実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権法改正-請負人の担保責任(2)

2015-10-07 13:51:20 | 債権各論
 要は、請負人の担保責任も、売買の担保責任の規定で全て処理しようというということなのである。
 つまり、売買の規定は、有償契約に広く準用される。そのため、もともと売買の担保責任の規定は他の有償契約にも準用されることになっているのである。このことは、債権法改正の前後で変わらない。
 そして、売買の担保責任の規定が、契約責任説の立場から規定し直され、追完請求や代金減額請求が広く認められるようになったことから、請負人の担保責任もこれらの規定を準用するだけで十分ということになったのだろうと思われる。請負の独自の規定として修補請求について規定しても、結局は売買の追完請求の規定とダブるだけということなのであろう。

 なるほど、売買の規定の準用だけで足りるというのは、理屈ではある。
 しかし、債権法改正の一つの理念として、一般の人でもわかりやすい民法にする、というのが掲げられていたと思われる。が、請負独自の担保責任の規定が何も規定されないのは、いかにも一般の人には分かりにくい。

 請負の担保責任の改正についていえば、結局は、理屈を優先した、学者による学問的な立法ということになるだろうか。

債権法改正-請負人の担保責任(1)

2015-10-01 13:06:25 | 債権各論
 債権法の改正により、売主の担保責任の規定が大幅に改正されるのに併せて、請負人の担保責任の規定もかなり変わると言っていい。ただし、その見た目の条文改正は、売主の担保責任と請負人の担保責任とでは、だいぶ趣が異なる。

 従前、請負人の担保責任の規定は、634条以下に規定が存在し、その解釈については難しい議論が存在していた。それが、債権法改正案では、請負人の担保責任を積極的に定める規定は削除されてしまうことになったのである。ところが、請負人の担保責任の制限に関する規定は残る。この制限に関する規定は、一定の場合に担保責任が発生しないことと、期間制限からなる。したがって、当然、請負人は一定の担保責任を負うことが当然の前提となっているのである。
 つまり、請負のところでの規定では、担保責任を積極的に認める規定がなくなるにもかかわらず、担保責任の存在を前提として、それを制限する規定だけが存在するような、一見すると理解しにくい条文構造となるのである。

 「要綱仮案」の段階では、現行の民法634条を改正して、請負の目的物が契約不適合であった場合には、注文者は相当の期間を定めて修補請求できるという規定を設けることになっていた。これが、請負人の担保責任に関する積極的規定にする予定だったはずである。しかし、実際の改正案では、この種の規定さえ設けられず、民法634条は担保責任とは全く関係のない条文と化してしまう。

 これは一体どういうことか。

債権法改正-売主の担保責任(6)

2015-09-24 10:41:59 | 債権各論
 売主の担保責任に関し、特別法に重要な特則が規定されている。「住宅の品質確保の促進等に関する法律」であり、俗に品確法といわれているようである。
 ここに、新築住宅の売買と請負に関する瑕疵担保責任の特則が定められており、新築住宅の売買に関しては、構造耐力上主要な部分や雨水漏れに関する瑕疵については修補請求が可能で、担保責任の期間は10年とされていた。しかし、債権法の改正案そのものが売買の担保責任として修補請求を可能としているので、品確法の特則も必然的に影響を受けることになる。が、これまで新築住宅の担保責任の実質的内容を変えるつもりはないようである。
 また、品確法上、「瑕疵」という言葉は残すようで、新たに「瑕疵」の定義を設けることになっている。品確法上の「瑕疵」とは、種類または品質に関して契約の内容に適合しない状態をいうとされる。つまり、「不適合」の内容のうち、種類、品質のみを問題とし、数量不足は含まれないことになる。ただ、新築住宅の売買の場合、事柄の性質上数量不足が問題となることはあり得ないであろう。

 以上を前提に、新築住宅の構造耐力上主要な部分等の「瑕疵」についての担保責任は通常の改正後の民法上の責任を負うことを前提に、期間制限を10年間とする定めとなる。つまり、特則となる部分はこの期間制限の伸張みとなるような改正を行う。
 従前、民法の瑕疵担保責任には法定責任説的な発想で瑕疵修補請求権は存在しないという前提のもと、新築住宅については特別法で修補請求も認めるという特則を設けていたのだが、民法そのものが追完請求権の一内容として修補請求を認めるようになることから、特則としての意味がなくなり、期間制限の伸張だけが特則としての意味を持つことになったのである。
 なお、民法上、「瑕疵」という言葉をわざわざなくしたのに、特別法で「瑕疵」という言葉を残すことの是非は問題のようにも思うのだが、どうだろう。

