実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

改正相続法-遺留分侵害額請求の法的性質(7)

2019-01-30 10:08:50 | 家族法
 つまり、判例も、遺言の内容からして一義的に財産の帰属が決まってしまうような遺言(特定遺贈や、特定の財産を特定に相続人に「相続させる」旨の、改正相続法の用語で言う特定財産承継遺言)であれば、それに対する遺留分減殺請求権の行使により共有持分を発生させていたのであるが、そうではく、純粋な相続分の指定や割合的包括遺贈の場合は、あくまでも遺留分に相当する相続分を発生(復活といった方がいいのか)させるだけの効力にとどめた扱いをしていたのである。
 しかし、相続法改正後は、遺留分『侵害額』請求権はすべて金銭請求になるので、たとえ純粋な相続分の指定や割合的包括遺贈に対する遺留分侵害額請求権の行使であっても、以上のこれまでの実務のような扱いは(少なくとも遺産分割審判の場では)法的に不可能になる。もちろん、任意の話し合いで解決できるのであれば、遺留分権者に対しても遺産を分け与えて解決することは可能ではあろう。だが、その場合の法的構成は代物弁済として処理せざるを得ないのではないか。そうなると、例えば遺留分権利者に対して相続財産たる不動産を分け与えるとしても、登記原因は「相続」ではなく、「代物弁済」とならざるを得ないのではないか。さらに細かいことになるが、その場合の税法上の扱いも相当に問題が生じそうである(相続財産を取得した遺留分権者に相続税が発生することになるのか、あるいは相続ではなくあくまで代物弁済だと判断されると、遺留分侵害請求を受けた側に譲渡所得税が発生すると判断される可能性もありそうである。)。
 私の理解が間違っていなければ、純粋な相続分の指定や割合的包括遺贈の場合に、以上の問題が起きそうな気がするが、どうなのだろ。

 とにかく、遺留分制度は、相続法の改正で大きな変更を受けた。今後の実務がどうなるか、見物である。

改正相続法-遺留分侵害額請求の法的性質(6)

2019-01-23 11:39:47 | 家族法
 確かに、これまでの判例が明示するところでは、遺留分減殺請求権を形成権として構成し、遺留分減殺請求権の行使により遺贈の目的物に当然に共有持分が発生するという理解をしているが、純粋な相続分の指定のみがなされた遺言や、割合的包括遺贈が遺留分を侵害する場合において減殺請求権が行使された後の事後処理は、実務では遺留分権利者を含めた形での遺産分割協議により行っていたようである。
 なぜなら、相続分の指定のみの遺言や、割合的包括遺贈の遺言では、どの遺産がどの相続人(受遺者)に帰属するのかが決まっていないので、いくら形成権だと行ってみても、遺留分権者の遺留分減殺請求後も、共有持分の発生等の議論ができず、せいぜい相続分の発生が形成されるとしか言いようがないからである。

 そして、最高裁の判例の中にも、明示的にこの趣旨を判示したわけではないが、手続の流れからして、以上のことを当然の前提としているとしか考えられない判例も存在するのである。

改正相続法-遺留分侵害額請求の法的性質(5)

2019-01-16 12:32:11 | 家族法
 具体的に考えてみる。相続人が長男と次男の2人だけだった場合に、相続分として長男9割、次男1割とする相続分の指定がなされた場合にどうなるか。遺産は、仮に7500万円の不動産と2500万円の不動産だけだとしよう。
 この場合、改正相続法をそのまま当てはめると、遺産分割協議では、遺産のうち9割を長男が取得し、1割を次男が取得するので、通常は7500万円の不動産は長男が取得し、2500万円の不動産は、長男か次男が取得し、取得しなかった方が代償金を支払うことになるか、代償金支払い能力がなければ、競売になる。そして、次男の指定相続分は遺留分4分の1(2割5分)に満たないことから、その差である1割5分の分である1500万円は次男から長男に金銭請求をするということになる。
 しかし、この事例の場合、遺産分割協議で次男が遺留分の範囲内である2割5分の遺産である2500万円の不動産を単純に取得するという解決が最も単純明快のはずであり、この結論に何か問題はあるとは思えないばかりかこの結論の方が優に合理性が高いはずである。もちろん、改正後においても、任意の遺産分割協議の場合は、当事者の納得の問題なので、任意にこのような解決することは可能であろう。しかし、遺産分割審判となるとそうはいかない。裁判所は指定相続分に縛られた遺産分割審判をせざるを得ず、さらにそれとは別に遺留分『侵害額』請求権についての判断は純粋な金銭請求として判断せざるを得ない。

 以上の事案を少し変えて、遺産が20種類の上場株式で、それぞれの種類の株式の価値がすべてちょうど500万円だったらどうか。この事案でも、遺産分割審判では、長男が18種類の株式を取得し、次男が2種類の株式を取得する審判しかなしえない。あとは遺留分『侵害額』請求権の行使として金1500万円の金銭請求について判断することになる。しかし、この事案でも、次男が5種類の株式を取得することですべて解決させることに、何か問題があるとは思えないし、遺留分『侵害額』請求と言ってみても、そもそもが「相続」の効力の問題なので、次男も遺留分の範囲内で親の財産を取得することこそが理想の姿ではないかと思うのである。

改正相続法-遺留分侵害額請求の法的性質(4)

2019-01-09 09:58:20 | 家族法
 以上は理論的な問題点であるが、第2の問題点として、そもそも、私は遺留分『侵害額』請求権を、すべての場合において純粋な金銭債権としてしまった立法に、若干の違和感を覚えている。

 確かに、特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(改正相続法では、これを「特定財産承継遺言」と命名している。)や特定遺贈にあっては、当該特定の財産を特定の相続人や第三者に取得させたいという、遺言者の強い意思が見て取れるので、特定財産承継遺言や特定遺贈が遺留分を侵害ても、遺留分権利者は金銭請求しかできないとすることには、それなりに合理性があると思う。現行法のように、遺留分を『減殺』して共有持分を発生させておいて共有物分割手続に乗せるというのは、迂遠であるし、共有物分割手続の行方によっては、せっかくの受遺財産等を手放さざるを得ない結果もあり得るので、遺言者の意思にも反しそうである。

 しかし、例えば純粋な相続分の指定や包括遺贈であった場合まで、遺留分『侵害額』請求権を金銭債権としてしまったのは、どうだったのだろう。この場合は、相続人間で(割合的包括遺贈であれば受遺者を含めた形で)遺産全部について遺産分割協議を行うことになる。そこで、遺留分を侵害された相続人も、遺留分を具体的相続分とし、かつ、遺留分を超える相続分を指定された相続人や包括受遺者は、遺留分『侵害額』請求された後の修正された相続分を具体的相続分等として遺産分割協議に参加させれば、それで解決できることだと思うのである。
 もちろん、遺言により相続分をゼロとされた相続人を除いて遺産分割協議を成立させたあとしばらくしてから、遺留分『侵害額』請求権を行使して遺産分割協議のやり直しを求めるのは、いささか法的安定性を害するので、遺言により相続分をゼロとされた相続人がいる場合は、例えば相続分ゼロの相続人を除いた遺産分割協議の成立後は金銭請求に転換する等、何らかの手当が必要だろうが、遺産分割協議が成立する前に遺留分『侵害額』請求権を行使した場合は、それを考慮した形での遺産分割協議を行わせることに支障があるとは思えないのである。
 ところが、改正相続法では、遺留分『侵害額』請求権を行使した者を遺産分割協議に加える手段を残していないと思われるのである。