実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権法改正-原始的不能と損害賠償(1)

2015-07-29 11:05:13 | 債権総論
 半年くらい前のこのブログで、「原始的不能の消滅?」と題して、原始的不能の契約であっても、契約が有効であることを前提とする債権法改正がなされると説明をした。
 この段階では、要綱案の段階であって、まだ条文化される前の段階でのブログであった。

 ところが最近、ある研究者から、正式の改正案を見ただけでは、必ずしも、原始的不能でも契約は有効であることを当然の前提としている条文にはなっていないという話を聞いた。
 最初は言うことの意味が分からなかったのであるが、条文の内容及びその位置をみると、その研究者の言いたいことが分かる気がしてきた。

債権法改正-契約解除と危険負担(4)

2015-07-22 10:05:38 | 債権各論
 しかし、解除の要件として帰責性を要件としない改正を行ったことになっていることは間違いがないことであり、それが立法者意思だといえる。解除権一元論者からすれば、危険負担の改正規定も「反対給付の履行を拒むことができる」だけであり反対給付は消滅しないのであるから、消滅させるためには解除が必要と考えるようであり、仮に解除権一元論的に考えれば、一応条文相互間の整合性は取れているということになる。
 ただし、危険負担の規定が残ったのは、解除権一元論で本当によいのかという有力な疑問もあったからであって、解除権一元論が本当に妥当なのかどうかは、よく分からない。

 いずれにしても、改正法を前提とした解除と危険負担の関係について、若干ややこしさが残ってしまったといえるであろう。今後の解釈論が見物である。

債権法改正-契約解除と危険負担(3)

2015-07-15 10:32:41 | 債権各論
 改正案での解除の規定は、催告解除の場合と無催告解除ができる場合という整理のし直しが行われ、要件的にも多少の改正はあるが、おおざっぱには従前の解除の規定とそれほど大きい変化はない。当然、条文上、従前どおり法律要件として帰責性の必要性について言及はない。その上で、双方無責の場合の処理として危険負担の規定が残ったのである。
 債権法改正に関する経緯を知らないまま、現行法の条文と解釈を前提とした上で、以上のような改正案の解除の規定と危険負担の規定双方をにらめっこすると、現行法の解釈のように、債務者無責の場合は危険負担であり、解除はそれ以外(つまり債務者有責)の場合という棲み分けのまま改正されたようにも見えてしまうのである。

 これは、現行法でも解除の要件として債務者の帰責性が明文では記載されていないことに原因がある。それでも解釈上債務者の帰責性を要件とするとしていたものを、帰責性を要件としないように立法的に変更しようとする場合に、立法技術的にはどうするか、という問題になってくるのである。なかなかに難しいことはわかるであろう。
 それでも危険負担の規定が全面的に削除となれば、そこから読み取ることはできる。しかし、債務者無責の場合の債務者主義的な危険負担の規定が残ってしまったのである。
 だから、改正内容について、その経緯を知らないままに、現行法とその解釈を前提にそれとの比較で改正案の見た目だけを追うと、解除に帰責性を不要とする改正を行っていることが、非常に分かりにくくなってしまったのである。

債権法改正-契約解除と危険負担(2)

2015-07-10 10:38:10 | 債権各論
 ところが、債権法改正の議論では、債務者に帰責性がない場合でも解除できるようにしようという方向で動いてきた。これはどういうことかというと、契約解除を債務者に対するペナルティーと考えるのではなく、単に解除権者を契約の拘束力から解放するだけだという発想に基づく。
 そもそも、解除とは、平たくいえば契約がなかった状態に戻すだけのことであり、これを債務者に対するペナルティーのように捉えること自体に問題があったともいえよう。そして、契約がなかった状態に戻すだけのことであれば、債務者の帰責性を問題とする必要もなかろうということなのである。

 ただ、解除をそのように捉えて帰責性がなくても解除できるとすると、では危険負担の位置づけはどうなるのか。
 論理的に考えて、帰責性がない場合でも解除で処理できるとなれば、危険負担の仕組みはその役割を終えるのであって、危険負担という発想そのものがなくなるというとらえ方も十分に成り立つ。現に、法制審議会での議論では、危険負担の規定については全面削除するという議論が非常に有力だったそうである。いわば、解除権一元論である。
 しかし、危険負担の債務者主義の規定は残すべきという議論も有力だったようで、結局は危険負担の規定は1条だけ改正の上残すことになった。その内容は、「当事者双方の責めに帰することのできない事由によって履行不能となったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」というものである。

 従来の危険負担の議論は、反対給付が「残る」のか「消滅する」のかであって、「拒める」かどうかではなかった。そのため、この危険負担の改正案に対しては、「これでは同時履行の抗弁と何が違うのか」と疑問を呈した法制審議会の委員がいたとかいないとか……。
 結局は、妥協の産物というほかないのであろう。ただ、要は危険負担の規定が残ることになったことは確かである。

債権法改正-契約解除と危険負担(1)

2015-07-07 10:41:05 | 債権各論
 契約解除に関しては、今回の債権法改正案では大きな発想の転換がある。
 その発想の転換は、債権法改正の議論の当初からいわれていたことではあるが、条文化された改正案をみてもその発想の転換がされたことが分かりにくい状況となっているかもしれない。

 現行法上の解除の要件としては、履行遅滞の場合の催告解除と、履行不能の場合の無催告解除とが規定されている。これら契約解除の要件は、要するに債務不履行の場合の契約解除なので、条文上は明記されてはいないものの、債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合と同様に、現行法の解釈として解除をするには債務者の帰責性が必要と解釈されている。
 では、債務者に帰責性がない不履行の場合はどのように処理されるかというと、危険負担の問題として処理されることになる。つまり、債務者に帰責性のある債務不履行の場合の反対給付の帰趨は、契約の解除という意思表示により契約そのものを解消する方法によることなるのであるが、債務者に帰責性のない場合は、危険負担の問題として反対給付の帰趨を定めるという棲み分けがなされていたのである。

 ここでの契約解除の基本的発想は、損害賠償と並んで、帰責性のある債務者に対するペナルティーの一つという位置づけといっていいのであろう。