実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

株主代表訴訟を提起してみた(6)

2019-03-27 11:43:04 | 会社法
 結局、私が言いたいのは、決議取消原因である、特別利害関係人が加わったことにより著しく不当な決議となった場合というのは、決議の内容その者が著しく不当か否かだけの問題ではなく、決議に加わった特別利害関係ある株主の決議における影響度(特に持株比率)と、決議内容の不当性の相関関係によって決まってくるのでであって、それぞれが別個独立の要件となっているのではないように思うのである。
 現に、条文を見ても、決議無効原因は「決議の内容」の法令違反であり、他の取消原因の一つとされている定款違反も、「決議の内容」の定款違反であるが、これに対して特別利害関係人が加わったことにより著しく不当な決議かどうかは、決して「決議の内容」が著しく不当とは定められていないのである。

 たとえば、持株比率がごく微細な特別利害関係ある株主(例えば、上場会社を想定して、その持株比率が1%未満の対等合併の当事会社としてみよう。)であり、経営には関わっていない株主が合併決議に加わったとしても、その決議に対する影響力は取るに足らないはずである。そうだとすれば、決議された内容が、当該株主(合併の他方当事会社)にとって有利であり、第三者から見て明らかに首をかしげたくなるような決議内容であった場合でも、他の多数の株主もそれに賛成をしているからこそ決議されたのであるから、例え特別利害関係人が決議に加わっていたとしても、そのような決議に取消原因があると考える必要はない。もともと、この点は解釈上も問題がないはずである。

 逆に、親会社が子会社を吸収合併しようとした場合で、子会社の他の株主の多くが合併承認決議に反対していた場合は、合併条件に全く全く問題なければともかく、その当否の見解が分かれる、あるいは裁判所として判断しかねる程度の問題だとしても、特別利害関係人である親会社が決議に加わったことの影響力が大きいからこそ決議ができた、裏を返せば、親会社以外の株主の多くは反対しており、親会社を除けば、否決が明らかであったような場合、やはり決議取消原因としてよいのではないだろうか。
 代表取締役個人の報酬についても、飲食が遊びか仕事か判断しかねるとしても、51%の持株比率のある代表取締役自身が決議に加わっての決議であると同時に、他の多数の株主が反対していたような場合であれば、とにかく取り消すべきだと思うのである。そして、改めて株主どおしで話し合わせればいいのである。

 以上の解釈は、間違っているのだろうか。

株主総会決議取消訴訟を提起してみた(5)

2019-03-20 13:04:40 | 会社法
 すぐに気づくと思うのだが、例え飲食が取引先・業界関係者との飲食であったとしても、それが仕事か遊びかは、かなり主観的な判断に陥りがちな事柄である。当然、その飲食の時間が短ければ仕事で長ければ遊びというような基準があるわけでもなければ、飲食の場がキャバクラなら遊びで、そうでなければ仕事だなどという基準があるわけでもない。それを、原告立証責任の下で遊びか仕事かの判断を裁判所に行わせようというのである。それで本当に適切な判断ができるだろうか。

 そもそも、株主総会決議の内容が著しく不当か否かは、本来誰が決めるべき事柄かといえば、もちろん株主自身が株主総会において決めるべきことである。決議内容が不当だと思えば、否決をすればよい。つまり、決議内容が不当か否かは、本来は株主に全面的に任されていることなのである。なので、判例的にいうと、例えば合併比率について、著しく不当のように見えても、そのことのみをもって決議の瑕疵とは考えない。第三者の目から見て、首をかしげたくなるような合併比率だとしても、決議に加わった株主の3分の2以上の株主がよしとするならば、他人が口を出す事柄ではないという理解である。しかし、例えば吸収合併消滅会社となる子会社の株主総会決議に、吸収合併存続会社となるべき親会社が加わっているからこそ、株主の意思だけに任せられない問題となるのである。
 逆に、合併比率等の合併契約の内容の当否について第三者として意見が分かれそうな程度の問題だったとしても、親会社以外の株主の多くが合併に反対していたとすれば、そこには株主だからこそ見える、第三者には見えない何かがあるから親会社以外の多くの株主が反対しているともいえる。そのような場合に、裁判所として、決議内容が著しく不当であることの証明がないとして、決議取消を認めないという判断は、正しいのだろうか。

株主総会決議取消訴訟を提起してみた(4)

2019-03-13 09:36:21 | 会社法
 私が関わった決議取消訴訟では、決議の内容が著しく不当か否かを、がっぷり四つで争うことになった。上記の事例で言えば、代表取締役の飲食が、仕事か遊びかを、がっぷり四つで争ったということである。そして、このことは、特別利害関係があるか否かと、決議が著しく不当か否かは、全く別の要件としているということである。
 一見、文理にしたがった解釈であるが、しかし、実際に決議取消訴訟を行ってみたところ、このような解釈には問題がありそうだと思うようになった。

 確かに、決議の内容に、全く問題となりそうな点がないという場合に、それを特別利害関係人が加わったことそのもので著しく不当だとするのは、あまりにも乱暴な議論である。これでは、著しく不当の要件がないのと同じであり、改正の経緯を考えても、このような解釈を取る余地はなく、決議内容が問題とされなければならないことは、当然である。
 しかし、そうだとしても、飲食が遊びであることをがっちりと証明しなければ、著しく不当要件を証明したことにはならないのだろうか。

株主総会決議取消訴訟を提起してみた(3)

2019-03-06 09:54:34 | 会社法
 単純に法律要件を考えると、まず、株主たる代表取締役は、自分の報酬に関する株主総会決議における特別利害関係人にあたるか否かが問題となる。
 単純に取締役会決議における特別利害関係人の場合とを比較して、同じような理屈で考えていいということであれば、代表取締役の報酬は、当該代表取締役と会社との間で利益相反関係にありそうなので、特別利害関係人にあたると考えてよさそうである。

 つぎに、著しく不当な決議といえるかどうか。
 もし、決議の内容の不当性ということになれば、結局は、仕事に見合う報酬といえるかどうかが問題になってくるし、この事例では、飲食に走っていることが、仕事か遊びかの判断なのであろうし、最終的には裁判所の事実認定の問題となってくるのかもしれないが、立証責任が訴えを提起している原告側にあるとすると、遊びだという立証ができるかどうかにかかってくる。それで裁判所に適切な判断ができるかどうか…。もしそうだとして、そうすると結局は立証責任の分担の問題として片付けられてしまうことになるが、それでいいのだろうか。これが私の疑問である。