実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

訴訟上の和解の既判力(2)

2016-04-28 16:33:59 | 民事訴訟法
 和解に既判力があるということと、和解の効力が争いうるということとは、一見すると矛盾するように感じる。そのため、私が学生だったころは、判例理論たる制限的既判力説には学者からの批判が大きく、既判力否定説が有力であったと記憶していたのであるが、最近は、制限的既判力説を支持する学説も多いようである。
 しかし、既判力の本質や作用をどう説明するかはともかく、確定判決の既判力のように、既判力があるということは、再審事由がない限り、その内容について再び争うことを許さないという点に大きな意味があるはずである。これと同じように考えれば、和解に既判力があるといいながら一定の場合にその効力を争いうるという制限的既判力説は、理屈の上ではなかなか理解しにくい。

 だからこそ、私が学生だったころは、学者は制限的既判力説をあまり採らなかったはずなのである。

訴訟上の和解の既判力(1)

2016-04-20 13:17:20 | 民事訴訟法
 前回までの議論の中で、訴訟上の和解の効力について多少言及したので、改めてここで一言。

 訴訟上の和解が成立し、和解調書が作成されると、その記載は確定判決と同一の効力が生じるとされる。このことは、請求の認諾、放棄でも同じであり、認諾調書、放棄調書の記載は確定判決と同一の効力が生じる。
 では、確定判決と同一の効力がある和解に、既判力はあるのか。判例は既判力があるというらしい。それならば、確定判決の内容を後日争うことができなくなるのと同じように、判例は和解についてその効力を争うことを認めないのかというと、そうではなく、和解の錯誤無効の主張を認めてしまうのである。このような判例理論を、学説は制限的既判力説という分類をするらしい。

和解成立による訴訟終了宣言の無効主張と不利益変更(8)

2016-04-13 11:16:03 | 民事訴訟法
 今回の判例も、よく読むと、「控訴審が訴訟上の和解が無効であり、かつ、第一審に差し戻すことなく請求の一部に理由があるとして自判をしようとするとき」には控訴を棄却せよと言っているので、判例も、第一審に差し戻すことが本来の姿と考えている可能性は十分にあるのではないだろうか。
 ただし、もしそうだとしても、民事訴訟法307条但書を想定すると、今回の判例の事案も、控訴審で自判することも適法と言わざるを得なかったが、不利益変更禁止の問題が生じてしまったということになるのだろうか。

 大変に難しい問題であるが、いずれにしても、手続としては一審に差し戻しておけば何の問題も生じなかった事案のはずである。理論上はともかく、この種の事案において、控訴審は安易に取消自判をすべきではないように思う。最高裁も、結論の当否を仮に置くとしても、差し戻しが原則であることをもう少しはっきりと言っても良かったのではないだろうか。

和解成立による訴訟終了宣言の無効主張と不利益変更(7)

2016-04-06 15:36:06 | 民事訴訟法
 ただし、それでも問題が残るのは、民事訴訟法307条は、例外として、事件についてさらに弁論をする必要がない場合は一審に差し戻さなくてもいいとなっている点である。つまり、訴えを却下する一審判決に対し、控訴審においてこれを取り消すとしても、本案の審理としてさらに弁論を開く必要がない事件であれば、控訴審において自判していいということである。
 弁論を開く必要がない事件とは、既に一審段階で本案の審理が尽くされている事件ということになる。どのような類型の訴訟が想定されるかを多少具体的に言えば、本案の権利義務の内容と訴えの利益が絡んでいて、訴えの利益の有無の判断の前提として事実上本案の権利義務の判断をせざるを得ないような事案が典型事案といえるだろうか。

 この場合は、訴え却下の一審判決に対して、控訴審はそれを取り消した上で本案の判断をしてもいいことになるので、これと同様に、和解成立による訴訟終了宣言判決に対する控訴審において、これを取り消した上でさらに弁論を開く必要がなければ、一審に差し戻さなくてもいいということにもなりそうである。
 ただし、訴え却下に対して控訴するのは、通常は原告である。被告側も控訴の利益はあるとはいわれるものの、通常あまり想定はしがたい。原告控訴事案であれば、不利益変更との関係でも、取消自判もあまり問題はない。ところが、今回の判例と比較する場合は、通常は想定しがたい被告控訴事案で考えなければならない。

 この被告控訴事案の場合、訴え却下判決や和解成立による訴訟終了宣言判決と、一部認容判決との、どちらが不利益かを検討せざるを得なくなるという問題が残ってしまいそうである。