実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

会社関係訴訟の被告適格(8)

2015-12-24 09:59:45 | 会社法
 もっとも、会社関係訴訟を提起する原告としては、被告として法が指定している者以外の者を被告として訴えを提起する必要性は全くない。
 しかし、最も真剣に原告の主張を争いたい者、かつ争うことに利益を有する者が、被告として法が指定している者とは限らないかもしれず、新株発行無効判決を争いたい第三者割当意を受けた者や、解散判決を争いたい経営陣寄りの株主が、まさにこのような立場にある。このような者も被告として共同訴訟参加する道を開いておくことこそが、独立当事者参加という技巧的な方法で確定判決を争わざるをえない不都合、そのために適法に独立当事者参加を行うことに不都合が生じる恐れを生じさせてしまうことから解放することに繋がるはずである。

 問題は、仮に以上のとおりだとして、以上の考えを、被告適格を法が法定していることと、どのように整合性をつけるかであるが、私は次のように考える。
 会社関係訴訟を適法に訴えるには、必ず法が被告として指定した者を被告として訴えないと、不適法になる。その意味で、被告適格を法定した会社法の条文は、訴えの適法要件を定めているのであり、彼らを被告とすることが訴訟要件を満たすための必要条件である。そして、必要条件を満たしさえすれば訴えは適法になるので、訴え提起の段階から他の者を被告として引き込む必要性もない。
 しかし、会社関係訴訟を争う利益のある者は法が被告として法定した者だけではない以上、そうした者も被告適格を有すると考えるべきなのであり、法は被告として指定した者以外の者の被告適格を全て否定した趣旨ではないと考えるべきだと思うのである。そうだとすれば、そうした者も共同被告とすることを法は否定しておらず、もし被告とされなければ、被告として共同訴訟参加する道を、法は決して閉ざしているわけではないと考えるべきであり、このように考えることによって、真の意味で被告側(すなわち争いたい側)の手続保障が満たされるのであり、紛争解決の十分条件が満たされるのではないかと思うのである。

会社関係訴訟の被告適格(7)

2015-12-17 10:12:35 | 会社法
 しかしである。
 会社法はなぜ会社関係訴訟に関して被告適格を法定したのか。

 その前にまず、会社法は原告適格も法定しているので、その理由を考えて見る。その理由は簡単で、提訴権者を制限するためであり、会社法上の各種行為の有効性を争いうる者を制限するためである。提訴権者の制限は、いってみれば、会社関係訴訟の一つの存在根拠でもある。

 これに対し、被告適格を法定した理由は、被告適格で争いが生じないようにするためであり、原告適格を奉呈する理由とは全く異なる。そして、被告を法定するに当たっては、被告として対応するのにもっとふさわしいのが誰かという基準で定めているはずである。ここで、被告として誰がふさわしいかは、おそらく、判決の効力との関係で誰を被告とするのが理論性が高いかという理論的な側面と、誰に具体的な応訴活動を行わせるのが最も適切かという実際的な手続保障面との、両面を考慮しながら決めていると思われる。
 以上のように、会社法が原告適格を制限する理由と、被告適格を法定した理由は、全く異なる。そして、提訴権者をあえて制限した法の趣旨からすれば、原告適格を拡張するような理解は、あってはならない。しかし、被告適格は、被告として最も妥当な者が誰かという側面で決めているに過ぎず、それは一般的な基準に過ぎない。そうであれば、具体的な事案において、より真剣に会社法上の各種行為の有効性を主張立証したい関係者が生じた場合に、その者にも被告適格を認めても、特段の不都合が生じるわけではないはずである。そうした立場にいると思われるのが、例えば第三者割当増資の効力が争われた場合の当該第三者であろうし、会社の解散原因を争いたい現経営者支持側の株主であったりするのである。

 そうだとすれば、被告適格については、法は例外を認めていないかの如くの規定ぶりではあるが、例外的に事案に応じて拡張して考えてもあまり不都合はないのではないか。別の言い方をすれば、より真剣に無効原因の存在を争いたい人物がいれば、当該人物にも被告適格を認めることに不都合はないのではないか。法はこうした人物の被告適格まで排除するために被告を法定したわけではないのではないか。
 これが私の発想である。

会社関係訴訟の被告適格(6)

2015-12-10 15:57:43 | 会社法
 仮に詐害防止参加の構造を離れて考えて見たとして、もし、訴訟に参加しようとした人が『請求棄却』を求めるだけでその目的を達するのであれば、そもそも独立した当事者として参加するのではなく、被告として参加できれるのであれば、それで十分なはずである。そうであれば、独立当事者参加ではなく、被告側に共同訴訟参加できないかどうか。これが、私が持っている問題点である。

 ところが、この考え方に対して大きな壁として立ちはだかっているのが、冒頭で述べた、被告適格を会社法が法定してしまっているという点である。もし、被告側に共同訴訟参加するのであれば、参加人には被告適格がなければならない。
 しかし、解散の訴えの被告適格は、法は会社と定めているだけである。これを素直に読めば、他の株主に被告適格があろうはずがない。

会社関係訴訟の被告適格(5)

2015-12-03 11:35:53 | 会社法
 ここでの問題の一つは、これら判例における独立当事者参加の類型が権利主張参加ではなく詐害防止参加だという点にある。

 権利主張参加では、文字通り参加人が自らの権利の主張をするわけだから、請求を立てることに苦労をすることは通常考えられない。
 しかし、詐害防止参加は、訴訟の結果によって権利が害されるというだけであるから、参加人自らの積極的な権利主張ではなく、権利侵害の防止という消極的な作用が想定される。そのため、詐害防止参加では、それ自体積極的な権利の存在を主張することになりそうな、『請求を立てる』こと自体に無理が生じるのではないか、という問題がありそうなのである。解散判決に関する判例は、まさにこれが真正面から問題となってしまっているといえそうな事案なのである。

 そこで、一つの考え方として、詐害防止参加の場合、単に『請求棄却』を求めるだけでも、独立当事者参加の申立をして許されるべきだという考え方もあるらしい。解散判決に関する上記判例の事案では、まさにそうした考え方を前提に独立当事者参加をしているわけだし、当該判例の反対意見にもその様な考え方が存在している。
 しかし、『請求棄却』を求める立場にあるのは被告であって、原告や被告とは独立した当事者として参加する独立当事者参加人が求めるべき判決ではないのではないか、という点に疑問が出てくる。
 そのため、詳しくはよく分からないのだが、この『請求棄却』を求めるだけでいいという考え方は、そもそも権利主張参加(原告・被告双方に請求を立てる場合は、典型的な三面訴訟となる)と詐害防止参加では、同じ独立当事者参加でも構造が異っていると理解して、詐害防止参加は三面訴訟にはならないという理解をするのだろうか。