実務家弁護士の法解釈のギモン

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債権譲渡の第三者対抗要件は到達時?(1)

2009-07-03 16:56:04 | 債権総論
 債権譲渡の第三者対抗要件は、確定日付のある証書による通知または承諾である。ここで、対抗力を備える日について、確定日付説と到達時説とが対立し、到達時説が判例・通説とされる。結論として、到達時説を採用することに対し、直ちに異議があるわけではない。が、なぜ確定日付説に問題があるかについて、教科書的に一般に言われる説明が、私にはどうしても納得できない。
 教科書的には一般に、確定日付説の問題点として、第一譲渡に関する債権譲渡通知に付される確定日付が、第二譲渡に関する債権譲渡通知に付される確定日付よりも先ではあるが、債務者への到達が第二譲渡に関する債権譲渡通知が先であった場合に、確定日付説では後から到達する第一譲渡に関する債権譲渡が対抗要件を備えるのに、債務者はその前に第二譲受人に弁済してしまいかねないため、確定日付説では債務者が不測の損害を被りかねない、という趣旨の説明がなされる。
 しかし、この説明は、どう考えてもおかしいとしか思えない。なぜなら、もし第二譲渡に関する通知が先に債務者に届き,第一譲渡に関する通知が債務者に届く前は、そもそも第一譲渡に関して債務者対抗要件すら備わっていないのである。したがって、この段階では、債務者としては、極端にはたとえ第一譲渡の存在を知っていたとしても、通知が届かない限り、これを無視して、第二譲渡に関する通知が届いた段階で,第二譲受人に対して弁済してしまってかまわないはずなのであり、この弁済が当然に有効な弁済となり、債権債務は完全に有効に消滅するはずなのである。このことは、確定日付説を採るか、到達時説を採るかの問題以前のことのはずなのである。その後に別の債権譲渡通知が到達したとしても,もはや債務者にとっては存在しない債権の譲渡でしかないのである。
 以上のことは、条文の構造上も当然だと思われる。民法467条1項で債務者対抗要件としての通知または承諾について規定し、その2項で、この債務者対抗要件としての通知または承諾が確定日付のある証書であることが、第三者対抗要件となっているからである。債務者対抗要件を備える前に(つまり、通知または承諾の表示が相手方に到達する前ということになるはずである)、第三者対抗要件が備わることは、条文の構造上あり得ないのである。従って,第二譲渡に関する債権譲渡通知のみが届いた時には,債務者は第二譲受人のみを真の債権者として扱わざるをえない。債務者は第一譲渡は無視できるというだけではなく,無視しなければならないのである。

 つづく

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