実務家弁護士の法解釈のギモン

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権利能力なき社団に対する強制執行(3)

2011-06-13 11:12:39 | 民事執行法
 仮に、最高裁が債務名義性の問題として、合わせて一本といったような考え方を採用しているわけではないとして、なぜ最高裁は民事執行規則23条1号が単に「債務者の所有に属することを証する文書」となっているにもかかわらず、確定判決やこれに準ずるような準名義文書を要求したのか。

 これにはいくつかの考え方がありそうである。まず第一の考え方は、規則23条1号が想定しているのは、登記事項証明書の「表題部」に債務者以外の者が所有者として記録されている場合であるが、権利能力なき社団の総有に属する財産の場合、「表題部」ではなく「権利部」に第三者名義で登記されていることが想定されるので、それを覆すのだから、単なる証明文書ではなく準名義文書を要求しているという理解である。
 もう一つの考え方は、「債務者の所有に属することを証する文書」の意味そのものを、書証と考えるのではなく準名義文書の意味だと理解する考え方である。この考え方は、別の部分で非常によく似た争点を思い出す。民事執行法193条の「担保権の存在を証する文書」について、書証説と準名義説の対立があり、この争点と非常によく似ている。
 さらにもう一つの考え方がありうるとすれば、最高裁は準名義文書が必要であるかの如くに判示しているが、これは例示に過ぎないという考え方である。学説の中にはこのような考えも存在するようである。
 私は、最高裁は第一の考え方を採用したのではないかと想像している。なぜなら、仮に債務者が権利能力なき社団ではなく通常の法人格ある人の場合であれば、実質は債務者の財産でも第三者名義のままになっている不動産に強制執行しようとすれば、通常、当該不動産の名義を債務者名義に戻すための本裁判を別途提起して勝訴判決を得なければならないはずである。これとのバランスである。ただ、そうだとすれば、規則23条1号を持ち出す必要性が乏しかったような気もする。

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