実務家弁護士の法解釈のギモン

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執行手続と法人格否認の法理(2)

2011-06-27 09:44:43 | 民事執行法
 執行手続と法人格否認の法理との関係を考える上で、少し違う事案を考えてみたい。
 たとえば、売買を請求原因とする不動産の引き渡しを命じる確定判決があった場合に、当該不動産所有会社(判決の被告当事者)が、口頭弁論終結後にその所有権を代表者個人、もしくは当該会社を実質支配する大株主に売却し登記も済ませた上で、引き渡してしまったが(要は二重譲渡の事例である)、これが実体法上は法人格否認の法理の適用場面だったらどうか。
 引き渡しを命じる確定判決そのものは口頭弁論終結後に占有を取得した者に執行力が拡張されそうであるが、実体法上は対抗要件を備えた代表者個人または大株主が執行債権者に優先する。ただし、法人格否認の法理が問題となるのであれば、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者とはならないだろう。
 この場面で確定判決に承継執行文が付与されたのに対し、承継執行文の名宛人(執行債務者)が強制執行の排除を求めて争った場合、手続論として債権者は法人格否認の法理を援用できないのだろうか。

 もっとも、そもそもこの場面では、承継執行文が付与された場合の執行債務者側から争う方法が、執行文付与に対する異議の訴えなのか、請求異議訴訟なのかが難しく、どうも判例の立場(訴権競合説といわれているようである)からすると、請求異議訴訟で争うべきことになりそうである。そうだとすると、請求異議訴訟の中で執行債権者が法人格否認の法理を援用することの可否ということになろう。

 この事例でまず前提として考えなければならないのは、民事訴訟法学上、既判力や執行力の主観的範囲の拡張の場面であるが、実質説と形式説という説の争いがあり、不正確な表現かもしれないが、実質説は実質的に強制執行の拡張が正当化されない場合は既判力も拡張されないといい、形式説は口頭弁論終結後の承継人であれば、とにかく既判力の拡張は生じるが、承継人独自の実体法上の主張を封じることを意味せず、独自の理由を持って執行力を排除できるとする。判例は実質説だといわれている。

 では、上記事例ではどうなるか。もし第二譲受人が法人格否認の法理で登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないとされれば、いずれの説でも第二譲受人に既判力も執行力も及ぶということになりそうである。そうすると、この事例の場面では、執行力の拡張の可否の問題という手続法上の問題という理由で、執行債権者が法人格否認の法理を抗弁として援用することが認められないのだろうか。
 私にはそうは思えない。やはり法人格否認の法理の援用を認めてもよいように思う。

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