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実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

譲渡制限特約付債権の譲渡(5)

2018-06-14 12:45:37 | 民事訴訟法
 解説書を読んで、もう一つ疑問に思うことがあった。
 それは、譲渡制限特約付債権について、悪意又は重過失の譲受人に譲渡した場合で、その後、元の債権者である譲渡人に対する債権者が、譲渡の対象となった債権を差し押さえてきた事例についての説明である。
 その解説書では、債務者は、悪意・重過失の譲受人に対する履行義務はないが、債権自体は確定的に譲受人に移転しているので、その後、元の債権者である譲渡人に対する債権者が譲渡の対象となった債権を差し押さえても、いわゆる空振りと評価されるので、(第三)債務者は差押え後も元の債権者(譲渡人)に対して弁済すれば足りるというのである。そして、どうもこの点は法制審議会の議論でもこれで問題がないという前提であったかの如くである。

 しかし、これにはかなりの違和感を覚える。
 譲渡制限特約付債権の譲渡で、譲受人が悪意・重過失であれば、債務者の立場からすれば、元の債権者である譲渡人を債権者とみなせるからこそ、譲渡人に弁済すればいいということであり、債務者からすれば、債権者は譲渡人なのではないのか。その債権が差し押さえられたのであれば、やはり債権差押えの効力としての弁済禁止効が及びそうに感じるのである。

抵当権の時効消滅?(4)

2018-04-19 09:18:47 | 民事訴訟法
 別の角度から説明すると、破産債権は個別の権利行使を禁止しているとはいえ、破産法100条1項の規定からして、破産法に特別の定めがある場合は除かれる。そして、別除権は、この特別の定めに当たるのではないか。ちなみに、相殺権の行使もこれに当たるのだろう。
 そうだとすると、別除権の行使は、債権の個別的権利行使の一つなのである。そして、例外として個別の権利行使を認めている範囲では、免責の効力も及ばないのではないか、ということである。

 免責の効力について、観念上、自然債務化するというか、消滅するというか(さらに、通常はこのような言い方はされないが、個別の権利行使禁止の趣旨を貫けば、訴権や執行力の排除という言い方も想定しうるかもしれない。)という問題はあるが、要は説明の問題に過ぎず、自然債務説を採れば、担保権実行後の満足は、まさに存在する債権の充当という説明になるであろうし、消滅説で考えても、担保権実行時の満足の範囲内では債権は存在するものとみなすという考え方も十分にできる。その解釈の根本には、端的に、例外として債権の個別的権利行使が許された範囲では免責されないという素直な解釈を介在させればいいだけである。

 以上のように、担保権実行も債権の個別権利行使の一つだとすれば、その権利行使すべき債権の消滅時効を観念することは可能なような気がしてならない。そして、担保権の実行としての差押えも、時効中断事由としての差押えに含まれるという解釈のはずである。そうだとすれば、担保権を実行することにより、時効中断措置も取ることができる。
 そうだとすれば、破産免責後の抵当権について、被担保債権の消滅時効を観念して10年の消滅時効として処理することに何の問題もないように感じる。仮に被担保債権が商事債権であれば、時効期間は5年であるから、かなりギャップは大きい。
 また、改正債権法が施行されれば、一般的に消滅時効は権利行使できることを知ったときから5年であり、抵当権を設定するような債権であれば、通常は弁済期を知っているから5年で消滅時効にかかるだろう。対して、債権以外の財産権の消滅時効が20年であることは、改正後も変わらない。そうすると、改正後は、債権以外の財産権の消滅時効と現在の商事債権の消滅時効とのギャップと同じになり、そのギャップの大きさが知れる。

相手方訴訟代理人の忌避(4)

2017-11-29 10:59:27 | 民事訴訟法
 要するに、民事訴訟における弁護士たる訴訟代理人の使命は、公的な使命を帯びているということであり、上記判例も、弁護士法25条1号は、先に弁護士を信頼して協議又は依頼をした当事者の利益を保護するとともに、弁護士の職務執行の公正を確保し、弁護士の品位を保持することを目的としていると指摘する。
 そこで、弁護士法25条1号に違反して弁護士の職務執行の公正に疑義が生じる事態となったときは、裁判官について裁判の公正が妨げられる事情がある場合と同じように考えて、相手方当事者はその弁護士の忌避を申し立てることができるというのが、異議説の本質だと思うのである。つまり、これまで「異議説」という言い方をしてきたが、実は「異議」ではなく、「忌避」なのである。そして、条文上の根拠は、裁判官の忌避を規定した民事訴訟法24条の類推適用となるはずである。

