実務家弁護士の法解釈のギモン

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「pなければqなし」ってどういうこと?(3)

2011-07-19 10:43:43 | その他の法律
 既に述べたように、二人が致死量の毒を盛った場合は、「p1がなければqなし」にはならないし、「p2がなければqなし」ともならない。裏が成立しないのである。これは、私に言わせれば、数学論理的に、「命題」に対する「裏」が必ずしも真ではないことに由来するものと思っており、「裏」からの説明の限界(あるいは不十分さ)の現れなのである。

 ではどうするか。
 「pなければqなし」という条件式を、次のような言葉に置き換えてみたらどうか。つまり、

 「qなしとするにはpがあってはならない」
あるいは
 「現に生じたqという人の死を避けるには、pという行為があってはならない」

という条件式に置き換えるのである。
 もっと簡単に言えば「qなければpなし」ということであり、上記条件式は、これを因果関係的にわかりやすく表現したものである。実はこの表現は、「pなければqなし」という表現に対して「逆」の関係にあり、もっと言えば、本来の命題たるべき「pあればqあり」との関係で数学論理的に言えば、「対偶」という関係にある。「対偶」という言葉は聞き慣れないかもしれないが、「命題」に対する「裏の逆」または「逆の裏」の関係にあるのが「対偶」なのである。

 数学的証明方法に、対偶証明法という証明方法がある。これはどういうことかというと、「対偶」が真であれば必ず「命題」も真である、という一種の定理がある。「命題」と「対偶」は必ず一致するのである。その結果、命題を証明するために、その対偶関係が成立することを証明し、間接的に命題を証明することが可能なのである。
 前回のブログでも出した、
   x+y+z≧0のとき、x、y、zのうち少なくとも一つは0以上である
という命題を証明する場合、対偶から証明でき、仮にx、y、zすべてが0未満であれば(すなわち、qがなければ)、必ずx+y+z<0となる(すなわち、かならずpではない)。だから、x+y+z≧0になるには必ずx、y、zのうち少なくとも一つは0以上でなければならない(数学的には対偶が真であるから、元の命題も真である、という言い方をする)。
 これが対偶証明法の一つの典型的な例である。この証明方法を応用して因果関係の条件式を言い換えたのが、上記のように置き換えた言葉なのである。

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