説明文書の交付に関して、もう一つ、今後問題となりえそうなのが、仲介業者が交付する重要事項説明書に更新がない旨の記載がある場合に、これで説明文書の交付があったといえるかどうかである。宅建業法上は、重要事項説明書に定期建物賃貸借契約である場合はその旨を記載しなければならないとなっている(宅地建物取引業法35条1項14号、同法施行規則16条の4の3第9号)ため、正式に宅建業者が仲介していれば、まず間違いなく重要事項説明書には更新がない旨、記載されていることになる。
もし、賃借人に交付された重要事項説明書に更新がない旨の記載がされていればそれで説明文書の交付としての要件を満たすとすれば、仲介業者を通じて賃借人を募集している賃貸人としては、あとは仲介業者の責任に任せるという方法もあり得ることになる。
しかし、これは私の実際の感想的なものだが、近年の重要事項説明書は、それ自体非常にボリュームの多い書類となってきている。場合によっては、契約書よりも分厚い書類となっている場合もあり得るのではないか。そのような書類について宅建業者からその内容を逐一説明を受けても、内容をすべて把握しきれない賃借人も多いのではないだろうか。そのような書類の一項目として更新のない契約である旨の記載及び口頭での説明があったとしても、賃借人の意識にとどまらない可能性もあり得そうである。
そうだとすると、理屈以前の問題として更新がない契約であることだけを記載した文書を賃借人に交付することが丁寧であるし、理屈の上でもそのような文書を交付することこそを、借地借家法は求めているといえるのではないだろうか。
いずれにしても、今回の最高裁判例の事案に関する限りでは、何も難しい論点はない。法律をその文言どおりに素直に適用すれば最高裁のような結論にしかなりえない。この当然の判決が下級審でなされないことが不思議でならない。なぜなのだろう。
ちなみに、最高裁のホームページが大部分復旧したようであるが、判例情報は未だに復旧していない。しばらく最新判例は見られないのだろうか。大変に残念である。