実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

差押えの処分禁止効ってなんだ?(3)

2010-01-28 15:18:02 | 民事執行法
 1回感想文を入れてしまったが,再び差押えの効力について……

 差押えの処分禁止効については,前々回に私が理解している実体法学的効力について述べ,前回では手続法学上の効力を見てきたが,両者は,同じ議論をしているのか違う議論をしているのかが,よく分からない。私には全く違った議論をしているように思えるのである。そこで,不動産に対する差押えを前提として私なりに議論を整理してみたい。

 まず,差押えというものが,その後の不動産の権利の帰趨との関係でどのような位置づけになるのかを考える必要がある。執行手続上,差押えは強制執行の最初の段階にすぎず,手続が進めば,差し押さえられた不動産を売却する方法により換価することになる。つまり,有効に第三者(買受人)に売却するための手続として考えれば,差押えはその後の買受人への売却のための順位保全的な手続であることが理解できるのではないかと思う。そうすると,差押えの処分禁止効といってみても,当該不動産の裁判所による売却との関係でいえば,いわば,将来登場するであろう買受人のための仮登記のような性格のものといえないだろうか。
 実体法学において,差押えの登記が対抗要件になるというのは,このような順位保全効的な意味において理解できるのではないかと思うのである。
 もっとも,純然たる仮登記とはやや性格を異にするのは,差押えの段階では将来の買受人が特定されていないという点と,消除主義との関係で,差押えに先行する担保権も,原則として売却により消滅する(例外は,使用収益をしない旨の定めのない質権と留置権である(民事執行法59条4項参照))という点である。しかし,基本的な効力といえる差押えに遅れる登記は差押えに対抗できないという意味は,将来の買受人は,差押え後の不動産の所有者による処分を気にする必要がないということであり,この点では仮登記に基づく本登記請求と基本的な効力は同じ効力なのではないかと思われるのである。
 そして,このような差押えの登記の順位保全的効力は,手続法学でいう相対効に通じるものであり,差押えの効力は絶対効ではなく相対効だという言い方を,順位保全的な効力の問題と言い換えれば,実体法学と訴訟法学の結びつきを説明できるような気がしている。

 そこでさらに問題なのは,手続法学でいう個別相対効と手続相対効の違いについて,実体法的にどのように説明できるのかである。

議員定数不均衡訴訟

2010-01-26 17:30:53 | 時事
 新聞報道によると,前回衆議院選挙についての,いわゆる議員定数不均衡訴訟(一票の格差の憲法14条違反)に関して,大阪高裁と広島高裁で相次いで違憲判決がなされたようである。ほかの高裁でも,今後続々と判決が待っているらしい。

 衆議院の議員定数不均衡訴訟では,中選挙区制度時代には,一票の格差がおよそ1対3が違憲かどうかの分かれ目であるかのように言われていたであろうか。ただし,これはあくまでも世間一般の見方であって,おそらく厳密に最高裁の判例を調べると,1対3を基準といっている判例は存在しないはずである。
 衆議院選挙が小選挙区比例代表並立制に改正されてからは,まだ最高裁で違憲とされた衆議院選挙は存在しない。
 平成17年に行われた衆議院選挙(小泉自民党が圧勝した,例の郵政選挙である)に関して判断した平成19年の最高裁判例は,選挙当日の選挙人数の最大格差1対2.171の格差に関しても,合憲判断を示している。
 しかし,上記最判は,かなりインパクトのある判例であった。少数意見(反対意見ではなくても,法廷違憲とは趣旨の異なる意見も含めて)が多数存在したからである。

 さらに,平成19年に行われた参議院選挙に関して判断した平成21年最高裁判例に至っては(本件選挙当時の選挙人数の最大較差は1対4.86である),辛うじて合憲判断であったものの,これも様々な意見や反対意見が付されており,結論が合憲という意見が多数であったというだけで,内容的に法廷意見が多数意見と言い切れるのかどうかが危うい程の判例であった。
 参議院選挙の一票の格差については,世間一般の見方としては1対6が合憲違憲の分かれ目であるかのように言われていたであろうか。過去の判例の傾向から考えても,一票の格差が4倍台では違憲にはやや遠いという印象を持つ。それが1対4.86でも辛うじて合憲という判断をしたのは,極めてインパクトの大きい判例であったといえる。

 要するに,最高裁は上記2判例によって,結論は合憲判断ではあったものの,一票の格差の問題について,厳格な判断へ大きく舵を切ったと言いうるのかもしれない。
 そうした流れが,今回の高裁レベルでの前回衆議院選挙の違憲判断につながっているような気がする。

 ただし,上記各高裁判例が疑問符を付けている,衆議院選挙区割りの「一人別枠方式」について,上記平成19年最高裁判例においても,それ自体を憲法14条に違反するとはしていないので,上告審においてどのような判断がされるかは,なお予断を許さないといえそうである。
 しかし,既に高裁レベルで続けて2つの違憲判断がなされている以上,最高裁がどのような判断を示すかにかかわらず,どの裁判所からも文句の言われないような選挙区割りの見直しが早急に求められるはずである。現政権担当政党である民主党も,憲法違反の選挙で政権を取ったといわれないように,早急に手当をすべきであろう。

 以上,感想文でした。

差押えの処分禁止効ってなんだ?(2)

