実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権法改正と訴訟告知(2)

2014-12-25 10:43:09 | 債権総論
 以上に対し、民事訴訟法以外で訴訟告知に関して特殊な定めをしている場合がある。その一つの例が、手形訴訟や小切手訴訟が提起された場合の、被告から遡及義務者に対する訴訟告知であり、訴訟告知に時効中断効を認める。これは、裏書人等からの遡及義務者に対する権利の時効期間が裏書人等が訴えを提起されてから6か月と短く、訴訟係属中に時効期間が経過してしまう恐れがあることから、特殊な時効中断を認めたものである。
 この訴訟告知は、民事訴訟法上も任意訴訟告知がなしうる場合において、その効力として単に参加的効力を及ぼすというだけでなく、時効中断効をも及ぼすという、効果面での特則といえる。

 その他に、株主代表訴訟を提起した場合の提訴株主から会社に対する訴訟告知がある。通常は、訴訟告知を行うか否かはもっぱら訴訟当事者の任意に任されているが、代表訴訟を提起した株主からの訴訟告知は義務的である。同趣旨の規定は一般社団法人の社員が理事の責任を追及する訴えを提起した場合(いわば、社員代表訴訟である。)にも存在する。
 株主からの訴訟告知が義務的なのは、株主敗訴の場合に株主・会社間に必要的に参加的効力を及ぼすことが目的なのではなく(そもそも、たとえ株主が敗訴したとしても、当該株主との関係でその敗訴負担を会社にも負わせる意味合いは考えにくい)、代表訴訟が提起されたか否かが分からない可能性がある会社に対し、代表訴訟を提起したことを知らせることそのものを直接の目的としているといえる。これにより会社は代表訴訟が提起されたことを公告または株主に対して通知をすることになり(会社が他の株主へ代表訴訟を知らせる意味である)、また、会社としての当該訴訟への対応(補助参加するか否かも含めて)を検討する機会を与えることにもつながる。
 この訴訟告知は、会社としては一応株主側に補助参加等訴訟に参加することが可能なので、一応民事訴訟法上の訴訟告知の手続に乗っかった仕組みではあるとはいえる。ただ、義務的であることと、効果面は参加的効力とはあまり関係がないといえることからして、かなり特殊な訴訟告知といえる。

債権法改正と訴訟告知(1)

2014-12-22 10:24:21 | 債権総論
 債権法改正と訴訟告知という表題が何を意味しているのか分かりにくいかもしれないが、まあ、お付き合い頂きたい。

 民事訴訟法上、訴訟告知とは、訴訟当事者から当該訴訟に参加することができる第三者に対して行うものであり、いわば被告知者に対し訴訟への参加を促すものであるが、たとえ被告知者が当該訴訟に参加しなくても補助参加したものと見なされる。
 もっとも、補助参加したものと見なされるといっても、強制的に補助参加人としての訴訟への加入を強制されて訴訟手続を行うことが強制されるわけではなく、要は、本来補助参加人に対してしか及ばない参加的効力が、被告知者に対しても及ぼすことができることを意味する。もちろん、被告知者が任意的に補助参加することは全く問題がない。

 この参加的効力とは、補助参加人が補助参加した場合を考えると、被参加人が敗訴した場合にその敗訴の効力が補助参加人にも及ぶことを意味していると解されている。そのため、被参加人の敗訴を前提とした補助参加人に対する何らかの請求をする後訴を提起するときに、前訴の補助参加人だった者は、当該訴訟の結果を争えないという効果が生じる。
 そのため、訴訟告知はこの参加的効力を、補助参加しない第三者に対しても及ぼしうるようにする仕組みといえる。告知者の利益のための制度と言われる所以である。

債権法改正-無効・取消と原状回復(4)

