項)からである。
 たとえ執行手続きが以上のとおりだとしても,受益者・転得者から債務者に対して金400万円分の不当利得返還請求権を行使する余地を残しておくためにも相対効としておいた方がよいという考えも当然あるとは思う。しかし,現金というのは補足しにくいものであり,執行手続き上,「債務者」に余りが交付された後,その現金を捕まえて強制執行するというのは,なかなか難しい。そのため,たとえ不当利得返還請求権を権利として認めたとしても,どれだけ実効性があるかは問題で,債務者に剰余金が交付される前に,その債務者の剰余金交付請求権を差押える等の手続きを取らないと,結局,不当利得返還請求権も画餅となってしまうと思う。
 受益者・転得者が剰余金交付請求権を差押さえる余地があることも考慮すれば,相対効と解釈することが,実効性の面でも全く無意味とは言わない。しかし,剰余金交付請求権を差押さえるまでの手続面も考慮すると,その期待度は,かなり小さいことが予想される。そうだとすると,相対効と解釈することによるその効果の実効性と,絶対効と解釈することによる実務的なわかりやすさ(及び担保責任の適用可能性)とを比較すると,私は絶対効を支持したい。

 続きは,立法論について。

詐害行為取消権の相対効?(3)

2009-06-23 10:25:23 | 債権総論
相対効で説明すると,詐害行為取消権を行使された結果,受益者や転得者は,債務者から取得した財産を失う結果になるにもかかわらず,その効力は当事者限りと説明することから,買主である受益者,転得者は,売主に対して追脱担保責任を追及することができないなどと,まことしやかに説明されることがある。しかし,それが本当に妥当だろうか。悪意の受益者,転得者は,詐害行為取消権を行使された結果,譲り受けた不動産等の財産を現に失うのである。いくら相対効だと言ってみても,財産を失う羽目になる受益者,転得者が到底納得できる話ではないはずである。相対効だとしても,受益者や転得者から債務者に対して不当利得返還請求権があるとも説明される場合があるが,債務者は無資力だからこそ,詐害行為取消権の行使が可能なのである。その債務者に対して不当利得返還請求権があったとしても,ほとんどの場合,空手形のようなものである。
 絶対効だとすれば,おそらく追脱担保責任が追及することにつき,理論的にそれほどの支障はないものと思われる。これは,転得者に対する詐害行為取消権が行使された場合に,転得者が受益者に対して追脱担保責任を行使する時に意味を持つ。それでは,この場合に追脱担保責任を追及される受益者は酷かどうか。私は,決して酷ではないと考えている。その理由は,他の取消権とのバランスである。親亀の売買契約が何らかの理由(例えば,強迫や制限行為能力)で取り消された場合に,基本的には子亀となる売買契約で譲り受けた第三者や,さらにその第三者からの転得者は,当然,その売主に対して追脱担保責任が追求できる。このことと同じである。
 また,追脱担保責任は,買主が悪意の場合であっても当然に適用されることが前提となっていることに注意が必要である(民法561条)。したがって,詐害行為取消権の行使によって財産を失うことになる転得者は,構造的に必ず悪意であることから保護に値しないという理屈も,あり得ない理屈だと思っている。悪意の譲受人であっても,追脱担保責任を適用する場面においては,法はそれなりの権利を認めているのである。

 まだまだつづきます。

詐害行為取消権の相対効?(2)

2009-06-19 10:59:32 | 債権総論
  詐害行為取消権に関する続きです。

 不動産の廉価売却を例にする。債務者Bが受益者Cに不動産を二束三文の廉価で売却し,C名義の登記がなされたところ,これをBに対する債権者Aが詐害行為を理由に売買の取消しを求めて訴え,勝訴したとする。実務的には,その判決では,売買の取消と,所有権移転登記の抹消が宣言されることになり(AのBに対する金銭の支払いを求める訴えも併合提起し,同じ判決で同時にBに対する債務名義を得ておく場合も,実務的には多い),この判決に基づき,C名義となった登記をB名義に戻し,その上でB名義に戻った不動産をAが差し押さえることになる。これは,詐害行為取消訴訟の実務で,もっとも典型的な例だと思われる。
 この事例の,どこで相対効理論が生かされているのであろうか。よくいわれることであるが,受益者名義の登記を債務者名義に戻してしまう以上,絶対的効力を認めたのと大して変わらないはずである。強いて言えば,詐害行為取消訴訟の被告に,債務者を含める必要がないという点はありうる。しかし,それでは,実際の実務で,債務者を被告としていない詐害行為取消訴訟がどれだけ存在するだろうか。詐害行為取消訴訟は,あくまでも差押えをする前提として起こされる訴訟であるから,債権者の債務者に対する債務名義が存在しないと,別途債務名義を取得する必要がある。そうであるなら,上記括弧書きでも触れたように,はじめから,詐害行為取消訴訟に債権者の債務者に対する金銭請求訴訟を併合提起する場合は多い。この場合,当然債務者も被告として含めざるをえない。そうだとすると,詐害行為取消訴訟において債務者を被告とする必要がないという相対効の理論を持ち出してみても(はじめから執行証書(民事執行法22条5号)が存在するような事例ではともかく),実務的にはそれほど大きな意味のあることではない。
 したがって,上記のような典型的な事例において,相対効といってみても,はじめから執行証書が存在するような事例以外では,実務的な意味はあまりないように思われるのである。

