実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

区画整理事業と賦課金(後編4)

2013-06-28 14:43:06 | 時事
 結局のところ、地方税法や土地区画整理法の規定は、税金や賦課金を賦課する側の立場にたって、行政目的を達する仕組みのみを規定し、その後の具体的妥当性に関する私人間どおしの解決にまで目配りをして法律化しているわけではないはずであり、そのことは、真に税金や賦課金の負担を負うべき者が誰であるかについては、あくまで当事者どおしで解決する問題であることを前提に、行政法規そのものは沈黙をしているに過ぎないはずなのである。

 以上のように、地方税法や土地区画整理法は、決して、税金が課税され、あるいは賦課金が賦課された、その納税義務者や賦課金の負担者という特定の者が究極的にも最終負担者であるべきことまで含めて規定した法律だとはとても思えないのだが……。

 いずれにしても、最近の最高裁判例として、我々が今行っている裁判にとって非常に不利な判例が君臨することとなってしまった。
 最高裁も、もっと当事者の声に耳を傾けた判断をしてほしいのだが……。

区画整理事業と賦課金(後編3)

2013-06-25 09:52:40 | 時事
 こうした問題は、区画整理における賦課金の問題に限ったことではない。

 例えば、土地や建物に対して課税される固定資産税の納税義務者は、1月1日現在の登記上の名義人に課税される。これは地方税法で決まっている。そのため、不動産の売買が年末ぎりぎりに行われ、登記が1月1日に間に合わないような場合、固定資産税は1月1日現在の登記名義人に課税される以上、売主に課税されるということになる。しかし、実体は登記手続が間に合わないと言うだけのことであって、真の所有者は買主に既に移転しているのである。それでも法律上は売主に対して固定資産税が賦課される。
 この場合に、売主から買主に対して賦課された固定資産税相当額の返還を求めることができるかどうかは、地方税法には何も規定していない。
 しかし、なぜ登記名義人が納税義務者となっているかを考えると、それは単に課税庁の便宜のためでしかないことは、容易に理解できるはずである。つまり、登記名義人が真の所有者ではないことは時々生じることであるが、課税庁として真の所有者を探索することは容易ではない。そのため、登記名義人を納税義務者としているにすぎないのである。
 そうだとすれば、固定資産税が賦課された登記名義人から真の所有者に対して課税相当額の返還を求めることができると考えるべきであることは、当然であろうと思うのである。

 同じようなことが、区画整理事業の賦課金に関しても言えるはずである。つまり、賦課金とは区画整理事業の経費に当たる費用であるから、その事業によって利益を受ける者が負担すべきは当然なはずである。そして、仮換地中であっても整備済の土地として売却できれば、区画整理事業による利益は売却したもと所有者にすべて帰属しているはずである。しかし、区画整理事業中に土地所有者が変更した場合に、誰が区画整理事業による利益を得ているかを区画整理組合が探索することは必ずしも容易ではない。そのため、一律に賦課時の区画整理組合の組合員(すなわち賦課時の土地所有者)に賦課する仕組みを採用しているに過ぎないと言えそうなのである。

区画整理事業と賦課金(後編2)

2013-06-21 11:09:30 | 時事
 この判例を私が読むところでは、結局のところ土地区画整理法が賦課時の現組合員に賦課金を賦課する仕組みになっているのだから、区画整理中の土地の売主に損害賠償を求めることはできないと言っているに過ぎないように読める。
 つまり、ただ土地区画整理法という法律の仕組みを論じただけで原告の請求を認めなかったことになりそうである。

 しかし、それだけでは済まされない問題があると思っているからこそ、我々は売主に賦課金の返還を求めているのであるし、判例の事案だって同じはずである。ところが、そうしたことは全く考慮されていない判例としか思えず、私には全く納得できない判例である。
 土地区画整理法という法律の仕組みだけを論じて原告の請求を認めないことに関し、どこに問題があるのかを一言でいうと、この法律は、あらゆる事態(例えば区画整理事業中の土地の権利関係の変動後の民間どおしの利害調整など)をすべて予測した上で規定された法律とは、とても思えないからである。
 土地区画整理法の目的は、区画整理事業として最終的に行われる換地処分という行政処分に至るまでの行政手続的な法律である。そのため、換地処分そのものが不公平にならないような配慮はしているものの、それはあくまで換地処分という強制処分を行う前提での行政法規上の問題であり、換地処分に直結しないような民間どおしの利害調整にまで目配りをした法律とは思えないのである。だから、もし民間どおしの利害調整が必要になってくれば、民法その他の一般私法が適用されて当然のように思うのである。

