実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

嫡出否認の規定は合憲?(3)

2017-12-20 14:09:06 | 家族法
 今回の事案は、憲法違反を理由とした国賠請求の事案であったが、争い方として、とにかく妻側から嫡出否認訴訟を提起してしまうという方法もありそうだと思っている。私自身は、嫡出否認の訴えの規定を妻にも類推適用すべきと思っている。このことは、300日規定の問題の時にもこのブログで触れた。ただ、この方法で嫡出否認の違憲性を争おうとする場合、条文上は、子の出生から1年以内に提起する必要がある。しかし、仮に憲法違反だとすれば、憲法違反状態を解消する非常救済手段でもあるから、最高裁が現行法の憲法違反性を認めるのなら、嫡出否認の妻への類推を認める最高裁判決が出てから1年以内は、子が生まれてからどれほど経過していようと、妻側からの嫡出否認訴訟を認めてもよいのではないかとも思うのである。そのような解決が、実質的に妻からの嫡出否認訴訟を認める解決になると思うのである。
 
 最近、家族法の分野での憲法訴訟が増えており、違憲判決も存在する。それは、現行家族法の規定が、時の経過と共に社会に合わなくなってきている証拠だと思う。
 ところが、立法の方はなかなか進まず、非嫡出子の相続分が嫡出子の2分の1とする規定を違憲とした最高裁判決が出てさえ、この規定を改正することに異を唱える議員が少なくなかった記憶がある。選択的夫婦別姓については、その改正は何十年も棚ざらし状態である。近年、最高裁も夫婦同姓の規定を合憲と判断したこともあって、全く改正の動きは見えない。このあたりは、価値観や家族観の違いという問題も大きいのかもしれない。
 しかし、嫡出否認の規定を見直して妻にも訴えを認めることが、どれほど価値観や家族観の影響を受けるであろうか。無戸籍児を発生させるよりも、妻からの訴えを認めた方が、ずっと問題は少ないはずである。そう思うのは、私だけではないはずである。だからこそ、今回のような憲法訴訟が起きるのである。
 法務省も、立法措置を執るために、遅い腰を上げるべきではないだろうか。

嫡出否認の規定は合憲?(2)

2017-12-13 10:35:21 | 家族法
 最近の報道の事件は、こうして無戸籍となってしまった女性から、嫡出否認の訴えが夫にのみ認められているのは、性別による差別で憲法違反であることを理由に国に損害賠償を請求した事件である。いわゆる国賠訴訟であろう。
 まだ、一審判決が言い渡された段階であるが、神戸地裁は合憲だと判断したとのことである。ただし、判決は法整備の必要性を指摘しているとも報道されている。

 私は、大分前に300日規定の問題についてこのブログで述べたことがあり、そこで、嫡出否認の訴えを夫のみに認めている現行法を憲法違反だと考えていると述べた。今もそれに変わりはない。
 憲法違反と考える理由は,単純である。嫡出否認の権利を夫にのみ認め、妻には認めていないのであるから、権利面で明らかに夫と妻を区別している。あとは、その区別が合理的かどうかであるが、私には合理性は認められないと思えるのである。神戸地裁の判決も、法整備の必要性を指摘しているくらいだとすれば、合理性に疑問を持っていることの現れのはずなのである。だったら、性別を理由とした不合理な差別として、憲法違反にしてもいいはずである。

 嫡出否認の仕組みは、この出生を知ってから1年以内に夫から訴えを提起する方法でしか嫡出否認を認めないことにより、親子関係の早期安定を図ることが立法趣旨のようである。しかし、妻からの嫡出否認をおよそ一切認拒否することによる親子関係の早期安定が、そこまで合理的な立法趣旨かどうか、かなり疑問があるし、世の中の実体は、その結果、無戸籍児が発生してしまい、無戸籍児の身分そのものが長期不安定状態が発生しているのである。これでは、親子関係の早期安定という理想とは全く逆の方向性に向かっているのではないか。

 以上が、夫にしか嫡出否認を認めない現行法が合理的とは思えないと、私が考える理由である。

嫡出否認の規定は合憲?(1)

2017-12-06 11:04:06 | 家族法
 つい最近、嫡出否認の訴えが夫からしか提起できないことが憲法違反か否かが争われた事件が報道され、少し話題になった。
 何が問題になっているかというと、妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定され、その推定を覆す方法は、法律上、夫から嫡出否認の訴えを提起するしかないのである。つまり、妻や子の側から嫡出を否認することができないような条文構造になっているのである。

 このことが一般的に問題となってくるのが、夫と別居中に他の男の子供を身ごもる場合である。婚姻中に身ごもった以上、たとえ別居中であっても、夫の子と推定され、血縁上の父親を法律上の父親として出生届を提出することができないのである。
 こうした場合に、妻や子から、夫に対して嫡出否認ができればいいのだが、法律は、これを用意していないのである。夫に頼んで嫡出否認の手続を取ってもらう方法ももちろん考えられるのだが、夫が協力しなかったり、暴力夫でそのようなことを頼める状況でないこともあったりするらしい。
 結局、夫の子として出生届を提出することもためらわれることも多いようで、そのような場合は、出生を届け出ないままとなってしまうこともあるらしい。これが、無戸籍問題を発生させている。