 問題なのは,転得者Dが登場した場合である。受益者Cが悪意で,転得者Dが善意の場合,親亀であるBC間の売買が詐害行為で取り消されたからと言って,子亀であるCD間の売買まで覆されてしまっては(厳密に言えば,他人物売買となってしまう),おそらく転得者に対する詐害行為取消権行使の要件として転得者の悪意を要求している法の趣旨に反するであろう。絶対効を主張する形成権説は,ある意味ではこの点に決定的な問題があったともいえそうである。
 しかしである。民法典全体を見渡せば,本来絶対的効力があるはずの取消権が行使された場合に,一切第三者は保護されないかといえば,法律上例外を設けている場面はいくつかあり,その典型が詐欺取消である。
 詐欺取消は,善意の第三者に対し対抗できない。しかし,それならば詐欺取消の効力は相対効として説明されるかと言えば,決してそうではない。せいぜい,善意の第三者との間では,取消の効力が制限されるというにとどまる。あくまでも取消権の絶対効を前提とし,例外的に善意の第三者との間では,その効力を制限するだけだというのである。
 それならば,詐害行為取消権において転得者が登場する場合であっても,何も相対効で説明しなくとも,「善意の転得者に対抗することができない」という詐欺取消の善意の第三者の場合と同様の構図で理解することはできないのだろうか。私には,このように理解することに,何らの支障もないように感じるのだが。
 もし,以上のように考えることができれば,詐害行為取消権を絶対効で説明することが可能になるように思われる。そして,詐害行為取消権も,他の取消権と全く同様の効力として統一的に理解することができるようになり,非常にわかりやすくなる。絶対効だとすると,民事訴訟法の理論からすると,被告側は必要的共同訴訟と理解せざるを得なくなり,債務者も必ず被告としなければならなくなるので,その点で実務に変更を求められるが,既に述べたことからも分かるように,現状でも,債務者に対する債務名義を取得する目的で,実質上債務者が被告に加わっている詐害行為取消訴訟が多いので,実務的にもそれほど大きな変更が求められるとは思われないのである。

 つづく

ちょっと一息

2009-06-18 10:10:48 | 会社法
 昨日,インターネット上の記事で,有価証券報告書虚偽記載を理由に上場廃止となったある会社について,一株6500円の配当を予定しているというニュースを目にした。その記事によれば,配当総額は680億円だそうで,この会社の純資産の約半分を配当に回す計算になるらしい。また,参考までにインターネットで同社の決算公告も見てみた。総資産は1400億円あまりの会社である。従って,実に総資産の約48%を配当に充てるということになる。2008年3月期決算から2009年3月期決算までの間に大幅減資も行っていることがうかがわれ,固定資産もかなり減らして現預金を捻出していることもうかがわれる決算公告となっている。そのため,減資と高額配当を組み合わせて考えれば,古くは実質減資と呼ばれた,実質的な事業縮小による一部残余財産分配的な配当といえそうである。
 上記記事によると,この高額配当は,株主であるファンドや外資系金融機関の要請によるものらしい。多数株主からの高額配当要請に対して,会社として抗しきれなかったということであろうか。しかも,この会社の決算公告によると,2009年3月期に比較的大きな赤字を出しているようなので,やや極端な見方をすると,株主としては,今回の配当を機にもはやこの会社を見捨てたともとれそうである。
 以前,このブログでも株主提案に基づく役員人事が成立した事案をご紹介したが,今回の高額配当事案も含めて,上場会社(旧上場会社も含めて)であっても,会社(すなわち取締役)の意思ではなく株主の意思で会社の行方が左右される時代が本格的に到来したということになるだろうか。
 また,このような事例がさらに増えてくると,(昨年の株主総会の集中開催の頃と比較すると,今年の株主総会では一般的にはあまり話題にはならなかったようだが)再び買収防衛策の導入ということが騒がれる時が来るのかしれない。