 以上が、売主の担保責任の改正案について、私が理解するところの、だいたいの内容である。

債権法改正-売主の担保責任(5)

2015-09-17 11:29:44 | 債権各論
 担保責任には期間制限がある。買主が不適合を知ったときから1年内に不適合を通知しないと、損害賠償請求や解除も含めて担保責任に関する権利を失う。契約不適合の事実を通知すればよく、権利行使をする必要まではないようである。

 ところがなぜか、この期間制限は数量不足と権利が売買の対象であった場合の不適合の場合には適用されないという。ここに、「不適合」という要件でで統一した担保責任の効果の中でも唯一「不適合」の内容による違いが生じるところである。
 なぜこのような期間制限に区別を設けたかについて、物の本に書いてある理由は、数量不足は引渡をする売主にも比較的容易に判断できる事柄だからだといい、権利の際の不適合は売主が契約の趣旨に適合した権利を移転したという期待を抱くことは想定しがたいとか、短期間で契約不適合の判断が困難になるとも言い難いとかが、理由とされる。
 しかし、本当にそうだろうか。権利に関する不適合については、最終的には法律判断であり事後的判断になってしまうので、期間制限から外すことは分からないでもないが、数量不足はどうなのだろう。数量不足で想定される一場面としては、納品書等の帳票上は契約通り100個引き渡したことになっているが、後になって買主が90個しか引き渡されていないと主張し出す場面が想定されると思う。
 このような場合に本当に比較的容易に判断が付くと言えるだろうか。個人的には数量不足を期間制限から外したのはやや疑問なのだが……。

 なお、期間制限については、売主が悪意重過失であれば適用されない。そのような売主を保護する必要がないからである。

債権法改正-売主の担保責任(4)

2015-09-09 13:10:43 | 債権各論
 売主の担保責任として、買主からの代金減額請求権も認められる。
 代金減額請求権は、現行法上明文で認められている場面は、権利の一部が他人に属する場合と数量不足の場合だけであるが、これを契約不適合の場面全般に広げたものと理解できる。

 数量不足の場合などが最もわかりやすいのであるが、例えば100個の注文に対して90個しか引き渡されなかった場合に、10個分の代金の減額というのが典型的にわかりやすい事例である。
 しかし、よく考えてみると、これは引渡未了の10個分についての一部契約解除と実質は同じであることに気づくと思う。つまり、代金減額請求権の行使は、契約の一部解除と同質なのである。そのため、代金減額請求権の要件は解除の要件と非常によく似ている。催告による減額請求と無催告による減額請求に分かれており、催告減額は一般的に認められ、無催告減額は追完不能の時や追完拒絶を明確に表示したときなど、解除と共通しており、要は、契約の全面的解除の場面を一部解除に置き替えた規定となっていると言いうる。

 解除と代金減額請求の要件で違いがあるとすれば、次の二つである。
 まず、催告解除の場合、債務不履行が軽微であれば解除できないが、催告減額は軽微であるか否かにかかわらず可能である。この違いには意味がありそうで、軽微な債務不履行は、全面解除ではなく一部解除たる代金減額で処理すべきという法の表れと言えそうである。
 無催告解除が認められている場面で無催告減額についての規定がない部分としては、一部不履行では契約目的達成ができない場合であり、この場合は代金減額請求は意味がないので、全面解除は認められるが代金減額に関する規定はない。
 解除と代金減額の要件の違いは以上の2点だけと言っていい。

 以上のように、代金減額請求権の実質は契約の一部解除であるとすれば、代金減額請求権も、もし通常の債務不履行の場面で全面解除ではなく一部解除も認めるとなれば、実は特別の意味を持たない規定とも言いうるのである。
 また、代金減額についても、債権者の責めに帰する場合は権利行使できないとされる。この規定も追完請求権と趣旨は同じである。