実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

完全復旧

2012-09-28 10:43:14 | 時事
 裁判所ホームページの裁判例情報がようやく復旧したようだ。
 これでようやく裁判所ホームページは完全復旧したのだろう。
 ずいぶん遅い。が、なんとなく一安心。

定期借家契約とその旨を記載した書面の交付(4)

2012-09-25 09:47:21 | 最新判例
 説明文書の交付に関して、もう一つ、今後問題となりえそうなのが、仲介業者が交付する重要事項説明書に更新がない旨の記載がある場合に、これで説明文書の交付があったといえるかどうかである。宅建業法上は、重要事項説明書に定期建物賃貸借契約である場合はその旨を記載しなければならないとなっている(宅地建物取引業法35条1項14号、同法施行規則16条の4の3第9号)ため、正式に宅建業者が仲介していれば、まず間違いなく重要事項説明書には更新がない旨、記載されていることになる。

 もし、賃借人に交付された重要事項説明書に更新がない旨の記載がされていればそれで説明文書の交付としての要件を満たすとすれば、仲介業者を通じて賃借人を募集している賃貸人としては、あとは仲介業者の責任に任せるという方法もあり得ることになる。
 しかし、これは私の実際の感想的なものだが、近年の重要事項説明書は、それ自体非常にボリュームの多い書類となってきている。場合によっては、契約書よりも分厚い書類となっている場合もあり得るのではないか。そのような書類について宅建業者からその内容を逐一説明を受けても、内容をすべて把握しきれない賃借人も多いのではないだろうか。そのような書類の一項目として更新のない契約である旨の記載及び口頭での説明があったとしても、賃借人の意識にとどまらない可能性もあり得そうである。
 そうだとすると、理屈以前の問題として更新がない契約であることだけを記載した文書を賃借人に交付することが丁寧であるし、理屈の上でもそのような文書を交付することこそを、借地借家法は求めているといえるのではないだろうか。

 いずれにしても、今回の最高裁判例の事案に関する限りでは、何も難しい論点はない。法律をその文言どおりに素直に適用すれば最高裁のような結論にしかなりえない。この当然の判決が下級審でなされないことが不思議でならない。なぜなのだろう。


 ちなみに、最高裁のホームページが大部分復旧したようであるが、判例情報は未だに復旧していない。しばらく最新判例は見られないのだろうか。大変に残念である。

定期借家契約とその旨を記載した書面の交付(3)

2012-09-21 11:47:53 | 最新判例
 定期借家に関するこの最高裁判例を見て、私が思い出す経験として、説明文書が、賃貸借契約書の末尾に契約書と一緒に綴じ込まれていた事案を見たことがある。
 これは、無料法律相談で出くわした事案であったため、その後の処理に関わっていないが、既に地裁だったか高裁だったかの判決がなされた段階での法律相談で、説明文書が交付されているとして更新拒絶が認められた判決となっていた。

 その事案でも私が思ったのは、法律の趣旨は、そもそも契約書は見ない人がいる、だから賃借人にも目立つようにあえて契約書とは別文書の交付を要求しているのである。ところが、その説明文書が契約書と一緒に綴じ込まれていては、結局あまり意味がなくなってしまうのであって、あくまでも物理的にも契約書とは独立した書面として説明文書の交付を要求しているのではないのか、それが法律の趣旨なのではないだろうか、ということである。
 今回の最高裁判例を事例判決と見ると、私が相談を受けた事案までには及ばない判例かもしれないが、判旨の中には、「定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃貸人において、『契約書とは別個に』、定期建物賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上、その旨を説明すべきものとした」のが法律の趣旨だと判示している部分がある(ただし、二重カギ括弧は私が挿入)。この判示は、契約書に綴じ込んだのではダメという趣旨も含んで理解できないだろうか。

定期借家契約とその旨を記載した書面の交付(2)

2012-09-18 13:16:29 | 最新判例
 定期建物賃貸借としての更新拒絶を認めた原判決の理由について、最高裁の判決書を読む限りで分かることは、本件契約書には本件賃貸借が定期建物賃貸借であり契約の更新がない旨明記されていることを認識していた上、事前に賃貸人から本件契約書の原案を送付され、その内容を検討していたことを根拠としているようである。
 しかし、法律は契約書を事前に示すことを要求しているのではなく、契約書とは違う説明文書の交付を要求していることは明らかで、法律をどうひっくり返して読んでみても、原判決のような結論にはなり得ない。

 そもそも、定期借家契約をするには、契約の更新がないこととする旨の定めをする必要があり、これは契約上の特約条項となる。そのため、建物を賃借しようとしている人にとっても、その契約内容が定期借家契約なのか否かは、契約書をよく見れば必ず分かるはずなのである。
 しかし、借地借家法が、こうした特約条項を記載した契約書を公正証書などの書面で作成するだけでなく、説明文書の交付も求めているのは、更新のない契約であることを、契約書とは別の書類を交付させることによって、よくよく賃借人に理解させようとするものである。賃借人の中には、契約書の条項を逐一見ない人がいることから、万が一にも更新があると誤解されるようなことのないような仕組みを法律が強制しているのである。
 しかも重要なのは、この仕組みに法律は例外を設けずに、説明文書の交付がない場合、更新のない旨の定めを一律に無効としている、ということである。

 だから、たとえ事前に契約書の原案を見せたとしても、それが契約書そのものの原案でしかない以上、それだけで説明文書を交付したことになならないことはもちろん、定期借家契約を有効たらしめることには決してなり得ないのである。
 この、ばかばかしいくらいに当たり前の結論が最高裁にならないと判断されないというのは、不思議でならない。



 ちなみに、最高裁判所のホームページに不正アクセスがあり、ホームページが書き換えられてしまったとのことのようで、現在、最高裁判所のホームページにアクセスができない。最新判例も見ることができないようである。
 復旧がずいぶん遅い気がする。バックアップを残していないのであろうか。

定期借家契約とその旨を記載した書面の交付(1)

2012-09-14 15:33:29 | 最新判例
 今度は民事の分野であるが、またまた、あまりにも当然すぎる最高裁判決が登場している。その当たり前すぎる最高裁判決が、原判決破棄として登場しているのである。ということは、原判決は、その当たり前すぎる理屈に反する判断をしていたということである。

 事案は、定期建物賃貸借(いわゆる定期借家契約)に関するものである。
 一般には、建物の賃貸借契約では、契約期間が満了しても正当理由がなければ更新拒絶ができないことになっており、これは借地借家法28条に規定されている。しかし、現在は契約の更新がないこととする定期建物賃貸借契約を締結することも認められている。その要件は、公正証書によるなど書面によって契約をすること、及び、賃貸人は賃借人に対して、あらかじめ、更新がなく期間満了により契約が終了する旨を記載した文書を交付して説明すること、である。これが借地借家法38条の1項及び2項で規定されている。とくに、文書を交付して説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効とすると、法律にはっきりと書いてある。これが借地借家法38条3項である。
 今回の判例の事案は、この説明文書の交付がない事案だったようで、そのため、判例の結論は更新拒絶はできないというものである。ものすごく当たり前の結論である。

 ところが、この、ものすごく当たり前の結論が、なぜか高裁段階では認められなかったということなのである。