区画整理事業と賦課金(後編1)

2013-06-18 11:11:01 | 時事
 1年半くらい前に、このブログで区画整理事業に賦課される賦課金について述べたことがある。仮換地中の土地を敷地とするマンション購入者に賦課金が賦課されてきたという問題である。

 マンション購入者としては、例えその敷地が未だ本換地にいたっておらず仮換地中のままだったとしても、当該マンション敷地部分に関して言えば既に区画整理事業による整備は済んでおり、そのまま本換地になることは当然の前提としてマンションを購入している。そのため、事実としてマンション購入者自らが区画整理事業に組み込まれているという認識のないまま、マンション購入者に賦課金が賦課されたのである。
 我々がマンション購入者の代理人としてマンション分譲業者に対して賦課金の返還を求める訴えを起こし、様々に法律論を展開していたが、その過程で、有利に使える高裁レベルの判例も見つかり、楽しみにしていた事件でもあった。

 ところが、この有利に使えると思っていた高裁判例が、その後ごく最近の最高裁判例でひっくり返されてしまったのである。つまり、我々にとって不利な最高裁判例として君臨することとなってしまったのである。

裁判上の担保の法的性質と権利行使方法(9)

2013-06-14 09:52:51 | 最新判例
 事案を変えて、民事執行法10条に基づく執行抗告と、同条6項に基づく執行停止とそのための担保が提供された場合、あるいは民事執行法11条に基づく執行異議と同条2項、10条6項に基づく執行停止とそのための担保が提供された場合はどうするか。この場合の担保も民事執行法15条2項により民事訴訟法79条が無条件に準用されるので、権利行使催告による担保取消が無条件に準用される。
 しかし、この場合の「訴訟の完結後」を、「本訴の完結後」と読むことは絶対にできないはずである。これらの執行停止のための担保は、執行抗告や執行異議の実効性を確保するためのものである以上、民事執行法15条2項により準用される民事訴訟法79条3項にいう「訴訟の完結後」とは、どんなに厳格に解釈しても、執行抗告や執行異議の完結後としか理解しようがない。 
 私には、執行停止そのものの完結後と解釈しても差し支えないのではないかとも思うのである。

 要は、それぞれの手続の性質や目的に応じて、準用される民事訴訟法79条3項の「訴訟の完結後」という文言を読み替えて理解することになるはずなのである。
 訴訟費用の担保の場面では、訴えを提起されて被告側の勝訴時の利益(訴訟費用請求の利益)を担保するための制度なのであるから、当然訴訟が完結しなければ権利行使催告による担保取消ができるはずはないが、民事保全における担保は、仮差押や仮処分の効力を受けてしまうことそのものに対して、それが違法な場合の債務者の利益(損害賠償請求権)を担保するのであるから、民事保全の効力が消滅すればそこで客観的には損害も確定するはずであるから、本訴の完結を待つのは時間の無駄である。
 そして、本訴手続と完全に分離した中で自己完結的に手続が構成されていることも構造的な裏付けとして、民事保全法4条2項で準用する民事訴訟法79条3項の「訴訟の完結後」とは、「民事保全の完結後」と理解すればいいのである。ただし、その大前提として、担保として提供された供託金に対する権利行使方法は、供託金還付請求権を行使することのみならず、損害賠償請求訴訟の提起あるいは供託金還付請求権確認訴訟の提起も含めて権利行使と理解すべきなのである。
 今回の判例を目にして、以上の私見を一定程度裏付けるものと、私は勝手に理解している。

 私が、はたと困ってしまった案件についていえば、裁判所から権利行使催告による担保取消の申立を取り下げるよう、強力な要請があったため、やむなく取り下げた。依頼者もやむをえないと納得してくれたためである。現在本案訴訟の完結待ちである。
 取り下げないで争った方がよかったであろうか。