 判例は、民事訴訟法24条の類推は述べていない。それは、「異議」の本質が「忌避」であることにまで思い至らなかったためかもしれない。しかし、排除の裁判に対して民事訴訟法25条5項を類推するというのであるから、その前提として民事訴訟法24条を類推して考えるべきことは明らかだと思う。
 そして、そうだとすれば、排除された弁護士自体が排除決定に対して不服申立ができないのは、忌避の裁判を受けた裁判官自身が不服申し立てできないのと同じことである。

 異議説を忌避説で理解する。これで理論的にも非常にすっきりしたと思っている。近いうちに司法試験でも出題されそうである。

相手方訴訟代理人の忌避(3)

2017-11-22 11:55:34 | 民事訴訟法
 この異議説の理論的問題点に対して、どうやら答えを出してくれたと思われる最高裁の判例が,つい最近登場した。

 どのような形で争われたかというと、被告の訴訟代理人となった当該弁護士が、もともと原告側に賛助していた事案である。原告が破産手続開始決定を受けたことから破産管財人が被告に対して訴えを提起したところ、当該弁護士が被告の訴訟代理人として訴訟代理行為を行ったことから、原告側が異議を述べたというものである。
 直接的な争点としては、裁判所の排除措置に対して、そのことのみを単独で不服申立をすることができるか否かが一つの問題となった。
 論点はいくつかあり、そもそも、相手方の異議とは申立権なのかそれとも単に裁判所の職権発動を促すに過ぎないのか、申立権だとして、裁判所の判断に対してそのことに対する不服申し立てが可能か、可能だとして、誰が不服申し立てできるかが問題となっている事案である。

 判例は、まず、異議は裁判所の裁判を求める申立権だとした。そして、訴訟代理人の訴訟行為を排除する裁判に対しては、自らの訴訟代理人が排除された当事者が民事訴訟法25条5項の類推適用により即時抗告をすることができると判断したのである。しかも、即時抗告は訴訟当事者がなし得るのであって、排除された訴訟代理人自身は、即時抗告することができないという。

 民事訴訟法25条は、裁判官の除斥、忌避の裁判に関する規定であり、5号は、除斥、忌避に理由がないとする決定に対する即時抗告を規定している。判例は、この条文を類推したのである。条文上は理由がない場合の即時抗告しか規定していないが、類推の仕方は、理由があっても訴訟代理人の訴訟行為が排除された側の当事者に即時抗告権を類推するという理解である。
 この、異議権が申立権であることを前提として、民事訴訟法25条5号を類推した点に、異議説の理論が隠されていると思えるのである。

相手方訴訟代理人の忌避(2)

2017-11-14 10:14:02 | 民事訴訟法
 異議説は、相手方当事者が異議を述べれば当該弁護士の訴訟行為は排除されるが、異議を述べなければ当然には無効とせず、有効なまま処理されることから、当該弁護士に依頼した当事者の保護にもなるし、訴訟経済にも合致する。その意味で、具体的妥当性は認められそうである。
 が、私には、異議権を認める法的根拠が乏しいと思われたのである。

 他の考え方として、無効説、追認説、有効説などがあると言われる。
 無効説であれば、弁護士法25条が「職務を行ってはならない」と規定しているので、これを効力規定と考えれば、同条に違反する訴訟委任行為は無効という帰結が取りやすい。追認説も、無効であることを前提としており、ただ、弁護士法25条1号は相手方(相手方という表現が、どちらを指しているのかがややこしいが、前回ブログの貸金訴訟の事例で言えば原告側)を保護する規定である以上、相手方が追認すれば有効になるというのも、比較的理解しやすい。
 有効説は、弁護士法25条を効力規定とは捉えない考え方で、ある意味一貫しており、論理的にも問題は少ない。が、裏切られた本人(原告)の保護に欠けることは明らかである。異議説は、とりあえずは裏切った弁護士の訴訟行為は有効であることを前提としているはずである。それにもかかわらず、異議でその訴訟行為を排除できるというのであるが、有効な訴訟代理行為をなぜ異議で排除できるのか、理論的には一番難しい説だと思うのである。