2010-01-25 12:31:02 | 民事執行法
 前回は,私の理解している実体法学上の差押えの効力であるが,これとは別に,手続法学上は,差押えの効力(特に不動産に対する強制執行の場合)として,現行民事執行法は手続相対効を採用しているということがよく言われる。手続相対効の考え方は,次のとおりと理解している。
 まず,差押えの処分禁止効が,絶対的なものなのか,相対的なもの何かという考えの違いがあり,絶対効で考える必要がなく,相対的効力とすれば十分だといわれている。その結果,差し押さえられた不動産を第三者に譲渡することが出来なくなってしまうわけではなく,単に差押債権者にその譲渡の効力を主張することが出来ないに過ぎないといわれる。
 ただし,相対効を各関係者に対して個別に貫くと(個別相対効),「ぐるぐる廻り」の現象が生じるといわれる。たとえば,Aが債務者の不動産を差し押さえた後にBが抵当権を設定し,その後に一般先取特権を有するCが配当要求をしてきたような場合である。Bの抵当権はAの差押えに遅れるため,その効力を主張できないが,Bの抵当権と一般先取特権者であるCとの関係だけでみれば,Bの抵当権の方が優先するはずである。ところが,単に差押えをしたに過ぎない一般債権者であるAは,一般の先取特権者であるCに劣後する。そのため,Cの二重差押えや配当要求があれば,CはAに優先する。
 これが,「ぐるぐる廻り」といわれる現象で,AはBに優先し,BはCに優先し,CはAに優先するという,解決しがたい現象が生じるのである。
 そこで,相対効といえども,その効力は手続単位で考えることとし,差押えに抵触する処分については,Aの差押えに基づく当該手続に参加する全ての関係者に対して効力を対抗できないとするのが,手続相対効といわれるものである。
 この手続相対効によれば,上記の「ぐるぐる廻り」の現象についても,Bの抵当権は差押えに抵触する処分なので,執行手続上無視され,Aの差押えに対して配当要求をするCが優先的に配当を受け,つぎにAが配当を受け,Bは配当に預かれないという結果で処理することになる。
 現行民事執行法は,不動産執行についてはこの手続相対効を採用したといわれ,それを表した条文が,民事執行法59条2項,同法84条2項,同法87条2項,3項であるといわれるようである。

差押えの処分禁止効ってなんだ?(1)

2010-01-21 10:36:01 | 民事執行法
 ここでは,差押えの効力,特に処分禁止効について考えてみたいのだが,ここでいう差押えは,基本的には民事執行法に基づいた債務名義に基づく強制執行としての,不動産に対する差押えを念頭に置いている。担保権実行手続としての競売開始決定は,念頭に置いていない。不動産担保権(たとえば抵当権)の場合,競売開始決定よりも,抵当権の登記そのものの対抗要件としての機能が重要だからである。
 強制執行としての差押えの効力には,様々な効力が考えられるかもしれないが,言葉から受ける直感的なイメージに沿う効力といえば,処分禁止効であろう。所有者から管理処分権を取り上げて,勝手な処分を許さないということである。この意味では,たとえば刑事手続きにおける裁判所や捜査機関による差押え(刑事訴訟法99条1項,同法218条1項)も,差し押さえた証拠物等の勝手な処分を許さないという意味合いも含まれていると思われるので,広い意味での差押えに共通する効力かもしれない。
 ところが,少なくとも私法上の強制執行としての差押えの効力として,この処分禁止効を正面から規定した条文がどうやら存在しないようである。
 たとえば,民法典で差押えが問題となるのは,①時効の中断事由としての差押え(民法147条以下),②物上代位の差押え(民法304条),③根抵当権の元本確定事由としての差押え(民法398条の20),④支払いの差し止めを受けた第三債務者の弁済禁止の規定(民法481条),⑤差押えと相殺禁止に関する規定(民法509条など)程度の規定しかない。このうち,処分禁止効と関係のありそうなのは,④の弁済禁止と⑤の差押えと相殺禁止に関する一連の条文であろう。
 不動産に対する差押えは,登記される(民事執行法48条)。ところが,この差押えについての実体法上の効力規定が欠けているように思われ,実体法学上,判例,学説は民法177条の対抗要件と同様に考えているといえようか。

 以上は,私が理解している差押えに関する実体法的効力の規定や解釈である。

一般社団,一般財団法人法 - 評議員・評議員会(2)

2010-01-18 15:48:16 | 一般法人
 一般財団法人と評議員の関係は委任の規定に従うものとされており(172条)、かつ、評議員は一般財団法人又はその子法人の理事、監事又は使用人を兼ねることができないとされている(173条2項)ので、評議員会は一般財団法人を自由に処理できる立場にあるわけではなく、第三者的な立場で善管注意義務をもってその任に当たることが想定されているといえよう。その意味において、権限は類似しているとしても、一般社団法人の社員(総会)と一般財団法人の評議員(会)とは、その性質は相当に異なる。社員(総会)と理事(会)との関係は、本来は社員が一般社団法人の運営主体たるべき地位にあるところ、理事(会)が社員(総会)に代わって一般社団法人の運営を担当するという関係にあり、重要事項など理事(会)に任せられない事項については社員総会の権限としたのであるから、一般社団法人と理事との関係が委任に関する規定に従うという64条の規定の意味は、組織内部的には社員の明示的意思(すなわち社員総会決議)及び推定的・客観的意思に従うという意味にも理解できると思われる(ちなみに、これは株式会社法においても同様の理解が可能であろう)。これに対し、評議員会は、重要事項の決定を理事会に任せずに評議員会の権限とすることにより、理事(会)を牽制する立場にあるといえよう。そのため、一般財団法人と評議員、理事、監事及び会計監査人との関係について、委任に関する規定に従うという172条1項の規定の意味は、文字どおり一般財団法人との関係でのみ(あえて組織内部的にいえば、財団そのものに対して)、善管注意義務が問題となるのであって、評議員も理事、監事と同じ善管注意義務を負うことになるというべきである。
 さらに、役員と同じ欠格事由が定めてあり(173条1項・65条1項)、任期も、原則4年で定款で6年に伸張できるとされている(174条1項)。評議員の報酬も定款で定めなければならない(196条)。