2014-12-16 10:50:35 | 民法総則
 以上のように見てくると、無効・取消の場合の原状回復義務を新に規定するという根本の趣旨は、実のところ不当利得法の改正なのであり、不当利得類型論を一定程度明示的に認め、その手段として給付利得の場面を不当利得から抜き取って原状回復義務を規定するという方法で給付利得の返還を一本化するという法改正ではないかと思われるのである。
 そして、給付利得の返還の内容について、不当利得法から離れた原状回復義務の内容として独自の解釈が成り立つことになり、改正後の給付利得の問題はもっぱら原状回復義務の内容として議論されるようになるのではないだろうか。

 以上の意味において、無効・取消の場合の原状回復義務の規定の盛り込みは、契約法だけではなく民法の教科書のうち不当利得の部分の全面的な書きかえが必要なほど、見た目よりもかなり大きな改正だと思う。法制審議会の議事録を見てはいないが、そのことを強く意識していただろうと思う。
 少なくとも最高裁の判例には、不当利得類型論に言及している判例はないと思われるので、実務的にも結構影響の大きい改正ではないかと思われる部分である。

債権法改正-無効・取消と原状回復(3)

2014-12-12 09:56:01 | 民法総則
 無効・取消の際の契約関係の巻き戻しの法律関係は、従来は不当利得返還請求の問題として扱われていたことは既に述べたとおりであるが、今後は不当利得の規定が直接は適用されないということになる。が、その実質は、不当利得類型論をほぼ明示的に採用したといってもいい改正内容といえるのである。

 不当利得類型論は、主に給付利得の場合と侵害利得の場合とで分けて考えるものである。なぜこのような考え方が生まれてくるかというと、不当利得の規定を文字通りそのまま適用してうまくいく場面は、侵害利得の返還の場面であって、給付利得の返還の場面ではうまくいかないという認識があったと思われる。まさに既に述べた売買ような事例である。
 そのため、私の拙い雑ぱくな理解では、給付利得の場合は契約関係の巻き戻しの場面なのだから、契約法の法理を巻き戻しにも応用しようというのが給付利得の場面での考え方かと思われる。

 無効・取消の場合に原状回復義務を規定する趣旨は、解除の際の原状回復義務と合わせて、侵害利得の法理とは別の法理として、給付利得の法理を侵害利得とは異なる法理としてこの二つの規定で賄おうという趣旨が明確に見て取れるのである。

 このように考えた場合、無効・取消の場面だけではなく、契約関係の不存在の場合(例えば、死亡した被相続人との契約の存在を主張されて相続人がその契約を履行したが、実は契約書は偽造されたものだったというような場合。意思表示の無効といってもいいが、正確には不存在であろう。)も、給付利得の一場面のはずなので、無効・取消の場合の原状回復義務を類推すべきことになろう。

債権法改正-無効・取消と原状回復(2)

2014-12-09 13:31:33 | 民法総則
 現行法では、無効・取消の際の既履行債務の返還について規定が存在しない以上、一般原理原則で考えざるを得ず、その結果、不当利得返還請求の問題として処理される。

 ところが、不当利得返還請求権の基本的な考えは、「現存利益」の返還である。そのため、極めて極端な例でいうと、例えば売買契約において既に履行が完了していたという事案の場合で売買契約が無効または取り消されると、売主は不当利得返還義務として売買代金相当額を返還すべきはずであるが、給付された売買代金を無駄に使用して既に残っていないというような事案の場合、はたして売主に「現存利益」があるのかないのかという問題が真剣な問題となってしまう。
 しかし、買主の方が目的物を返還しなければならないのに売主は「現存利益」がないという理由で不当利得返還義務を免れるというのは、どう考えてもバランスが悪い。
 他方で、意思表示の無効や取消ではなく、契約の解除の場合は、現行法でも原状回復義務が定められている。そのため、無効や取消のような問題は起きない。
 そこで、解除の場合の原状回復義務を、無効・取消の場合にも導入しようという趣旨が、改正仮案の表向きの趣旨であろう。

 ただし、理論的な問題はそれだけでは済まず、この改正仮案は、民法の基本原理に対して多きな影響を及ぼしていると考えざるを得ない。